まとめ記事(コンテンツ)

2024/04/20

GRエアロスタビライジングボディコートと三段論法(改訂版)


トヨタの担当者によれば、理屈はアルミテープチューンと一緒で、『空気は+の帯電をし、ボディも+の電荷を持つ。磁石の同じ極同士を近づけたときの反発力と同じことが起きて、本来ボディラインに沿って流れる空気が、ボディから剥離し、ボディと空気の流れに隙間ができて、その隙間のせいでクルマが上下左右に動き、不安定感や遊びの原因となる。
そこで「GRエアロスタビライジングボディコート」を塗ると、ボディの帯電による悪さがなくなり、風洞実験や、CFD(数値流体力学)通りの空力効果が得られる』んだそうです。
更に、これもアルミテープと一緒で『低速域から違いが分かります』とのこと。
本当なら凄いです。

で、低速から違いが解る理由として、次のように説明しています。『例えば、団扇。団扇の速度は秒速30cmぐらいですが、空気の抵抗は感じますよね。秒速30cmは時速にすると1.08km。たった1km/hでも、1800mm×1400mmのクルマのボディ(前投影面積)が動けば、微低速でも空気の抵抗はけっこうあります。だから空気の流れがちょっとでもよくなれば、動き出しからだって変わります』

ここまで聞いて、「なるほど、確かに扇子程度でも空気の抵抗は感じるんだから、車の抵抗はたとえ微速域でも相当なものだよな。うん、これは期待できそうだ!」と思った方は、素直というか、もしかしたら詐欺に引っかかりやすいタイプかもしれません(※1)


三段論法をご存知ですか?
三段論法は、西洋の哲学者アリストテレスが提唱したものです。
大前提:全ての人間は死ぬ ◯
小前提:ソクラテスは人間である ◯
結論:ゆえにソクラテスは死ぬ ◯
で有名ですね。

一方、トヨタの担当者の話は、
大前提:帯電は空力性能に悪影響を及ぼす ◯
小前提:たった1km/hでも、車の受ける空気抵抗は大きい △(ここで論理が少し飛躍)
結論:ゆえにGRエアロスタビライジングボディコートを塗って除電すれば、低速域からでも違いが分かる ✕(都合よく飛躍しすぎ)
という訳で、実は三段論法になっていません。

解りやすい事実を並べて相手の関心を惹きつけ、都合よく丸め込む・・・なんだか投資セミナーの説法を聞いているみたいですね。


まあ冗談はともかく、真面目な話をすると、この隙間というのは(流体力学で言う)境界層の増大と剥離のことを指しているらしく、大雑把に言えば「境界層剥離を抑制できれば、空気抵抗(=抗力+揚力)が下がるので、車が揺さぶられない」という理屈のようです。


↑アルミテープのときのマスコミ配布資料の一つ(境界層の厚さ)
《どのように計測されたデータなのか解りませんが、帯電の有無(2KVと0V)で、確かに境界層厚さに違いが見られる(帯電ありの境界層の厚さδは15ミリ辺りだが、帯電なしだと10ミリ辺りに縮まっている)。ただ、現実的な排除厚さδ*を図から推測すると、せいぜい1ミリ程度の違いだろうし、アルミテープの有無で2KVと0Vの差が出るわけではないので、効果を視覚的に訴えるための大げさな図です》


まず最初に、常識的に考えて、この僅かな境界層の厚みの差が、飛行機やリニアの世界ならともかく、トヨタの言うように、20~30km/hのような低速域(更には動き出し)からでも解るほどの走りの違いを本当に生むのか?という疑問が浮かびます。

また、そもそも論として、実際にアルミテープを貼るだけで完全放電できるのかという疑問も残ります(図はあくまで帯電の有無での違いを示しただけで、アルミテープの有無によるものだと勘違いしてはいけません)



↑同じくアルミテープのときのマスコミ配布資料(境界層の増大、剥離)
《「マンガ流体力学入門」なんかで最初に出てくるような、初歩的かつ単純化されたモデルの説明。確かに飛行機の翼を横から見た2次元図なら、これで説明できるのでしょうが、実際の車はもっと複雑な形状をしています。境界層(の風の流れ)の話も適当に端折ってる感じだし、それと、この図だと帯電していなければ剥離が起きないとでも言いたげですが、現実にはせいぜい剥離点をいくらか後方に移動させるだけでしょう》


