スカイラインはプリンス・セダンの後継車種として1957年の春に誕生。
1959年に同じボディにより大きな排気量を設定した上位車種のグロリアを派生。
1962年にグロリアが独立、当初のスカイラインのポジションである5ナンバー・フルサイズを
引き継いだのを受けてインターミディエートとしてリポジショニングしたのが2代目S5系です。
こちらは1963年の秋に1964年モデルとして登場したプリンス・スカイライン1500デラックスです。
前期型であるS50D-1で、車両番号は2万7千~と最終型(S57)までトータル11万台が
生産されたS5系の中でも初期生産モデルです。
1966年に日産に合併されたのち、コストダウンを目的としたマイナーチェンジが実施されますが
外観上のもっとも大きな違いはフロントグリルのデザインで、合併後のモデルである
S57/50-3では簡素な横線基調のものが与えられますが、プリンス純血の2型までは
豪華な縦線基調のグリルとなります。
ヘッドライトが規格サイズである以上、ボディの幅が狭いドメスティック・インターミディエートクラス
では均整のとれたデザインは実現出来ない、という定説を覆した屈指の造形美です。
5本の太いフィンと、その間に11本ずつの細いフィンが並び、3本の横線が通る圧巻の
ディティールを見せるフロントグリルは国産車随一の美しさと複雑さを持っています。
美しい字体のエンブレムと、5本のリブが刻まれたベルトラインがリヤフェンダーを飾ります。
リヤのウィールアーチにはスカイライン・スポーツから受け継いだサーフィン・ラインが
流れ、軽快な疾走感を表現しています。
左上に見える丸いキャップが給油口で、燃料タンクはリヤシートとトランクの間に置かれる
背負い式です。
エンジンは1952年に登場した富士精密FGA型にルーツを持つG-1型4気筒OHVです。
1968年まで16年間の長きに渡って30万台以上が生産された名機です。
排気量はブリヂストン石橋会長にあやかって1484(イシバシ)ccとなっています。
最高出力は70ps、定期的な開腹手術が一般的だった当時、いちはやくメンテナンスフリー
を打ち出し「封印エンジン」のキャッチコピーで大きな話題となりました。
電磁式燃料ポンプやウオッシャータンクを除き、きわめてオリジナル度の高いエンジンルームです。
ブレーキマスターシリンダーは安全性を高めるタンデム・タイプが奢られています。
ボンネットの裏側には新車当時の油脂類/空気圧の指示ラベルが残っていました。
エンジンオイルは現在も定期交換が推奨されていますが、デフやウォーターポンプなどの
交換期間も表示されているところが現行車との大きな違いです。
スペースフローとはプリンス自動車と岡村製作所が共同開発した2速自動変速機の名称です。
スペースフロー及びクーラー装着車についてはフロントタイヤの空気圧を高く
設定するように指示されています。
また、バンのV51A(スカイウェイ)については軽積載時と全備積載時で後輪の空気圧を
適宜調整するように指示がなされています。
ボンネットはテンションロッド(つっかえ棒)ではなくトーションバーによって
開いた状態が保持されます。
グロリアに採用されているスプリング方式よりもシンプルな構造でコストを抑えながらも
開閉が容易かつ安全な方式を採用しています。
一般的なロッド式の場合、開閉の度にロッドを操作せねばならず手間が掛かります。
残念ながら日産との合併後はコストを優先して一般的なロッド式に変更を余儀なくされてしまいます。
ボンネット後端部には放熱用のスリットが並び、エンジンルームの冷却に威力を発揮します。
全体的なボディのフォルムは1962年秋にデビューした1963年モデルのフルサイズ・シボレーや
シェビーⅡの影響が強く感じられますが、大きな2灯丸形テールレンズには1952年以来
プリンスの各車が参考にしてきたフォードの影響が色濃く出ています。
1960年代に入ると、大胆な曲面や鋭角なテールフィンが特徴であったレイト50sデザインは
影を潜め、端正な「ボックス・スタイル」や「スラブ・ルック」が流行の兆しを見せ始めます。
50sのトレンドを各所に残したS4系グロリアに対して、S5系スカイラインは1960年代の
新しいデザインを先取りし、均整のとれた3BOXセダンとなっています。
現在まで脈々と受け継がれるスカイラインのアイコン「丸テール」はこのS5系から始まりました。
初代ALSI系後期型はジェット機をイメージした砲弾型でした。
S7系(C-10系)に於いては角型が採用されましたが、C-110より丸形が復活、以来
V35前期を除きスカイラインのテールには丸いライトが輝いてきました。
