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警部補のブログ一覧

2013年05月25日 イイね!

「17th PCT」第X話「Addicted」

「17th PCT」第X話「Addicted」 色々な犯罪を見てきたけれど、まさか私がストーカーに遭って、更には拉致までされるとは思ってもみなかった。

「婦警さあん………そろそろ食べてよ…………お腹空いてるハズだよ………」
青年が私の口にサンドイッチを突きつける。私は顔をそむける。何度目だろうか。決して私が自ら口を開くことはないことを、この青年は理解できないのか?大体、今は婦警という呼び方はしない。
「ほら………ほらあ!!」
私の顔を細い手で掴み、私の口にサンドイッチをねじ込もうとする。私は抵抗する。口に入った分を吐き出し、青年の顔に吹き飛ばす。
「またそういうことするんだ………」
青年がスイッチを握る。私は身構えた。私の首にはめられたリングから電撃が走る。
「ぐっ、ううっ!」
声を出せば思う壺だ。私は身を捩らせ、堪える。しかし今回ばかりは、だいぶ青年の気に障ったのか、今までよりも長い。
「婦警さんが悪いんだ…………なんであの時みたいに優しくしてくれないんだよお…………」
青年が泣きそうな顔をする。泣きたいのはこちらだ。大体優しくした覚えもない。面識がない。しかし、悔しいが私も今度ばかりは限界の様だ。
「うあああああっっ!!」
口が開く。叫ぶ。体が跳ねる。気が遠くなった。





一週間程前か、気のせいか誰かに見られている気配は感じていた。そして、恐らく二日は経ったろうか。夜、一人で車で帰宅していた時、目の前に人が倒れているのを見つけた。注意深く近寄ると、後ろから襲われた。一人、二人と倒した直後、後頭部にかなり衝撃を受けた。恐らくバットかなにかで殴られたのだろう。よく死ななかったものだ。そして今。窓も時計もないので、昼なのか夜なのかも分からない。恐らく、二日は経っているだろう。私は身ぐるみ剥がされ、しかし素っ裸にひんむかれた状態ではなく、代わりに白い拘束具の様な服と、首に電撃を加えるリング状の装置をつけられていた。とても良い趣味とは言えない。そして時折姿を現すこの青年。細くてとても犯罪者には見えないが。しかし、この部屋一面には、私の写真がところ狭しと貼られていた。どうも私の隠れファンらしい。優しくされたとかいうのは、きっと写真やらなにやらを見てる内に、自分の世界でその気になったのだろう。私を拐った目的を聞いても、ただ私といたいだけらしい。これは厄介だ。







昼夜車を走らせ、無線が入る度に聞き入るが、関係のない情報や事件ばかりだ。女が行方不明になって二日。しかしまだ公開捜査にはならない。アイツのスープラが放置されていた場所からは手がかりは何も出なかった。その代わりに、俺の好物のスコーンと、血痕があった。
「係長………あの」
「なんだ」
「そろそろ、昼飯にでも………」
助手席の34が遠慮がちに声をかけてくる。そうか、もうそんな時間か。腹が減っては戦はできぬ。俺は直ぐに目に入ったファーストフード店に車を入れた。
女が、「気のせいか誰かに見られている気がする」と言ってきた時、俺は本気にしなかった。まさかこんなことになるとは。何年デカで飯を食っているのだろうか。この職業、恨まれることは山ほどある。

犯人め。タダで済むと思うな。






青年が、私の銃を弄くっている。間違って引き金を引かれてはたまらない。私は声をかけた。
「言っとくけど、それ、弾入ってるのよ。間違ったら大ケガするわよ」
青年は言った。
「知ってるよ。シグザウエルP230、32口径。婦警さんにはぴったりのピストルだね」
そう言って、安全装置を外しスライドを引くと、銃口をこちらに向けてくる。指はトリガーにかかってはいないが、非常に悪い気分だ。
「そろそろ帰してくれないかしら?あまり無断欠勤すると、ボーナスに響くわ」
「それは大丈夫だよ。だって、婦警さんはここで僕とずっと暮らすんだし、面倒は僕が見る。婦警さんはここにいてくれればいいんだ」
爽やかな笑顔だが言ってることはとんでもない。どうにかしなければ。
「僕は一目見た時から、婦警さんが好きになっちゃったんだ。ぶっちゃったのは悪かったけど、婦警さん強いからああでもしないと」
青年が近づいてきた。手は動かせないが、足ならなんとかなるので蹴りでも入れてやりたいが、その後がどうにもならない。
「あの女の子にしてたみたいに、僕も頭を撫でて欲しいなあ…」
あの女の子…?そういえば、小学生の女の子が落とし物を分署に届けに来て、たまたま私が預かって…。それも見ていたのか。そんな近くいたと思うとゾッとする。
「ねえ………撫でてくれる?」
青年が自分の顔を、私の顔に近づける。手には電撃首輪のスイッチ。
「少なくとも、この状態じゃ無理ね」
「婦警さんが暴れないって約束するなら、腕動かせる様にしてあげる」
「するわ」
「いや、嘘だね」
そう言って離れる青年。無茶苦茶だ。
「でも、いつか婦警さんは絶対僕の頭撫でてくれるよ」
そう言って青年は笑った。







「係長、ちょっと私のパソコン見て貰えますか?」
シノダが俺のデスクまで来て言った。俺はシノダのデスクまで行く。ゆうたろうがこちらを伺っている。権兵衛と34は捜査に出ている。近隣の署からの応援も含め、極秘に捜査本部が設置されていた。
「なんだ?」
「ある掲示板なんですけど……」
「俺はそういうのは分からん。何か見つけたのか?」
「名前は出てないんですが、恐らく女さんのことが書かれていると思われます」
「何っ」
シノダは椅子に座ると、パソコンを操作した。聞き耳を立てていたゆうたろうも寄ってきた。
「内容は、知り合いから高額のバイトをしないかと声をかけられ、手伝った。女を襲った。それは刑事だったと書かれています」
「警部補、こいつは……」
ゆうたろうが息を飲む。書き込まれた内容を読むと、犯行時の行動が書かれていた。当然場所等は書かれていなかったが、俺たちが推測していたのとほぼ同じだった。
「他に、画像があがってました。女さんの写真じゃないんですが…」
シノダが開いた画像は警察手帳と拳銃だった。手帳はバッジのみを写していた。銃はシグの様だった。女もこれと同じ物を持っている。
「…シノダ、本部に報告してくれ。そしてこれを書いた奴がどこのどいつか調べるんだ」
「はい」