結局のところトヨタの理論は、「効果が感じられた」という幾人かのテストドライバーの主張を基に、流体力学の基本的な理論を断片的につなぎ合わせて、先の団扇の話と同様にもっともらしく説明しているだけの「ツギハギ状態」であり、流体力学の専門家からは鼻で笑われる戯言レベルではないでしょうか?(※2)

そもそも、ボディを見回しただけでも、ドアミラーやルーフアンテナ、ドアハンドルなどの目立つ突起物があるし、モールやパネルの隙間(チリ)だってあるし、下回りを覗けば突起物だらけだし、タイヤのような回転体もあるので、ボディ表面の空気の流れは複雑です(※3)

しかも、ただ空気をきれいに流せばそれでいいかと言うとそうでもなく、ゴルフボールのディンプルみたいに、わざと乱流を起こして剥離点を制御することで飛距離を伸ばすとか、流体力学の世界は、実際にはもっと奥が深い(「学生時代に流体力学を少しカジった事がある」という自動車ライターが、アルミテープの理論を得意げに解説していましたが、そんな簡単な世界じゃないということ)

だいいち、帯電するだけで、低速域から車を上下左右に揺さぶるほどの大きな力が車体に働くなら、とっくの昔に誰かが気づいてそのメカニズムを解明し、「ナントカの法則」なんて名前が付いているのではないでしょうか?


ともかく、これがオカルトでないと言うなら、実際に効果がどれだけあるのかを
具体的に示してもらいたいですね。

今時は空洞実験室がなくても性能の良い汎用の流体解析(CFD)ソフトがあるようですが、トヨタともなれば立派な空洞実験室を持っているのだから、帯電の有無で「どれだけ空気抵抗が改善するか」は簡単にデータが取れるハズ。
また、コンピューターシミュレーション全盛の今は、ドアの開閉フィーリングのような感性領域に至るまで数値解析しているのだから、「(帯電を抑えることで)どれだけクルマの無駄な動きが抑えられるか」というシミュレーションをするのも簡単なハズなのに、
それを何故やらない(公表しない)のでしょうか?(※4)



↑一番左のキャラは?(ブログの内容とは関係ありません)


有名な大手企業が、機能性表示食品を「個人の感想です」を免罪符にしてバンバン売る時代です(営利企業ですから当たり前です。それを否定はしません)

あのトヨタが言っているんだから間違いはないだろうとか、効果があるからこそ特許も取ったんだろう・・・ではなく、自分で考える癖をつけることが重要ではないでしょうか?


注釈
(※1)
自由落下ではないので、質量が大きいほど空気抵抗による影響は小さくなり、逆に質量が小さいほど空気抵抗による影響は大きくなります。
誰にでも解りやすいように説明するのは大事ですが、団扇と車をさも同列であるかのように説明するようでは、詐欺師と一緒です。

アルミテープの説明のときにも、飛行機の放電索をあたかも空気抵抗改善のためにあるかのように説明していましたが、機体に静電気が溜まると、放電する際に電磁波が発生し、無線通信機器などの電子機器に障害が発生する危険性があるので、これを放電するためにあるのが放電索です。

(※2)
放電することで境界層が薄くなり剥離が抑えられ(←ここまではまあ理解できる)、それによりクルマを上下左右に揺さぶる力を抑えることができる(←この結論に至るメカニズムや実際の効果の程度が不明なため、全く理解不能)

メカニズムも十分に解明されていないうえ、肝心の効果も定量的に測定されたものではないため、大学の卒論ならまあ許されるだろうが、修士や博士論文ならまず通らないレベルだと思う。

(※3)
空力改善を目指すなら、アンダーフロアやリヤのホイールハウスに自作カバーを付けて、いっそドアミラーすら畳んで走ったほうが、よほど効果があるでしょう。
もちろん、GRコート(あるいはアルミテープ)を施工したら「走り出しから安定感が増した」と言う人は、窓を開けて走るなど論外です。

(※4)
Youtubeで比較走行動画を公開しているようですが、コメント欄をみればわかるように、あれでは本当の比較にはなっていません(ハンドルの切り方やブレーキの踏み方、風向や風速などが同一条件ではないため・・・よく見るとメーターなどを隠していますので、侵入スピードも違っているのではないでしょうか?)

元レースドライバーの評論家でも呼んで、走った感想を述べさせる程度にしておけば良いものを、この動画はちょっとやりすぎです。
https://www.youtube.com/watch?v=yzkiVhyG6qM&t=5s

トヨタさん、こんな事続けてたら、マジでJAROに言いつけられるじゃろ?
Posted at 2024/04/20 17:11:07

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