(続き)
さて、前回の図のどこがおかしいのかですが、電気や車の構造に詳しい方ならピンと来たと思いますが、解らなかった方にヒントを。
車好きなら「バッテリーは走行中は充電される」は常識だと思いますが・・・
↑画像はライズオイルのHPより(再掲載)
解りましたか?
そうです、ボディアースからバッテリーのマイナスに電気が戻っている点です。
つまりは、オルタネーターとバッテリーという2つの電源が並列に並んだ「並列回路」だと考えているのです(小学校で直列と並列の違いを勉強する時に学んだ、乾電池を2つ並べて電球を点けるのと同じ)
しかし、これではバッテリーは放電し続けているので、いずれバッテリー上がりを起こします(電流の流れが逆にならないと充電されない)
実は、車のバッテリーはオルタネーターが稼働している限り、
電源ではなく負荷の一つなのです。
これをフロート充電(浮動充電)といいますが、電気の流れは次の図のようになります。
↑公益社団法人日本電気技術者協会の画像を加工したもの(以下、同じ)。停電時とあるのはエンジン停止時(もしくは充電制御車でオルタネーター停止時)と読み替えてください。
という訳で、
そもそもの前提である電気の流れを正しく理解していないのです。
要は「車の電気の流れを知っておこう」と言っている本人が知らないというオチ・・・
面白いことに、「バッテリーでは瞬時に必要な電気を流せないので(コンデンサが必要)」とか言っていたコンデンサチューンもこれと全く同じで、
「車の電気は常時バッテリーが担っている」という素人考えでした。
だから、電気をバッテリーに戻すという間違った発想を持ってしまうのです(本来は、オルタネーターの取付ボルト辺りへ戻さないと意味がない)
実をいうと、文系の自分はその昔、(バッテリーをコップ、オルタネーターを蛇口になぞらえて)コップから溢れた水で電装品を動かしている、というイメージで理解していましたが、多分そういう風に考えている人が多いのではないでしょうか?
しかし、充電と放電を同時に出来るバッテリーなんて、この世に存在しません(もし作れたらノーベル賞ものです)
また、理系でも、中途半端な知識しかない人に多いのが、バッテリーは細かく充放電を繰り返していると考える人。
現に、知恵袋の自動車カテには、
・バッテリーはオルタネーター発電電流のリップルの平滑化を担っていると主張する人(電子回路設計のエンジニアだという人←多分本当)
・オルタの発電能力が間に合わない時が多々あるために、バッテリーが常に充放電を繰り返してオルタを補完していると主張する人
など、基本が解っていない人が圧倒的に多い(※1)
要するに、「コンデンサ」「バッテリー」「三相全波整流」「フロート充電」あるいは「充電制御」という言葉は知っているが、仕組みを正しく理解していない。
確かに車のオルタネーターは三相全波整流で、リップル電圧は多少残りますが、それでも電装品はきちんと動きますし、だいいちバッテリーは大きなコンデンサではありません。
そういう人にはいくら説明しても「文系ごときが何を言う」と言って解ってもらえないと思いますので、こちらをご参照ください↓
https://www.kaise.com/car-info/alt3.html
では、なぜ今までこのような根本的な誤りが放置されたままだったのでしょうか?
もしかしたら、本当に電気や車の構造に詳しい人は、アーシングなんて言葉を聞いても端から興味を持たないか、あるいはバッテリーに戻すと聞いた時点で「アホくさ・・・」と相手にしなくなるので、誰からも訂正されないまま、こういう怪しげな理論がずっとまかり通ってきたのかもしれません(※2)
(閑話休題)
この時点で肝心な理論の前提が崩れたので、「バッテリーのマイナス端子に電気を戻す」という発想のアーシングが、疑似科学であると決定したも同然だと思います。
ですが、ここで話を打ち切ってもつまらないので、実際にアーシングをしたときの効果を検証してみます。
(2)アーシングを行うと、電気の流れはどう変わるのか?
