皆さんご承知のとおり、クルマ(この場合は、車種あるいはモデルという意味です)は、プラットフォームには変更のないマイナーチェンジもあれば、全てを一新するフルモデルチェンジもありますが、まあ4年~8年くらいのサイクルで世代交代が繰り替えされているのではないでしょうか?
新車が登場する度に、その仕様、外観、乗り味等、詳細に渡ってメディアにて紹介、評価される訳ですが、ひとつのモデルにおける、あるいはクルマ全体における長期的な変化のトレンドについて、議論されることはあまりありません。今回、そんな大きな視点での話題として、クルマはモデルチェンジを繰り返す毎にサイズが大きくなるトレンドがあることを論考してみたいと思います。まずは、論より証拠、以下のグラフをご覧ください。
トヨタのセダン3モデル、メルセデスのセダン3モデルについて調べてみましたが、Sクラスを除くいずれもが若干の例外があるものの、モデルチェンジの度にそのサイズが増大していることが分かります。グラフではトヨタとメルセデスを示しましたが、同様の調査は、BMWの7、5、3シリーズ、フォルクスワーゲンのパサート、ゴルフについても実施しましたが、これらは更に明確で、ほぼ例外なしに、モデルチェンジによりサイズが増大していました。
なお、ドイツと日本のメーカーについて、それもセダンを取り上げて分析した理由ですが、ひとつのモデルを一定の期間で、何十年にも渡ってモデルチェンジを続けているケースを調べると、該当するのがドイツと日本のメーカーが殆どだからです (この辺りに各国の自動車産業あるいは自動車文化・哲学の特徴が現れてて興味深いです)。よって、良質のデータを得るために、上記のようにドイツと日本の複数のメーカー、そして複数のセダンモデルについて調査して、やはり、クルマのサイズは時間と伴に増加するトレンドがあることを確認した次第です。
また、上記のグラフからは更に以下のことが考察できそうです。
・サイズ増大の比率(グラフの傾き)は、モデルによって大きな差異がない。
・サイズには上限があり、上限に近づくと、サイズ増大の勢いは鈍るか、あるいは止まる。
・上限は、どうやらメルセデスで 14 立方メートル、トヨタで13 立方メートル辺りにあるらしい
(メーカーによる差異は、もしかしたら欧州と日本の交通環境の違いによるものかもししれません)。
さて、それでは何故、クルマはモデルチェンジの度に大きくなるのでしょうか?直ぐに提示できる単一の解答(仮説)は思い当たりません。人間の体格が向上してきたことに対応しているのだ、という主張もありますが、国によって増加率に差異がないことや、増加のペースが速いこと、更に我々の実感として、年代間による体格の向上で手狭になったから同一モデルでより大きなクルマを求める、というのは説得力に欠けていることなどから、どうやら正解ではないように思います。では、リスク&ベネフィットで、単純に「大きいことはいいことだ!」ということでしょうか?いや、大きくなることは、当然、デメリットも多くあります。
・重量増加による性能低下(運動性能、燃費など)
・費用増加
・狭い場所での取り回しなど使い勝手が悪くなる
・より広い駐車スペースが必要
最初の2項目は技術の進歩により吸収できるものではありますが、残りは交通環境の劇的変化がないことにはどうにもできない問題です。メリットとデメリットのバランスの点からの上限が、上記のSクラスやクラウンのサイズであり、それ以上のサイズはデメリットが明らかにメリットを上回るので非現実性が高くなるのではないかと考えられます。では、大きくなることのメリットは何でしょうか?
・前モデルとの比較でランクアップ感がある
・居住性や積載性の向上
・技術革新の反映させるためのサイズアップであれば性能向上
どれも、一つ一つではデメリットを明確に上回る理由とはいえなさそうです。が、どうやら以下のようなことではないかと推察されます。
クルマを買いたい人は、年齢を重ねるに従い、少しずつ収入等、経済条件が向上する、さらに結婚し、家族ができて、子供が大きくなる、などの環境変化を経る人が多く、そういった経常的かつ、大きなサイズのクルマへのニーズが高まる小さい変化に対応するために、モデルチェンジ毎に少しづつサイズを増大させている、加えて、それなりの費用を払って買い換えるので、前のモデルに比べてのグレードアップ感を得たいという欲求も、サイズ増大を推し進める力として働いている。
大きく経済条件が変化した人は、モデルそのものを変更することになるのでしょう。そうすると、各クラスのサイズ変化は、同時期の上下クラスのサイズを上回る、あるいは下回るものであってはならない訳で、最初にグラフを見て考察したように、各モデルの変化率に大きな差異はないのは、これが理由のひとつではないかと推察されます。
さらに、「じゃあ、新たにクルマを購入する若い世代のニーズはどうなるのか?」という質問に対する答えですが、そのようなニーズには、より小さい、すなわち、あるモデルのスタート時点のサイズを持ったニューモデルの登場により満たされるということです。例えば、カローラの場合のスターレット/ビッツ、ゴルフの場合の、ポロ、ルポといったモデルの登場が実例といえます。そしてそのようなモデルも世代を経るごとに徐々に大きくなっていくことになると。
では次に「どんどん大きくなって、上級モデルと同じサイズになったらどうなるのか?」ということですが、サイズの上限に近いモデルは既に増大を止めているので、その下のクラスがどうなるのかが興味を引かれるところですが、その答えは現時点ではありません(笑)。マークXとEクラスが、それぞれクラウンとSクラスのサイズに接近しているので、サイズの増大を止めて存続するのか、あるいは統廃合されて消滅するのか、行く末が非常に気になるところです。
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以上のように、クルマのサイズの増大といったトレンドの存在を指摘し、その原因について考察してみました。
以前のブログでクルマの変化(進歩)は、生物の進化に例えられることがあり、それは、変化を生み出すメカニズムと、変化を選択するメカニズムの組み合わせによる点に共通性があること、しかしながら、メカニズム自体は両者では別物であること、したがって得られる変化は、クルマと生物ではその様相を異にすることなどを述べました。生物では突然変異による変化と自然淘汰による選択のプロセスには、サイズの増大といったトレンドは存在しないと考えられますが、一方、クルマにおいては、使用者/生活者の思いとそれを汲み取る開発者の意図が組み合わされることによって、明確なトレンドが生み出されることになるのです。
クルマの進歩におけるそういったトレンドは、サイズの増大にとどまるわけではないと思われます。例えば環境問題などの影響がクルマの行く末に全体としてどのようなトレンドを生み出すのかについては、興味深く見守っていく必要があるのではないかと考えています。
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Posted at
2011/08/15 08:54:07