2018年11月25日
「そして誰もいなくなった」はアガサ・クリスティの有名な推理小説だ。かなり昔に単純な過失として片付けられて無罪が確定し、世間も忘れた出来事を、この事件の犯人は「間接的な殺人」と扱ってU.N.・オーエンという、実在しない大金持ちの「お誘い」と称して巧妙に当事者をインディアン島に集めて、当事者に後ろめたさを認識させて、「償うべき罪」と断じて順番に殺害する。犯人自身も、途中で殺害されたフリをするが、実は死んでいない。残った当事者全員は「殺された」と信じる。ちなみにU.N.・オーエンのU.N.はUnknowのことで、「どこの誰とも知らぬ者」の意。
その後も殺害は起こるが、殺害された芝居をしている真犯人は犯人から除外するから、残った当事者の中に真犯人がいると信じて、疑心暗鬼に陥って、残された者同士でも殺人が起こる。死んだフリをしていた真犯人は、最後に、巧妙な殺害と見せ掛けて自殺する。他にインディアン島に出入りした人間は、船の船頭の証言でひとりもおらず、状況から見て誰もが犯人と考えられるから迷宮入りするが、真犯人が自殺する前に事件の全貌を書いた手紙をビンに詰めて海に流し、何年か後に、偶然、拾い上げた船の船長が警察に届け出て、警察を翻弄させるという内容だ。真犯人の身分は、退任した有名・有能な裁判官という筋立てだ。時は既に遅しで、司法は何も出来ない・・・。映画にもドラマにもなった名作のひとつだが、原作をそのまま映像化した映画やドラマは無い。モノクロの映画を見ると怖くなるが、人間はバレないと思っていたことで突然、追いつめられると、自らの保身に必死になって、我を忘れて犯罪に走る。アガサ・クリスティが書きたかったのは、警察と検察と裁判所の怠慢だ。
閑話休題。
テレビに「カルロス・ゴーン、任意同行」と速報が出た時、やっぱりなと思ったのはオレだけじゃないはずだ。
引き際を知らなかったカルロス・ゴーン。文化の違いとか国民性の違い、挙句の果てには「クーデターだ」なんてヨーロッパでは言っているが、司法取引は合法だからクーデターではない。仮に百歩譲っても、せいぜい下剋上だ。けど、ゴーンの下も首の皮1枚。
こと金に関しては人間の本能が作用するから、文化の違いや国民性の違いは関係ない。ゴーンだって、株主総会で「報酬が高い」と突っ込まれたら「複数企業を兼務する外国のCEOや会長はもっと高い」とまくし立てていたじゃないか。
ただルノーの筆頭株主がフランス政府なのが気にはなる。ゴーンはフランス国籍も取得してる。筆頭株主のフランス政府の対応次第では這い上がる梯子はあるということだ。駐日フランス大使が、すぐに動いたことでも分かる。
ルノーと日産を救ったのは事実だが、こんなことをやっちゃあ、すべての功績が無になる。建て起こしたときに間を置いて身を引けばよかったのに、建て起こした日産という巨大な物体が勢い余ってコケて、自分で下敷きになったようなもんだ。「前例」が「反面教師」に変わった。
カビが生えた納豆をゴミの日に出し忘れた日産も日産だ。けど、助っ人の首を馘る訳にはいくまい。それどころかゴーンの言うことには「おんぶにだっこ」の対応をしていたんだろう。子会社まで巻き込んでいる様相を呈してきた。
相手は余計、つけ上がる。日産にも弱味はあるのだろう。この弱味も見もの。その内、出てくる。取締役会や監査法人は何をしていたんだろうと思うが、ゴーンを怒らすと自らが危ない。
そもそも、有価証券報告書は金融庁、言い換えれば国に提出するもので、提出を義務付けられている日産が出す物だ。個人が書く確定申告書とは全く種類も違えばレベルも違う。ましてや個人が作成するはずは無く、会社も監査も誤りが無いか、かなり慎重に調べる。日産の末端の担当者は知っていたはずだ。だって報酬を払ったのは日産自身なんだだろ?ゴーンの報酬額がおかしいと気付かない訳がない。
それに、監査法人が気付かなかったことが不可解だ。
カルロス・ゴーンの指示だと言われれば、白と言われれば黒くても白と書かざるを得ない風土になっていたんだろう。ムカつき続けていたハイレベルの奴が司法取引に応じたんだろうよ。
ここまで来ると、ゴーンのフランス語が理解できていたんだろうか?と馬鹿馬鹿しいことまで疑いたくなる。それどころか、日産自身も関与していた様子だ。ゴーンと日産に、裏で何かの合意があったんじゃねえか?
ゴーンの弁護人が元・東京地検特捜部長だった弁護士というのが笑わせるなあ。OBと現職のどちらに軍配が上がるか。
しばらくの間は、どこまで連鎖するか、何が出てくるか興味深いが、それとて七十五日も経てば噂にもメディアにも出て来なくなっている。庶民には、結局どうなったのかすら、伝わらないかも。
どうせ裁判だって、差し戻し、差し戻しで最高裁の判決が出るころには「なんだったっけ?この話」。そして今の現職は退職して、日産には事実を知る者は、誰もいなくなる。
Posted at 2018/11/27 11:33:06 | |
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