「…婦警さん」
声をかけられ、ハッとした。迂闊だった。眠っていた様だ。さすがに飲まず食わずで電撃をくらっては体力の消耗も激しい。
「だいぶ疲れてるみたいだね」
「そうね、誰かのせいでね」
「だって、婦警さん何も食べてくれないんだもの」
確かにそれもそうだ。これ以上体力を消耗しては、抵抗する気力も起きなくなる。悔しいが、食事は受け入れることにした。薬でも盛られないことを祈ろう。しかし一切外からの音は聞こえない。防音がしっかりしているのだろうか。今何時で、ここは一体どこなのだろう……。







三日目の夕方。といっても、もうじき夜が来る。

今日は一人で捜査している。掲示板に書き込んだ奴の身元が割れ、朝早くからしょっぴいて聴取。ゆうたろうが締め上げてる。余程の意識がないと、人は不思議と秘密を喋りたがる。今回はそれに助けられた。
「「分署から分署17」」
無線で呼び出される。
「分署17、分署どうぞ」
「「ゆうたろうだ。女の居場所が分かったぞ」」
「何!」
その場所は、ある廃工場で分署からそう遠くない場所だった。舐められた物だ。
「「至急パトを向かわせ、包囲する」」
「そんな悠長なことをしてられるか」
「「落ち着け。準備するまで待つんだ!」」
「なんにしろ俺が一番槍だっ!」
俺は回転灯をルーフに放り、直6エンジンを唸らせた。







今回の食事に、やはり何か混ぜられていたらしい。どうも頭がぼやける。それに体がだるく、力が入らない。今までの言動から体を狙ってはいないと思っていたが、やはり腐っても男。目の前に女がいれば、手を出したくなるか。
「婦警さん、どお?頭の中、気持ちよくない?」
「………知らない…の…今は……婦警って言わないのよ……」
言い返してみるが、どうも呂律が回らない。青年は息をやや荒くして、私の体をなで回す。覚えてなさいよ。
その時だった。何かを壊す大きな音が聞こえた。今まで何も聞こえなかったこの部屋に初めて外部からの音が聞こえた。
「なんだ!?」
青年は慌てて部屋を出た。音の原因を確かめに行ったのだろう。







我ながら派手な登場の仕方だった。刑事ドラマ宜しく、サイレン鳴らして壁をぶち破って踊りこんだ。女が危険に晒されるとか車が傷つくといった思考は働かなかった。土埃が舞い上がり、それをヘッドライトと赤灯が照らす。車から下りると同時に銃を抜いた。女は、この内部に作られた部屋に囚われているとのことだ。パソコンの掲示板に書き込んだ男の供述によると、主犯が、バイト代をたんまりやるから手伝えと言ってきた。ある女を襲った。そしてここまで運んできた。所持品から刑事と分かった。主犯には隠れて銃とバッジの写真を撮り、つい面白半分でインターネットに投稿したのだという。俺は駆け足でその部屋まで来ると、思い切り足でノックした。
「警察だっ」
怒鳴る。しかしそこは無人であり、そして部屋一面には女の写真が貼られていた。






「来てよ!来るんだよ!」
襟元を掴み、私を引きずりあげようとする青年。しかしあまり筋力がないのか、かなり苦労している。まったく力を入れない大人は重い。片手には私の銃を持っていた。青年がようやく私を起こす。青年はいつも現れる方向とは別の方向に進んだ。隠し扉があった。そこから出る。通路の様だ。また扉を開ける。風を感じる。今度は外に出た様だ。暗く涼しい。そして暗闇の中で所々灯りが見える。どうやら夜の様だ。青年が私を引っ張る。足がもつれる。口の中に砂っぽい味が広がる。遠くから気のせいか、懐かしい音が幾重にも重なり聞こえる。サイレンだ。
「くそっくそっくそっくそっくそっ!!!」
青年が声を裏返す。先ほどの音と、そしてサイレンにかなり動揺している様だ。チャンスと感じた私はなんとか力を振り絞り青年の手から逃れると、
「だああああああああああ!!」
喉が壊れるかと思うような声を勢いに、渾身の回し蹴りを青年の顔面に食らわせた。青年共々地面に倒れる。受け身が取れず、かなりの衝撃を食らった。なんとか立ち上がろうとする。しかし、威力が不十分だったのか、青年の方が早く立ち上がった。土と鼻血でグロテスクになった顔は、怒りと悲しみが入り交じった様な顔だった。私の髪の毛を掴み、そして私の額に銃口を押し付ける。息がかなり荒い。汗と血が私の顔に落ちる。手が震え、銃も震えている。

その時、リボルバー独特の撃鉄を上げる音と、低く押さえた声が聞こえた。サイレンよりも懐かしく、そして心地良い声。
「警察だ。銃を捨てろ」
その声の主を青年は睨み、叫んだ。
「……………そうか、アンタか!アンタが…………!アンタさえいなけりゃ!アンタさえいなけりゃ婦警さんはさあああ!!!!」
私の髪を掴んでいた手が離され、私はまた地面に倒れた。
「銃を捨てろ。捨てれば、助けてやる」
「あああああああああの世に行けええええええええええええええええええええ!!!!!!」

銃声











「先に行ってろ」



銃声は44マグナムの重々しい音。そしてその声は、夜のベイエリアの灯りに照らされた、彼。私の上司でもあり、最も――――。


「大丈夫かっ」
抱き起こされる。
「………そい」
「…なに?」
「おそぉい……!」
まるで酔っぱらいが駄々を捏ねる様だ。呂律が回らないから仕方ない。彼は苦笑した。
「ああ、すまない。遅くなった」
「遅いわよぉ………!」
顔が歪む。痛みのせいじゃない。目が霞む。薬のせいじゃない。喉が震える。土埃のせいじゃない。悔しいけど、涙が出てきた。
「ああ、悪かった」
彼はただそう言って、私を強く抱き締めた。幾多のサイレンが夜を包んだ。





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Posted at 2013/05/25 22:31:10 | コメント(2) | トラックバック(0) | 「17th PCT」 | その他
2013年04月16日 イイね!

