新世代ゴルフが発表されたとの記事を読みました(Carviewの記事は
こちら)。第7世代の今回のゴルフはいわゆるフルモデルチェンジのタイミングとなり、プラットフォームをはじめとする全てのハードウエアが刷新されたとのことです。同じくCarviewより写真を引用します。
各部のディテールは時代に合わせてデザインされており、それなりの洗練は感じさせるものの、歴代ゴルフのモチーフは(ほぼ)厳密の継承されており、まぁ、いわゆるゴルフ以外の何物でもないという外観ではあります。今後、あらゆるクルマ関係のメディアで詳細なスペックやクルマとしての機能、性能については特集されることになると思いますので、そういった通り一遍な話題はそちらにお任せするとして、今回は少し別の角度から、この新型ゴルフを考えてみたいと思います。
一年ほど前にブログで、クルマのサイズがモデルチェンジを経るごとに(ほぼ)一定の割合で拡大していることを話題として書かせていただきました。そのようなサイズ拡大のトレンドは、車種や生産国に偏りがあるわけでなく、サイズ増大に向かわせる何らかの普遍的な要因が存在しているだろうと考察しました。詳細な議論はその時のブログ(
こちら)をご覧いただきたく思うのですが、その後、歴代のポルシェ911(
こちら)やカローラ(
こちら)についても同様の解析を行いましたが、今回、ゴルフについて同様の切り口から見てみたいと思います。早速ですが初代から7代目までのゴルフのボディサイズの推移をグラフ化したのが下の図になります。
一目瞭然ゴルフにおいても、登場から第5世代まで、一定と言って良い割合でサイズが拡大したことが分かります。しかし、第5世代以降、第6世代、そして今回の第7世代でよりはっきりしましたが、2000年代になって、このサイズ拡大には明らかに歯止めがかかっています(厳密に見ると、今回のゴルフは旧世代に比べて、全長と全幅は拡大する一方、全高が低くなっているので、見た目は明らかにダウンサイズというわけではないのですが、それでもゴルフ5までの歴代モデルのサイズが数値を丸めても拡大トレンドがはっきりと分かることから、私の論旨は間違ってはいないと考えています)。
以前に取り上げたトヨタの主力車種である(あった?)新型カローラにおいても同様の現象が起きていること、一方、ゴルフの上のグレードであるパサートではゴルフに見られるようなサイズ拡大の停滞が認められないことを考え合わせると、フォルクスワーゲン一社のクルマづくりの方向性というより、クルマ全般に認められるサイズ拡大へのトレンド全体に変化が生じていると捉えるべきであり、拡大トレンドの原因を考える上でも非常に興味深いものと言えます。
拡大トレンドの原因として、ブログ読者からのフィードバックで一番多かったのは安全性や快適性の改善に繋がる技術革新の反映というものでしたが、メーカー間や車種間で差異が生じていることから、やはり主たる原因と位置づけるには否定的であろうと考えます。私はサイズ拡大のトレンドは、おそらく当該モデルを歴代乗り継ぐユーザーの、経済的、あるいは環境的な変化に答えるため、そして何より乗り換えに当たってより改善されたモノを求める顧客の嗜好が反映しているのだと考察しました。そして拡大方向へのトレンドは、大きくなることよって生じるデメリットとのバランスであり、両者の綱引きの結果、ある比率でサイズが拡大していくと分析しました。
今回のゴルフに関する初代から5代目までの分析結果は、以前の自分の考察を否定するものではなく、むしろ支持していると捉えましたが、重要なことは、21世紀に入り、上記の拡大トレンドが明らかに失われつつあることです。繰り返しになりますが、クルマのサイズ拡大は、メリットとデメリットのバランスであり、昨今の状況においてこのバランスが明らかに変化しているのだと思います。すなわち道路環境、エネルギー問題、コスト的なものを考慮すると、今のクルマは立派になり過ぎたのです。よって社会の最多数層を狙った最も販売数が多いクルマであるゴルフやカローラのような車種において、最初にサイズ拡大のトレンドが鈍化する、あるいは失われるのはその意味で納得性のある現象(勿論、意図的な方向性ですが)だと思うのです。
更に特筆すべきは、新型ゴルフは旧モデルに比較して100kg程の軽量化に成功していることです。容易に理解されますがサイズ拡大はほぼ確実に重量増を伴うのですが、今回大幅な軽量化してきたことからも、フォルクスワーゲンのクルマづくりの方向性は、巷で取り上げられているエンジンのダウンサイジング技術だけでなく総合的に大きく変化してきているのが分かります。以前のブログでポルシェ911の最新モデル、タイプ991の最も大きな特徴は軽量化であると指摘させていただきましたが(
こちら)、ポルシェ、アウディを含むフォルクスワーゲングループは、いずれもしっかりとした展望や戦略を持って新世紀のクルマづくりを進めていることが伺われ、この点でさすがといって良いのではないかと思った次第です。
今後のクルマづくりは、モデルチェンジによりサイズや機能性を改善する、といった分かり易いかたちで商品としての魅力を訴求する時代ではなく、環境性能など見えにくいところをユーザーが積極的に評価してクルマを選ぶ時代になっていると言えそうです。既に、プリウスなどのハイブリット車の売れ行きを見ると、少なくとも日本では、10年来そういう変化とともに過ごしているのだと言って良いでしょう。むしろ、自動車雑誌や評論家といった人たちの方が旧態然とした価値観から抜け出せない、旧世紀の尻尾をくっつけていると言えるのかもしれません。
今回、ボディサイズの歴史的な変遷という角度からゴルフというクルマを分析してみましたが、新型ゴルフ(第7世代)は、今世紀において変化しつつある最新のクルマづくりの基本となる技術的方向性をしっかりと押さえてきているところは、やはり高く評価できると思います。その中身はイノベーションというよりも手堅い技術の組み合わせに過ぎないとしても。
ということで、新型ゴルフに意義付けについての私なりの結論を出したところで、今回の話題を終わりにしたいと思うのですが、ゴルフVIIについてのCarviewの紹介記事の中の写真として掲載されていた、あるクルマの写真を最後に紹介したいと思います。
そう、ゴルフシリーズの端緒となった初代ゴルフです。クルマとしての性能は新型ゴルフと比較するべくもありませんが、クルマとしてどちらが魅力的か、(歴史的な意味を含めて)より優れているのはどちらなのか、についてはなかなかに考えさせられるものがあります。今回、Carviewの記事を読んでむしろもっとも感銘を受けたのは実はそのことだったりするのです。
(続く)
Posted at 2012/09/16 09:34:00 | |
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