2021年6月に発売されたFIT e:HEV Modulo Xはもちろん、これまでの「Modulo X」シリーズに採り入れている“実効空力デバイス”は果たして体感できるのか?自動車専門誌でも数多く執筆中の、遠藤正賢が袖ケ浦フォレスト・レースウェイで体感した。
用意されたテスト車両は、FREED(後期型)のベース車とModulo Xのほか、Modulo Xからフロンバンパーだけをベース車のものに交換した3種類の車両が用意されていた。
まずはModulo Xのベースとなっている、Gグレードから試乗。
次にModulo Xの実効空力デバイスが搭載されたフロントエアロバンパーを標準車用バンパーに組み替えた仕様。つまり、実効空力デバイス“レス”の状態。
最後に実効空力エアロバンパーを搭載した市販仕様のModulo Xに試乗する。
さらにFIT e:HEV LUXEと、6月に発売されたFIT e:HEV Modulo Xにも試乗。
試乗したのは20年12月なので、このときはまだプロトタイプだった。
Modulo Xのベースとなったe:HEV LUXE。
試乗時は12月、まだプロトタイプという位置づけの車両だったが、試作の実効空力エアロバンパー、専用の足回りなどがセットアップされていた。
今回の試乗は袖ケ浦フォレスト・レースウェイ。
しかし、ただのサーキット試乗ではなく、1コーナー手前には水たまり、5~8コーナーには左右間約2.3mに設定されたパイロンでの狭路、9コーナーには段差が設けられ、走行環境の厳しい一般道を模したコース設定とされていた。
操舵の正確性を確認できる、パイロンが設置されたコーナー。実際2.3mはかなり狭い。
路面の轍を表現したバンプが設置され、揺れの収束性を体感した。
果たしてベース車とModulo X、そしてフロントバンパー以外はModulo X、それぞれの走りの違いをサーキットで体感できるのか、レポートしていく。
はじめに、“実効空力”とは何かを説明すると、「空気抵抗から逃げるのではなく走りに活かす」という考え方をベースに、徹底した走行テストを通じて、走行中に発生する車体の前後リフトバランスを整え、等価リフトを目指し、空力による直進安定性や旋回性を高めるという、FD2型「スポーツモデューロ シビックタイプR」以来連綿と受け継がれている、ホンダアクセスの開発理念 のことだ。
これによって、クルマは常にフラットな状態を保ち、走りだしから、交差点を曲がると言った日常の運転シーンでも、曲がりの良さや修正舵の少ない運転が可能となる。また、前後のリフトバランスを整えることで、タイヤの接地感の高まりや無駄なピッチングや車体の揺すられも少なくなり、ドライバビリティだけでなく乗り心地にも関わってくる。
もちろん、これらは実効空力のエアロだけではなく、Modulo X専用に与えられた足回りとトータルチューニングされることで得られるものだ。
なお、2020年5月に発売された後期型FREED Modulo X、そして6月に発売された新型FIT Modulo Xでは
・車体の下側中央に速い空気の流れを生んで直進性を高める
「エアロスロープ」
・ホイールハウス内の空気の流れを整えて内圧を低減しサスペンションの動きを良くする
「エアロボトムフィン」
・ホイールハウスから発生する乱流を整えて旋回性能を高める
「エアロフィン」
この3つが、”実効空力デバイス“と呼ばれ、いずれ もフロントバンパーに設けられている。
最初はFREEDのベース車でコースイン。現行型二代目FREEDは2016年9月のデビュー当初から走りのトータルバランスに優れており、2019年10月のマイナーチェンジで高速域の直進性も改善されたことで、幹線道路や高速道路を走る分には申し分のない仕上がりになっている。
そうした素性の良さは今回の試乗でも感じられたが、わずかな操舵ミスが即パイロンタッチにつながる5~8コーナーの狭い道を通過しようとすると、ステアリング操作に対する反応の遅れや揺り返しが感じられるため、ややペースを落とさざるを得なくなる。また9コーナーの段差では、後輪からの強い衝撃が運転席にもハッキリと伝わってきた。