「17th PCT」第X話「AN EVENSONG」

「17th PCT」第X話「AN EVENSONG」「お、雨か。降ってきたか」
「冷えますね~」
「さっさと帰りたいところだが、そうも行かんわな」


「あ、部長。2ケツで無灯火ですよ」
「ガキンチョか。赤灯が見えない程目が悪いワケじゃあるまい」
「自分行ってきます」


パンッ パンッ パンッ

「おわっ!?なんだっ!?銃だっ!!」


「ばっかヤロウがあ!新米、大丈夫か!」

「おい、新米?」

「新米、撃たれたか!しっかり押さえてろ、おい、大丈夫かっ。至急至急―――――」








「………長」

「う…………」

「…係長、30分経ちましたよ」


00:30

助手席から俺を呼ぶシノダの声に、現実に引き戻される。外は、こちらも雨だ。暖かくなってきたとはいえ、やはり夜の雨は冷える。車のエンジンをかけて暖房を入れたくなったが、今はそうもいかない。
「おお、すまん。…動きは」
「ありません」
「うん」
シノダに頷く。後部座席にいるはずの34がいない。
「34はどうした?」
「そろそろ係長が起こしてくれって言ってた時間だからって、コーヒー買いに」
「そうか」
「…………係長、なんだか苦しそうだったですけど、体の具合でも悪いんですか?」
「いやなに………ちと悪い夢を見てな。昔のことだ」
「夢ですか?」
シノダが不思議そうに言った時、後部座席が開き34が乗って来た。
「お疲れ様です。係長」
そう言いながら、俺とシノダに缶コーヒーを渡す34。
「係長、どこか具合でも悪いんですか?」
シノダと同じことを聞いてくる。これから手入れだと言うのに、肝が据わってきたと言うかお人好しと言うか。
「大丈夫だ。シノダにも同じことを聞かれた」
シノダがくすりと笑う。俺は携帯無線機を取った。
「こちら警部補、ゆうたろう、調子どうだ」
『今のところ動きなし』
「了解。女、そっちはどうだ」
『こっちも変わりなし』
「了解、以上」
今夜は本庁の手入れの支援ということで駆り出された。とあるクラブが、裏で麻薬を扱っている確証を押さえた。そして今日ここで取り引きが行われるという。一気に押さえてしまおうというのだ。本庁、月島署、臨海署、湾岸署、そして17分署の体勢だ。本庁と月島・湾岸署の捜査員がクラブ内、臨海署と俺達が外を固める。俺は腕時計を見た。手入れまでまだ時間はある。
「いや~、しかしやっぱ緊張しますね」
34が言う。言葉の中に緊張感とどこか期待感が感じ取れる。
「俺の具合を心配してくれた二人にゃ、話してやるか」
俺は呟く様に言った。
「はい?」
34が、首を伸ばしてくる。
「さっきの話だ。夢を見てた。昔のな」
俺はタバコを吸おうと、エンジンキーを回し電気だけを流し、窓を少し開けた。シノダは缶コーヒーをドリンクホルダーに置いた。
「俺がまだ新米だったころだ。パトロールで、こんな雨の夜だった。部長と二人だ。赤灯回したままパトの中で少し休憩してた」
俺はタバコを出し、火をつけた。
「そしたら、向こうから2ケツのチャリが来た。無灯火で。部長とバカだなあなんて言いながら、俺はパトから出ようとした」
34は、缶コーヒーを手にしたまま話を聞いている。
「そうしたら、乾いた音が連続で聞こえた。間髪置かず、俺はもの凄い衝撃に襲われた」
「え。それって」
シノダが言う。俺は窓の隙間からタバコの煙を吐き出した。
「銃だった。フロントに三発。内二発が、助手席にいた俺に当たった。部長は無事だった」
34が生唾を飲み込んだらしく、音が聞こえた。
「9ミリだった。サタデーナイトスペシャルなんて安物じゃない。…丈夫に産んでくれた親に感謝したよ」
フロントガラスに落ちる雨水。溜まり、重さで筋を引く。

「その後、緊急配備で機捜がすぐに捕まえてくれてな。調べたら、その少し前に、部長と別の先輩が職質で麻薬所持で挙げた奴等の仲間だった」
「麻薬…。……あ。…あの、係長は、その現場には…」
34が険しい表情で言う。
「居なかった。狙いは部長だった。俺は一人だけで巻き添えをくったってことだな」
「………」
黙りこむ34。シノダは辺りに視線を回しつつ、聞いている。
「神様が改めて注意しろと教えてくれたのかもしれん。麻薬は繋がりが多い犯罪だ。仲間がわんさかといる。挙げれば、警察としてと個人的に恨みを買うことがほとんどだ」
「はい…」
34の声は重い。
「シノダは、確か麻薬の手入れの経験はあったな?」
「はい、一度だけ」
「手入れの際、運良く逃げちまう奴がいるかもしれん。野次馬やら回りの奴に、悪い奴の仲間がいて、俺たちのことを仲間に話すかもしれん。どこどこのデカがあいつをパクったと」
俺は短くなったタバコを捨てた。
「自分だけじゃない。市民だけでもない。仲間も守るためだ。気を引き締めてかかれ」
「はいっ」
「はい」
34とシノダが答える。その時だった。無線の向こうから本庁の刑事が喚いた。
『こちら統括!各待機は突入し検挙せよ!突入せよ!!』
「係長?」
「くそっ、どういうことだ。行くぞ!」
俺は車を飛び出した。