(イ)まずは基本と言われる、バッテリーにアーシングケーブル(赤線)を追加した場合
電気は抵抗の低い方へより多く流れるので、新たに追加した導線の抵抗が低いアーシングケーブルの方へ充電電流が多く流れますが、そもそも純正のアース線と比べ導体抵抗の差がごく僅かなため、流れる量は殆ど変わらないでしょう(同じ長さの場合。下手に長く配線してしまえば、アーシングケーブルのほうが電流量は少なくなる)
一方、この状態では負荷(=電装品)については何ら変化はありません。
強いて言えば、理論上は充電効率がいくらか上がるので、その分負荷へ電気が流れやすくなると言えるかもしれませんが、現実的にはこの程度の導体抵抗の差は無視できるレベルのため、電装品に性能向上の余地はありません。
つまり、そもそもの前提が間違っているから、こういう意味のないアーシングになってしまうのです。
(ロ)次に、負荷とバッテリーの間にもアーシングケーブル(黄線)を追加した場合
新たに設置したアーシングケーブル内をどちら方向に電気が流れるかですが、バッテリーをトランクにでも積んでいない限り、バッテリー側よりも負荷側の方が電圧降下が起きている事が多いので、左向きに流れます。
なので、負荷についても導体抵抗が多少なりとも減るので、これでようやくアーシングの意味が少しは出てきます。
ただし、負荷がエンジンブロックと直結している場合、例えばスパークを改善しようと、シリンダーヘッド付近のエンジンブロックとバッテリーを繋いだ場合などは、逆向き(右向き)に流れることになります。
要は、バッテリーの充電電流(や他の黄線を通って集まった電流)をエンジンブロック、つまりはそれと直結しているオルタネーターへ戻すだけです。
(ハ)最後に、オルタネーターとバッテリーの間にもアーシングケーブル(青線)を追加した場合
この場合は、負荷側とオルタネーターがアーシングケーブルでつながるので、ようやくアーシング本来の意味が出てきます。
もっとも、全ての電気がアーシングケーブルを流れる訳ではありません。
ボディ(鉄)は電気を通しにくいですが断面積は大きいため、導体抵抗の差はそれほど大きくないでしょうから、アーシングケーブルの方に多めに電流が流れる程度だと思います。
更に言えば、(ロ)で指摘したようにエンジンブロックと直結した負荷だと全く流れないし、燃ポンみたいに車両後方にある負荷の場合は殆ど恩恵を得られないので、全体としてどれだけ導体抵抗が減少するかは不明です。
いずれにせよ、「電気をバッテリーへ戻す」という間違った考えを捨てて、電気の流れを考えたうえで配線すれば、少なくとも理論上は全く効果が無いとは言い切れなさそうです。
では、導体抵抗が減ると何が変わるのでしょうか?
(続く)
注釈
(※1)
理系を含めて基本が解っていないカーマニアが多かったからこそ、アーシングやコンデンサチューンが流行った訳ですが、オルタ補完説を採る人の中には、「(充電制御の有無に関係なく)充放電を車側が制御している」という妄想を自信満々で回答する「自称自動車メーカーの電池研究職」なる人までいました。
(※2)
改めてネットで検索しても、大手メディアや自動車ジャーナリストの書いたものも含めて、アーシングに関連して電気の流れを正しく解説しているサイトは見つかりませんでした。
車の電気の流れすら理解していない自動車ジャーナリストが、今や電気自動車を解説しないといけない時代ですから、彼らも大変ですね(もっとも、広報資料を書き写すだけの人が殆どなので、あまり影響ないでしょうが)
それにしても、文系はともかく理系でも半数ぐらいの人は、車(あるいはバッテリーを使うスマホや小型家電)の電気の流れを理解していないようです。
実際、自分の知人で、世間で言う難関大学の物理学科卒で大手電機メーカー勤務の人がいますが、それとなく聞いたら「充電しながら放電しているんじゃないの?」と言っていました・・・(専門はともかく、基礎知識として知らないのはどうなの?)