次に、フロントバンパーをベース車のものに交換した実効空力デバイスレスのModulo Xに試乗すると、ベース車よりもむしろ1コーナー進入時の直進性も操舵時の正確性も悪化し、コントロールしにくくなっていたことに、しばらくの間戸惑ったというのが率直な本音だった。さらに5~8コーナーではベース車以上のペースダウンと慎重な操作を余儀なくされ、9コーナーの段差を乗り越えた際は一層強い突き上げとともにオーバーステアの予兆を見せたのを何度も体感すると、“実効空力”がなくなったことでそれを前提にセッティングされたサスペンションとのバランスが崩れた、と考えざるを得なくなった。
そして、完全な状態のFREED Modulo Xに乗ると、ベース車やフロントバンパー以外Modulo Xの車両で感じられた、狭い道での頼りなさがウソのように雲散霧消。ベース車よりも操舵時の正確性が大幅にアップするとともに、ムダな挙動が出ないスッキリとした乗り味になり、5~8コーナーを遥かに速いペースで修正舵をほとんど当てることなく通過できる。9コーナーの段差でも、車体の揺れがすぐに収束するため、オーバーステアの予兆は見られず、安心感は絶大だった。
そして何より、身体に伝わるショックが圧倒的に少ないことに驚かされたのだ。
この後、ベース車、フロントバンパー以外Modulo Xの車両、Modulo Xの後席に乗ってみると、Modulo Xは修正舵が最小限で済むため旋回中の揺り返しが少なく、また段差通過時の突き上げが上手くいなされていることをより明確に感じ取れた。
だから、ドライバーのみならずModulo Xの後席に乗った人も、長距離長時間のドライブに出掛けてもきっと疲れ知らずで過ごせるだろう。
裏を返せば、フロントバンパー以外Modulo Xの車両は、修正舵による左右の揺れも段差での突き上げも大きいため、もし市販されていたら往復1時間程度の買い物でも車酔いしてしまいそうだった。
FREED Modulo Xの開発を担当したホンダアクセスの湯沢峰司(ゆざわたかし)さんにこのことを伝えると、
「ダウンフォースによってサスペンションに若干のプリロードが掛けられた状態になり、サスペンションの動きがスムーズになるため、ハンドリングだけではなく乗り心地も良くなる」とのこと。
だが、「ダウンフォースを掛けすぎても、タイヤのたわみやサスペンションの縮みが阻害され、タイヤの空気圧を高めにした状態に近くなるので、その塩梅は鷹栖プルービンググラウンドなどを走り込んで煮詰めてきた」のだそうだ。
トータルでチューニングされているコンプリートカーは、“実効空力”エアロ、専用サスペンション、どれが欠けてもModulo Xの乗り味は出せない、ということを思い知らされたのだった。
そして最後に、FIT Modulo Xプロトタイプにも試乗した。
ベース車は操舵レスポンスもロールの出方も穏やかな特性だが、Modulo Xプロトタイプは好対照。操舵時の応答性・正確性ともに高く、かつ安定性にも優れ、自信を持って意のままにコントロールできるハンドリングを備えていた。
たかがフロントバンパー、されどフロントバンパー。もちろんフロントエアロバンパーだけが、Modulo Xの乗り味を作っているわけではないが、今回の試乗を通じ、その形状一つで旋回性能や直進安定性、さらには乗り心地まで大きく変わることを体感できたのは、大きな発見であった。
しかも、開発担当の湯沢さんの言葉を借りれば、「サスペンションは製造公差を詰めるのに限界があり経年変化もするが、エアロなどの外装部品は損傷しない限り何年乗り続けてもほとんど形状が変化しない」ということ。
だからこそ“実効空力”には、そのクルマに乗っている間、定期的にメンテナンスせずとも半永久的に効果を得られるという点でも、大きな意味がある。
さらに言えばこの“実効空力”は、今回の試乗コース路面がキレイなサーキットよりもむしろ、舗装が荒れてギャップが多く道幅も狭い一般道の方が、走り出した瞬間からその効果を体感しやすい。
あらゆる路面環境で誰もが安心して楽しめることを目指してセッティングがなされたModulo Xシリーズ。開発アドバイザーの土屋圭市さんもホンダアクセスの開発者の皆さんも、Modulo Xは厳しいコンディションの公道を見据えて、テストしているのだという。皆さんもぜひ、公道で“実効空力”と専用チューンの足回りがもたらす乗り味をぜひ味わってみて欲しい。