「おっ、なんだなんだ、このヤロっ」
ゆうたろうがおどける様にビール瓶で巨漢を殴り倒す。
「はっ!」
女の脚線美がチンピラの腹を捉え、段ボール箱の山を崩す。
「えいっ!」
特殊警棒でヤクザ風の腕からナイフを叩き落とすシノダ。
「とああっ」
肩車の要領で売人をテーブルに投げ飛ばす権兵衛。
「ゆわっしょーうっ!」
わけの分からない喚声と共に双手刈でスキンヘッドを捕まえる34。
現場は混乱していた。売人、買い手、騒ぎに便乗したチンピラ、素人、そして警察官。
「うらあああ!!」
一人の不良風の男がかかってきた。正直麻薬柄みなのかただのノリの奴かは分からなかったが、来る以上は相手をするしかない。これも公務だ。俺は一歩踏み出し、男の伸びてきた腕を左手で払い、右手で当身をくわらす。
「のわああああっ」
かかってきた時と同じぐらいの喚き声でふっとぶ不良。騒ぎが収まるまでしばらくかかった。

危うく本星を逃がす所だったが、臨海署の捜査員等が捕まえてくれた。安積という強行犯係の係長と、交機のスープラ隊の速水という小隊長だ。俺はその二人とは顔見知りで、警視庁では有名人だ。相変わらず派手なカーチェイスをやらかしたらしい。人のことはいえないが。

手入れがご破算になりかけた内訳はこうだった。クラブ内の担当だった湾岸署の青島という刑事が、クラブ内で暴行の現場を発見。本庁からは手を出すなと言われたが、我慢できず飛び出し湾岸署と名乗り確保したそうだ。この手入れの中では間違った行動ではあるが、しかし、警察官としては当たり前の行動だと思う。34も手柄を挙げた。奴が確保したのは買い手の組織の中でも幹部クラスの人間だった。本庁は本星を逃がしたことにかなりカッカしていたが、安積等からの確保の無線に途端に態度を変えた。
「やれやれ…」
その姿に、思わずため息が出た。事態の収集は本庁に任せ、俺達はさっさと帰ることにした。


翌日。
「34、昨日は大手柄だったな」
俺は34のデスクまで行った。頬に絆創膏をつけた34が顔をあげる。
「い、いやたまたまですよ、本当。たまたま捕まえてみたら、あいつだったっていう……」
「しかし、これでお前も有名人だな」
「え…?」
34が不思議そうな顔をする。俺は空いている手近な椅子に座り、話を続けた。
「あの幹部を捕まえたのが、お前だってことさ。悪い連中の中にも名前が知れ渡ったってことだ」
「ゲッ」
34の顔が青くなった。俺は34の肩を叩いた。
「有名人ってのは、冗談半分だ。逆に言えば、アイツを挙げたってことでお前を恐れる奴もいるさ」
「はあ……」
34は複雑な顔をした。まだまだ、この若者にとって警察官とは前途多難な様だ。

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Posted at 2013/04/16 23:46:55 | コメント(1) | トラックバック(0) | 「17th PCT」 | その他
2013年03月31日 イイね!

「17th PCT」第X話「LOVE SOMEBODY」

「17th PCT」第X話「LOVE SOMEBODY」いつもの一回り。今日は俺と権兵衛がペアだ。警部補は何か用事があるのか、出掛けている。今朝は幸い何事もなく過ごせた。署に戻り、軽く事務をこなし、少々早いが昼飯を用意した。

11:52
「ね、ゆうさん」
「なーにー?」
「今日来る新人知ってる?」
「新人?」
俺は昼飯のピザをかじりながら、女に答えた。
「あ~、新宿署の刑事課からだっけ?」
「そっ」
「それが、どうかしたの?」
「なんでも、ずーいぶん可愛いコらしいわ」
「それで、ウチの係長殿が一人だけでそのコを迎えに行ったのが気に入らんと?」
「べえ~つに~。でも、異動する人間をわざわざ迎えに行くなんて、随分と優しい上司ぶりなことで」
実に分かりやすい態度で自分のデスクに戻る女に、俺は苦笑いしながら、ピザをコーヒーで流し込んだ。


俺は警部補とは随分長い付き合いになるが、アイツの女運の悪さも随分と見てきた。正直、今の女との仲もどうなるかと心配していたが、まあ、なんとかなりそうだと思う。


「ゆうたろうさん」
どうも今日は昼飯をゆっくり食えない。今度は34が話しかけてきた。
「今日来る新人さんって、どんな人なんです?僕全然知らないんですよ」
「新人ったって、警官としちゃお前より先輩だよ。新宿署の刑事課の巡査長だよ」
「なんだあ~。ようやく後輩ができるかと思ったのに~」
「あっはっはっ。その代わり、結構可愛いんだか美人らしいぞ?」
「え!?」
「なんでも、どっかの歌手だかアイドルにそっくりなんだとか」
「えーっ。だ、誰ですか!?」
「それは来てからのお楽しみだろう。しかし、そんなんだから、警部補がわざわざ迎えに行ったことに、ウチの女巡査部長様はご立腹みたい~。うふ」



13:07
「おーう強行犯係、ちゅうもーく」
刑事部屋に入るなり、警部補がそう言った。
「えー、今日からウチの係に配属になる、新宿署から来たシノダ巡査長だ」
警部補の傍らに立つ一人の女性が一歩前に進み、15度の敬礼を行う。
「新宿署刑事課から異動になりました、シノダです。宜しくお願いします」