先代モデルやスカイライン・スポーツのテールフィンの面影を残す張り出したサイドには
リフレクターが埋め込まれ、テール・ストップ・ターンの総てを受け持つ丸形テールレンズには
美しい立体的な飾りが装着されています。
ボディサイズは全長4100全巾1495全高1435mmと5ナンバーの上限数値にかなり余裕を
残したコンパクトなものです。
それでいて単体で見るとまるで大型車のような佇まいを見せる極めて完成度の高いスタイルです。
数値的には幅も狭く、長さも短いのですが絶妙なキャビン形状とサイズや
各部のディティールがそれを完全に隠しきっています。
国産インターミディエート史上、もっとも高級感に満ち、均整がとれた
端正なスタイルのセダンであると確信しています。
ウィールキャップは13inchで、外周に細かなフィンが刻まれており中央部は緩やかな
コーン形状となっています。
複雑かつ高級感溢れるフロントグリルに呼応するかのような繊細かつ上品なデザインで
クラスを越えた存在感を放っています。
自分も1セット持っていますが、長年放置されていたにも関わらずピカールで軽く磨いただけで
輝きを取り戻したクロームの厚さと高品質には驚きました。
フロント・ウィンドウはサイドまで大きく広がった視界が広く、死角の少ない安全なものです。
フラットなダッシュ・ボード上面中央にはスピーカーと灰皿がレイアウトされています。
ダッシュ下部には細いリブの刻まれた美しいガーニッシュが奢られ、グロリアと同じく
ツートーンの洒落たものとなっています。
ラジオの下にはチョークレバーとシガーライターが並び、その下には赤い警告灯が備わった
ステッキ式パーキング・ブレーキ・レバーがレイアウトされています。
ラジオの隣には時計があり、その下には後付けの4ウェイフラッシャとフォグランプのスイッチが
並び、ダッシュ中央下部には空調コントロールが配置されています。
空調レバーはデフロスター/室内と内気循環/外気導入の2つが並び、右側にはファンスイッチ
があり左下にあるヒーターコックで温度調整を行います。
助手席側には車検証や貴重品を収めるのに適したグローブボックスと、手廻り品の整理に便利な
パーセルシェルフ(アンダートレー)が備えられておりファミリーカーとしての心遣いが感じられます。
ウィンドウ・クランクハンドルのステーはS4系と共通ですがツマミは違うタイプになっています。
S5系ではセパレート・シートを標準(STDはベンチシート)として5人乗りとなっています。
当時はインターミディエート・クラスに於いてもベンチシートを備え6人乗りが一般的でした。
プリンスはいちはやくセパレート・シートを採用、余裕のある5人乗りを実現しました。
セパレート・シート+フロアシフトが流行の兆しを見せるのは3年ほど経ってからです。
ステアリングはS4系グロリアよりも一回り小さく、中央には「P」のイニシャルが輝いています。
ライトコントロール、ターンシグナル・レバー、シフトレバーなどのコラム廻りはS4系及び
S6系(A30系)と共通となっています。
上品な白いステアリングは所有する喜びとドライブする誇りを感じさせるものです。
S5系はプリンスにとって初のファミリー・セダンであり、桜井 眞一郎氏を中心とした
技術陣が心血を注いだ空前の傑作車でした。
その高級感溢れる凛としたデザインは上級車に対してもなんら見劣りするところがなく
オーナーや家族に深い満足感を与えうるものでした。
メンテナンス・フリーの実現によって頻繁なディーラー通いをオーナーに強いることを
求めずに済むようになりました。
人間工学に基づいて設計された操作系は誰でも気軽かつ容易に運転することが可能で
ベーシック・カーの基本に忠実なクルマでした。
S5系にとって悲劇であったのはGTの登場があまりにも鮮烈で劇的であったことです。
第2回日本グランプリに於いて1周に渡ってポルシェを抑えたスカイラインGTは
たちまち国産最高峰のスポーツ・セダンとして認知されました。
その一方で4気筒車は影の薄い存在にならざるを得ませんでした。
しかしながらノーズを延長して6気筒エンジンを滑り込ませるという強引な手段で誕生した
GTが高性能を発揮せしめたのは、ひとえにベースとなった4気筒車が優れていたからでした。
S5系以降、4気筒「ショートノーズ」はGTの下位グレードであるとか廉価車種であるといった
誤った認識が広まり、現在も改められてはいません。
「高性能」とは、ハイパワーであるとか最高速が速いといった単純な数値のお遊びではなく
バランスが良く、細部までミスのない設計であることを指すものであると思います。
その点で4気筒車は完成度が高く、まことに素晴らしい車であると言えるでしょう。
