
昨今の地球温暖化、人口増加、エネルギー資源の枯渇など環境に関する危機的状況が叫ばれる中、あらゆるものづくり産業においても、その戦略は従来の延長線上にはなく、環境問題を踏まえた見直しが求められています。各自動車メーカーのクルマ作りもそのような時代的要請に答えるかたちで変わっていきつつあるわけですが、最近、特に欧州車で唱えられている「ダウンサイジングコンセプト」について、我が愛車であるボルボS60も、コンセプトの具体例としてその一翼を担うことから、若干の考察を試みたいと思います。
ダウンサイジングコンセプトは、ウィキペディアには、「自動車においてエンジンを過給することによって、より小さい排気量、より少ない気筒数のエンジンで自然吸気エンジンと同等の出力、トルクのエンジンに置き換えるという概念である。このことにより
低燃費とコストダウンを両立させる」と書かれています。
欧州を中心としたエンジン技術の発展を概観すると、90年代において大馬力、高トルクの大排気量エンジンを搭載し、これを”通常は”低回転で作動させることによりドライバビリティを維持しつつ低燃費化を図る手法が試みられてきました。勿論一定の成果はあったものの、大排気量エンジンでは多気筒化によるフリクションや重量の増加は避けられず、省エネルギーを考慮した総合バランスの観点からは課題を残すものでした。一方、大排気量化への技術的なアプローチとしては、ターボや機械式の過給器の装着が同時期に発展してきましたが、燃焼技術上の課題より、NAに比べて低圧縮比にならざる得ず、燃費性能では見劣りするとの評価が一般的でした。21世紀に入り、ディーゼルエンジンが先行するかたちでの直噴技術の向上や、可変バルブタイミングの普及など、燃焼技術が劇的に向上するとともに、折からの環境問題への解決策の提示の必要性から、こういった技術的な流れが統合されるようなかたちでダウンサイジングコンセプトが生まれたのだと考えます。
ここで少し話が変わりますが、環境対応ということでは日本のハイブリッド技術が有力ですが、当該技術が発展してきた背景には、私が想像するに、クルマにおいても環境問題への対応策が必要→既存の内燃機関では限界→新世代技術の可能性としての電気自動車、ただし現在のモータ/蓄電池技術には限界がある→ならば両者を組み合わせることで現時点での最適解を提供しよう、という思想的な流れがあるように思われます。つまり新世代と目されるモータ/蓄電池技術ありきの考え方であり、それを省エネルギーあるいはドライビングプレジャーにどうバランスさせるかは、思想的にはどちらかというと二次的な問題であると考えられます。
一方、欧州の自動車メーカーは、このような時代的要請に対して、ハイブリッド技術で出遅れた事情があるとはいえ、冒頭で述べたような内燃機関の技術的な発展経緯を踏まえて、クルマに必要な動力を理想的に利用するにはどのようにすれば良いか?を精密に考えて既存の技術にある無駄や未成熟な部分を徹底して改善して組み合わせることにより、課題を解決しようとしていると理解できます。すなわちエンジンは軽量かつフリクションの少ない少数気筒、小排気量として設計し、低回転からの過給により高負荷時には排気量を拡大することで必要なパワー/トルクを供給する、排気量を変化させることにより生じる燃焼条件の変動に対しては、高度化した直噴技術等の最新燃焼技術の導入で対応し、更に動力伝達効率を少しでも高めるためにデュアルクラッチトランスミッションを組み合わせるという考え方です。メルセデス、BMW、VWが先導し、現在、PSA、ボルボ、ジャガー/ランドローバーと欧州車全般の駆動系の設計に及んでいるトレンドは上記のような考え方を踏まえたものと理解できます。このような理想的な出力特性を実現することで、同じ性能であれば環境性能を大幅に改善できると。
更に付言すると、欧州のハイブリッド車として、モーターを搭載したものが登場してきていますが、多くのクルマは日本車に比べて大幅に小さい出力のモータであり、この点を取り上げて日本車の優位性に言及する記事を見ますが、先に述べたような欧州車の技術思想を考えると、理想的な出力特性を得るために、ゼロ回転で最大トルクを発揮できるモーターは、発進時の動力補助+運動エネルギーの一時保存を第一の目的として、総合的なアプローチの一部として利用しようと考えていると推察できるため、指摘はやや的はずれといわざるを得ません。
というわけで、今はやりのダウンサイジングコンセプトについて、省燃費コストダウンのためにエンジンの小型化ありきという訳では必ずしもいえないのでは?との印象を持っていたため、その背景を掘り下げてやや別の切り口から考察してみました。このようなことをつらつらと考えていたため、ボルボS60の購入を検討する際には、安全装備よりむしろDriv-eに心惹かれたという訳なのです。ボルボの1.6Lエンジンは、このようなトレンドの最後発のものの一つですので、他社のそれと比較してもなかなかに優れた性能ではないかと思いますが、一方、将来のことを考えると、できれば、アイドリングストップ機構や、小出力モーター組み込みのハイブリッド車として、志高く登場させる選択肢もあったのではないかと思います(そうであればあと50~100万円高くでも十分魅力的だと思います)。
さて今回は幕間として雑談的なものをアップさせていただきましたが、次回は、S60インプレッションの続きに戻りたいと思います。
ブログ一覧 |
ボルボS60 | クルマ
Posted at
2011/05/02 10:03:07