「いっ、er34でっす!」
誰に言われることもなく、34が立ち上がり自己紹介をする。
「宜しくお願いします」
シノダが34に笑顔を返す。なるほど、アイドルはよく知らないが、確かに中々可愛いらしいんだか美人だ。
「こいつね、パヒュームのファンなんだよ。でもシノダの方にビビッときたようだ」
「Perfumeです!って、なな、何言わすんですか!?」
「というワケで、俺はだらしな権兵衛だ。宜しく」
「宜しくお願いします」
権兵衛が挨拶する。
「俺はゆうたろうだ。一応ここの二番手、あーいや、三番手だ。で、二番手は…」
俺も挨拶しながら、やや不機嫌なままの女に振る。
「こちらの女史~」
俺に話を振られた女は、「なによ」と口だけを動かし、椅子から立ち上がった。
「別に…、二番手でもなんでもないわ。女よ。宜しく」
「宜しくお願いします」
頷きかける女に、シノダは態度を変えることなく挨拶をする。しかし、警部補も大人になりきれてないが、女もそうだな。ま、人の事は言えないが。
「みんな挨拶は終わったな。まあ一応改めると、俺がこの強行犯係の係長、警部補だ。宜しく頼むぞ。…………ちーなーみーにー」
そう言うと、シノダの傍らにいた警部補が女の傍に行く。
「俺と女巡査部長様はこーゆー仲だから」
「ちょおっ!?」
言うなり、女の肩を抱き寄せる警部補と、すっとんきょうな声を出す女。
「おお~」
囃子の拍手を送る俺と権兵衛。シノダは少し、34は大いに驚いた顔をした。
「なっ、何、何?」
「そおゆーわけで、俺以外はチョンガーだから是非仲良くしてやってくれ」
34はまだ困った様な顔をしているが、経験の違いかシノダは愛想笑いをしている。


17:12
「じゃあシノダ、明日からは34に管内の詳しいことを教わってくれ」
「了解です」
「えーっ!ぼぼぼ僕ですきゃっ!!」
警部補に案内役を指名され狼狽する34。
「明日から宜しくね、34君」

「ふぁい!」



18:13
がらりとした刑事部屋。今日は当直にあたるのは誰もおらず、俺も帰り支度をしていた。といってもなんやかんやで定時はとっくに過ぎている。
「お疲れ~」
「おう」
まだ書類を整理している権兵衛に声をかけ、刑事部屋を出る。廊下を歩き、ふと喫煙兼休憩所を見る。すると、警部補と女がいた。壁に隠れ、こっそりと聞き耳を立てる。

「あー☆とか、きゃー♪………みたいな声、アタシが出すと思った?」
「う~む、一応期待したんだがな」
「ばっ!………ばっかじゃないの」
「まあそう怒るなよ」
「怒ってないわよ」
「前にも言ったが、今はお前しかいないんだからさ」
「……」
「あっ」
「…なによ」
「何かついてる」
そう言うと、女の顔に自分の顔を近づける警部補。女の耳辺りに手を持っていったかとおもいきや、その頬にキスをした。
「フッ」
口を少し歪め笑う警部補。途端、片手で顔を覆いながら、もう片手で警部補をしばきまくる女。なんやかんや言って、今後も上手く行きそうだな。


To be continued
Posted at 2013/03/31 00:15:38 | コメント(3) | トラックバック(0) | 「17th PCT」 | その他
2013年01月30日 イイね!

「17th PCT」第X話「Heartbeat Of Life」

「17th PCT」第X話「Heartbeat Of Life」 僕は、背中にそれを隠しながら係長のデスクに近づく。書類と睨めっこをしていた係長が顔をあげた。
「どうした?」
「係長、どうですこれ?」
僕は久々に仕上げた力作を係長に差し出した。車の形をしたぬいぐるみだ。「ぬいぐるま」という商品名で売られてる物もあるが、それはかなりリアルに作られているけれどそれに負けないぐらいの出来だ。
「なんだこりゃ?パトカーか?」
「はい!あえて道路パトを作ってみました」
「何作ったあ?自分でか?」
「ハイ!」
「なんだぁ、字まで縫ってある。上手いモンだ」

僕はここぞとばかりに胸を張る。けれども係長は苦笑する様に言った。
「いつまでも彼女ができんワケだ」
「え!?どっ、どーゆー意味ですかそれ?」
すると女さんが寄ってきた。
「あら、カワイイじゃな~い。これ、34君が作ったの?」
「え?ええ、ハイ、まあ……」
それを見ていた係長が言った。
「その様子じゃ家でひらひらのエプロンつけて何でもできそうだな?」
「あら、女の子は家事ができる男の子は大歓迎よ?」
女さんはそう言いながら、僕が作ったパトカーのぬいぐるみを犬や猫を可愛がる様にしている。係長が続けた。
「そりゃ君はそうかもしれん。しかしだな、そんなんじゃ女は寄ってこないぞ~」
「どうしてですか?」
「だって、男が家事がなんでもできて、更に自分より上手くできたら面白くないだろ?私は必要じゃないのかなー、と思うかもしれない。趣味でぬいぐるみ作れる男はそうそういないぞ?」
「いや、僕は手先器用なんで、成り行きと言いますか……」
女さんが、ぬいぐるみを僕の頭に押し付けながら言った。
「今時の男の子は違うのよ」
「そんなもんかねえ」
「あ、ところで34君。これ私にくれない?この人の家の中、殺風景でね~」
女さんがぬいぐるみを両手で持って言った。見かけとは裏腹に可愛い仕草と思ってしまう。
「え?あ、あ~…その」
「何?」
「え~と、一応あげようかと思ってる人がいてですね…」
「あ~!アレでしょ、墨東の」
「え!?いや小早川先輩になんてそそそそんなことおもおもおも」
「あら、墨東の小早川さん、とは言ってないわよ?」
「あばばばばばばばばばばば」
狼狽する僕に、係長が腕時計を見ながら言った。
「おい。そろそろ、権兵衛と巡回行ってこい」
「えっ?あっ、は、はい!」
「権兵衛!」
「はいよ。34、行くぞ~」
係長から声をかけられた権兵衛さんがデスクから立ち上がり、ドアへ向かう。僕もすぐに追った。


13:15、昼食を終え、再びパトロールに戻る。今日は権兵衛さんの運転するギャランで動いている。権兵衛さんが片手で缶コーヒーを飲みながら言った。
「最近はこの辺りがやたら物騒だな」
「でも、その場で対処できる事件なんで助かりますね」
「コロシだと帳場が立つからな」
権兵衛さんが気だるそうに片手でハンドルを握る。正直、僕も皆も疲労が積み重なっていた。最近、突発的な事案が頻繁なのだ。逆に各署はパトロールを強化しているので、幸いにもそのほとんどをその場で対処できている。しかし、僕がいるこの17分署の管内ではこの二週間近く、かなり凶悪な事件ばかりだ。早い話、犯人が拳銃を使っている事件がほとんどだ。地域課、そして僕ら刑事課は生きた心地がしない。こんな事がいつまで続くのだろうか。けれど、そんな状況の中でもぬいぐるみなんかを作る暇がある。いや作れてしまう。普通の神経なら無理だ。僕もすっかり警察官という生活に馴染んでいると感じる。そんな事を考えていると、権兵衛さんの声に現実に引き戻された。
「あらら、おいおい!引ったくりだ!」
「え?」
権兵衛さんの視線の先を追うと、そこは歩道で、黒いダウンジャケットを着た男がマウンテンバイクに乗り、手には赤い手提げバッグを持っていた。その後ろでは、毛皮のコートを着た丸いご婦人が金切り声をあげていた。
「行くぞ!」

権兵衛さんがアクセルを踏み込み、ギャランが加速する。僕はシートベルトを外し、回転灯をルーフに載せる。普段なら歩道に乗り上げて道を塞ぐ所だが、こんな時に限って路駐と人混みがある。ダウンジャケット男を追い越し、少し引き離した所でギャランが急停車した。権兵衛さんが言った。
「そら行けっ」
「行きますっ!」
僕もいい加減慣れた物だ。言われなくとも意図を理解できる。飛び降りるとまさにナイスタイミング、真横からダウンジャケットにタックルをかました。二人揃って盛大に転がる。しかしダウンジャケットはまだ諦めていない。奴はすぐに立ち上がると走り出した。僕もマウンテンバイクを払い除け、追う。
「まあてーー!けーさつだーーっ!!」
転がった際にぶつけた節々が痛むが、気力でねじ伏せる。陸上をやっていたわけではないが、昔から足には自信がある。けれどもダウンジャケットも必死で、中々の足の速さだ。
「くぉらあああああああああ!!!」
僕が怒鳴る。ダウンジャケットは一瞬振り返ったが、止まる気配はない。待てとか止まれと言って、言うことを聞く犯罪者はまずいない。腰のグロックで撃ってやりたいがそうもいかない。ダウンジャケットは角を曲がり、狭い裏路地に入る。刑事ドラマ宜しく、ゴミバケツを蹴飛ばし、飛び越え、追う。男が路地が出ようとしたその時だった。赤灯を回したギャランが現れ、ドアがダウンジャケットを殴り倒した。権兵衛さんだった。
「うりゃーーーーーっっ」
僕は吹っ飛ばされたダウンジャケットに組み付くと、そのまま袈裟固めをかけた。これは余程体格の差や力の差がないと逃げられない。
「俺はドアを蹴破るタイプじゃないんでね」
権兵衛さんが、出しかけた銃をホルスターに戻しながら言った。
「ドアで殴るタイプですか?」
僕は冗談を返すが、少しだけ息が上がっていた。



17:21、今日はこれで帰れそうだ。係長からも帰って良いと言われた。椅子から立ち上がると、女さんに声をかけられた。
「34君、忘れ物よ?」
「え?あ、すいません」
それは僕が巡回前に自慢していた「ぬいぐるま」だった。からかわれていたのと捕り物があったことで、すっかり忘れていた。
「美幸ちゃんによろしく~」
「みっ!?やっ、いや、だ、だから違いますってば!」
苦笑いして誤魔化すが、実はその通りなのだ。小早川先輩には、尊敬と…その先は言うまい。僕は実に単純な理由だが、パトカーに乗りたくて警察官を目指し、運よく採用された。地獄の警察学校を卒業し、初任の署での交番勤務を終えて希望した先は交通課だった。理由は勿論、パトカーに乗りたいからだ。願いが叶い、墨東署の交通課に配属された。そこで、小早川美幸さんに出会ったのだ。容姿端麗であり、何よりも車がとても好きな人だった。だからこそ尊敬するが、色々と接してもらう内に、次第に……。ふと顔がにやけていることに気がつき、頬を引張り引き締めながら、玄関を出て駐車場に向かう。僕もいい加減良い大人だ。風が冷たかった。僕の愛車は、ホンダのトゥディだ。これも小早川先輩の影響だ。
「けれど、小早川先輩は…」
そう、小早川先輩は、白バイ隊の中嶋先輩と…。それでも、想いは変わらない。僕は彼女を尊敬している。それは間違いない。自嘲の溜息が出た。真面目に仕事をしていれば、いつか小早川先輩と同じくらい素敵と思える人と出会えるかもしれない。そんなことを考えながら、トゥデイのドアを開けた。



To next time
Posted at 2013/01/30 21:53:23 | コメント(2) | トラックバック(0) | 「17th PCT」 | その他
2013年01月28日 イイね!

「17th PCT」第X話「ROCK MY LOVE」

「17th PCT」第X話「ROCK MY LOVE」 「えー?」
シリンダーが回り、ハンマーが弾丸を叩く。ダブルアクションで発砲。
「だからさあー!」
発砲。スライドが後退し廃莢。
「何ぃー?」
発砲、俺のスミスは弾切れ。ゆうたろうのベレッタにはまだ残弾がある。熱くなったシリンダーをスイングアウトさせロッドを押し込み廃莢、6発の44マグナムの空薬莢が落ちる。そして台に置いたスピードローダーで装填する。ただでさえイヤープロテクターをしているのに、更に射撃をしながら会話しているのだ。地下鉄の車内の方がまだマシに会話できる。
「何だって?」
手首の振りで満腹になったシリンダーを戻し、銃を構え、先ほどと同じ様にダブルアクションで発砲する。
「お前と!女!」
ゆうたろうは焦れた様に連射した。再びスライドが後退し、9ミリパラベラムの空薬莢がリズミカルに床に転がる。
「いったい!」
スライドが後退したままになり、弾切れを知らせる。マガジンリリースを押し、空になったマガジンを外す。
「いつ結婚するんだ!?」
発砲、着弾が狙いより僅かに逸れた。6インチでシングルアクションで発砲しても逸れていただろう。奴の言葉が、やたらはっきり聞こえたからだ。


再び装填し、銃をホルスターに入れる。射撃場を後にし、刑事部屋まで戻る。丁度昼時だ。
「この署内でお前達の仲を知らない奴なんてもういないぜ?いい加減決めちまえよ」
「そーだなー…」
ゆうたろうの言葉が耳に痛い。小指で耳の穴を掻きながら生返事を返す。俺だって考えないワケではない。しかし、お互い不思議なことに、そう言った単語はどちらとも出てこない。喫煙兼休憩所に通りかかると、そのお題となってる女が缶飲料を片手に、リモコンでテレビのチャンネルを回していた。
『お昼やーすみはーう』
『今のお台場の気温は』
『元気ハツラツ!オロナミンC!』
『今日は何の日、ふっ』
『この事件に対し警視』
『ファイートォーー!!』
『のゲストはこのか』
『イエェェェェェェェェイ』
女は俺たちに気がつき、リモコンを持ったままの手を軽く振った。俺は頷きかけるように応えた。アイツが飲んでいるのはきっと甘いジュースだろう。見かけによらず甘い物には目がない奴だ。刑事部屋に戻るが、強行犯係は誰もいない。権兵衛と34はパトロール中だ。


女と出会ったのは、この分署が初めてだった。女は当時、内務調査に属しており、俺の係をターゲットにやって来た。成る程、確かに他の刑事達より成果を上げているかもしれないが、それに合わせだいぶグレーラインの仕事だろう。俺の心情としては、悪党相手には「やり過ぎ」なんて言葉は必要ないと考えている。当然、女とは衝突も衝突を重ねる。しかし、彼女もただの杓子定規ではなく、やはり「警察官」である。俺の行為を許しはしないが、理解はしてくれた。そして、知らない内にお互いに想う様になり、現在に至る。しかし、あいつが異動願いを出して俺の所に残ったのには驚いた。


14:49、ゆうたろうを連れ、分署17、俺のスカイラインでパトロールに出ていた。最近はやたら物騒な事件が多い。先日も、女と34がハリウッドばりに派手なカーチェイスと銃撃戦をやらかしたばかりだった。少々腹が物足りなかったので、車を止めホットドッグをかじりコーヒーを啜っていた。ゆうたろうが欠伸を噛み殺しながら言った。
「ところでさ、結婚話なんだけど」
「またそれか」
「今まで付き合ってきた女の中でも、一番上手く行ってるじゃないか」
「まあなあ」
「一緒に飯食って風呂入って寝てさ。あ寝る前に特命係長か。もういい歳なんだから」
「ご心配ありがとう。お前の方はどうなんだよ?」
「俺はもとっくに諦めたからいいの」
俺は空気を入れ替えようと、窓を開けた。外の冷たい空気が入ってくる。
「ま確かに、ハッキリさせないととは思う…。ただ」
「ただ?」
「今までがさ、結婚って単語出すと、何故か決まって別れるハメになる」
「ま、そうだったよなあ」
「分かってんだから、言うなよ」
「いやでも今度はきっと上手く行くって!」
「まその内考えるからさあ」
その時だった。向かい側に見える銀行からけたたましい非常ベルが響き、同時に銃声が聞こえた。周囲の人間が何事かと振り向きあるいは立ち止まり、店の中から飛び出して来る者もでてきた。俺とゆうたろうが目を凝らすと、銀行前に停まった一台の外車が気にかかった。ドライバーは派手な髪型でミラータイプのサングラスをしている。更にそいつは、しきりに銀行の入り口を気にしている。アクセルを吹かしてる様で、車体が揺れている。その位置からなら歩道も突っ切れる。俺は言った。
「あれ、仲間だな」
「だろうな。応援呼ぶか?」
「騎兵隊を待ってる暇はない」
俺は残ったホットドッグとコーヒーを口に押し込むと、空になったカップを投げ捨て、エンジンをかけると同時にギアをドライブに入れサイドブレーキを外し、アクセルを踏み込みスカイラインを発進させる。

同時に、阿吽の呼吸でゆうたろうが回転灯をルーフに載せる。犯人らに気づかれぬ様にサイレンは鳴らさなかったが、瞬く間に外車に接近すると歩道に乗り上げ、その外車の進路を塞ぐような形で停車する。
「降りろ!」
ゆうたろうが飛び降り、ドライバーに銃を向ける。ドライバーは、いきなり赤灯を回した車が現れそして銃を突きつけられたことに面食らった様で、口を開けたまま固まってしまった。降りもしないが両手を挙げたまま動きもしない。俺もショルダーホルスターから銃を抜きつつ降りる。すると銀行から、帽子を被りマスクをつけ、そして大きなバッグを下げてショットガンを構えた男が、ステップを踏むように後ろ向きに出てきた。
「んごくな!」
俺はまだ口の中に残るホットドッグの屑を飛ばしながら怒鳴り、銃を向ける。男は振り向き様にこちらに向けて発砲してきた。それとほぼ同時に俺も発砲した。ほとんど反射的だ。被弾した犯人はどつかれた様に後ろに引っくり返る。一応は銃を向けた時点で右肩を狙っていたが、果たして何処に当たったかは分からない。俺は運良く無傷だった。
「ああーああー!?」
いきなり、ゆうたろうが慌てた声を上げる。処置が甘かった。俺たちはショットガン男に気を取られ、その隙に共犯の外車は逃げようとした。ドライバーは外車を後退させ、他の車に衝突するのにも関わらず、そしてタイヤから白煙を上げスカイラインをかわして逃走を開始した。すかさず俺とゆうたろうが外車に向けて、タイヤを狙い連射する。しかしドラマや映画の様に簡単にはいかない。バンパーに穴を開け、テールランプを砕き、トランクを羽上げた所で右後輪を捉えた。ハンドルを取られた外車は消火栓に衝突し横転した。破損した消火栓が盛大な噴水となった。
「あっち頼む。俺はショットガン野郎を見に行く」
俺はゆうたろうにそう言うと、ゆっくりとショットガン男に近づいた。俺の弾丸は狙い通り、右肩に当たっていた。マスクは苦しかったのか外した様で、まだ若そうな顔が見えた。男は冷や汗を流しながら倒れており、ショットガンは手から離れていたが、僅かな距離だった。転がったカバンからは、奪ったであろう札束が溢れていた。男は近づいた俺を見上げ、そしてショットガンと見比べる。俺は銃のハンマーを起こし、それを奴の頭に狙いをつけながら言った。
「昔、この場面とそっくりな映画を見たことがある。勿論、倒れてるのは銀行強盗で、そいつに銃を向けてるのは主役の刑事」
男は俺を睨んだ。俺は続けた。
「お前、銃は詳しいか?俺が持っている銃が何発撃てて、今までに何発撃ったか分かるか?」
男は俺を睨む目をショットガンに移す。俺は言った。
「だがな、こいつはマグナム44といって、今でも世界最強の拳銃の一つだ。お前の頭なんざ簡単に吹っ飛ぶんだ。さあ、どうする?」
男は再び俺を睨み付けた。その手が僅かに震えている。俺を睨む目は逸らされ、しかしショットガンに移ることもなかった。俺は銃を下ろし、ショットガンを拾い上げた。遠くから、サイレンの音がいくつか聞こえてきた。
「……おい」
男が掠れた声を出した。
「ハッタリだろ?」
ひきつった笑顔を浮かべる男に対し、俺は再び銃を向け、そしてハンマーを起こした。シリンダーが回る。男のひきつった笑顔が、今度は声のでない叫びに変わった。そして俺はトリガーを引いた。
「ひっ!?」
男は目を瞑った。しかし44マグナム弾が奴のドタマをぶち抜くことはなかった。男は恐る恐る目を開いた。俺は笑みを浮かべ、背を向けた。男が何か言った気がした。一番に駆けつけたパトカーはうちの署の物だった。駆け寄ってきた係員にショットガンを渡した。
「ああ~もお~びしょ濡れだぜ」
悪態をつきながら、ゆうたろうが戻ってきた。
「だからお前をそっちに行かせたんだ。濡れたくなかった」
俺は笑いながらそう言い、銃のシリンダーをスイングアウトさせ、手の上に廃莢させた。弾は一発だけ残っていた。しかし奴が舐めた口を利いたので、リボルバー特有の動作を利用し脅してやったのだ。









22:18、後片付けに始まり書類の作成、そして他の連中の書類を整理し、ようやく帰宅した。明日は公休で、できるだけ処理できる書類は処理しておきたかった。女は先に帰っていた。当たり前だ。俺が先に帰したのだ。食事は済ませていた様だ。アイツは料理が苦手で、食事は外食か出来上がってる物を食べる。俺も同じだ。上着を脱ぎ捨てホルスターも放り出し、ソファーベッドに座った。目の前のテーブルの上に、帰り道で寄ったファーストフード店で買ってきたバーガーとコーヒーを紙袋から取り出した。

「またハンバーガー?」
女がソファーを挟み、俺を背中から抱く。手にはカクテルグラスを持っている。中は濡れていた。XYZを作ったのだろう。俺は体のこともあり酒は極力控えているが、女はイケる口だ。
「俺もそうだが、誰かさんが料理できないからな」
「何よソレ、嫌味?」
「それ以外は完璧なんだがね」
「悪かったわね」
女はそう言いながら、微笑んで俺の頬にキスをした。俺も女の頬に返し、お互い喉を鳴らす様に笑う。ふと、ゆうたろうとの話を思い出した。結婚の単語を言ってみようか。そう思った。
「…なあ」
「なあに?」

女が、自分の頬を俺の頬にぴったりとつける。風呂はまだ入っていない様だが、代わりに、まだ落とされていない化粧や香水の甘い匂いで頭の中が満たされる。そしてアルコールが入り、暖房で温まったのとはまた違う、やや熱い女の体。もう一度考えた。俺は昔から先の事を考えられる頭じゃなかった。今もそれはほとんど変わっていない。そして、今までの女性との付き合いから結婚という言葉がトラウマになっている。結婚の言葉を出すと、どういうワケか決まってそれまでの関係が壊れることになった。神のジョークにしてもいい加減付き合えない。こいつはどうなのだろう?今まで、結婚したいとも子供が欲しいと言ったことがまったくないとは言い切れない。二人とも、今時の結婚やら出産の適齢期なんてものからは過ぎている。俺の親父達は他界、女の方はお袋さんが健在らしい。だが、お互い愛し合いこうして暮らしている。なら、なんの問題もないじゃないか。世の中、同棲のままの男女がいないわけじゃない。結局、何度目かのゆうたろうや周囲の心配を他所にした、いつもの答えが出た。俺は女に言った。
「…明日休みなんだよ」
「アタシも」
「そうだっけ?」
「そう」
「そっか。じゃあ昼過ぎまで寝てても平気だな」
「そぉねぇ」
お互い見つめあい、意図が噛み合う。含み笑いをしながら軽く唇をつける。一回、二回、三回目は唇を吸い込んだ。XYZの味がした。女が呻く様な声を漏らしながら、ソファーの背もたれを跨ぐ。俺はそれに手を貸そうと女の腰に手を回す。女はグラスをテーブルに置いた。その横の手付かずのバーガーとコーヒーは、後で温め直すことにした。


To next time
Posted at 2013/01/28 22:50:56 | コメント(6) | トラックバック(0) | 「17th PCT」 | 日記

プロフィール

「本人じゃないカバー版とはいえ、この時期に広末涼子の曲をリクエストするリスナーもそれを選ぶ某ラジオ番組もすげーなー。と25年前のスカイラインスーパーサウンドシステムで聞きながら。」
何シテル?   04/18 17:27
警部補です。 ある時は、墨東署の警部補。 またある時は、ベイエリア分署の警部補。 またまたある時は、17分署の警部補。 しかし、その実体は! ...
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