先日のブログでは、レシプロエンジン比較と称して、大昔の航空機エンジンと、ホンダ F1 のエンジン、そしてボルボの 1.6L エンジンと横並びで眺めてみました。読まれた方は、論旨について、如何にも強引な印象を持たれたのではないでしょうか?まあ、大したことではありませんが、これには、若干の経緯があり、今回、先日のブログの続きとして、そのあたりから話を始めたいと思います。
私は Wikipedia の記事のリンクを辿ってなんとなしに散策するのが好きなのですが、自動車エンジンに対する興味から、関連記事を読んでいるなかで、最近、ダイムラー・ベンツの DB601 シリーズのエンジンの記載に行き当たり感銘を受けたことがきっかけなのです。そこで是非、このエンジンをブログで取り上げて、何か書いてやろうと思い立ち、ストーリーを練ったのですが、やっぱり無理はあったかなと思う次第です(笑)。
で、DB601 エンジン(仕様は前回ブログ記事参照)の何に感銘を受けたか、ですが、それを以下に書き出して見ると、
1) 倒立 12 気筒エンジン
2) 機械制御ながら燃料噴射システムを採用
3) 吸気、排気それぞれ 2バルブ、排気用バルブにはナトリウム封入
4) オクタン価の低い燃料を想定して、高圧縮比、低回転の設定を採用
5) 側面に装備されたスーパーチャージャーは、フルカン式継手(流体継手)により高度に関わらず無段階変速で最適の加圧が可能
6) 加圧式液冷システムにより高高度においても冷却性能の低下が少ない
DB601(と後に改良型の DB605)は、よく知られたように、2次大戦期のドイツのメッサーシュミット戦闘機 Me 109 (Bf 109 とも呼ばれる)に搭載されて、航空機史上最多の 3万機以上が生産されました。
上記の1) は、命中率を重視し、プロペラ軸より発射できるモーターカノンを装備するために採用された独特の形式であり、2) はいかなる姿勢になっても燃料供給が滞らないように、4) はいかなる戦場でも能力が発揮できるように、そして、5)、6)は高高度においても十分なエンジン性能を維持できるようにと、考えられた技術仕様であると言えます。
これに更に、液冷エンジンの前方投影面積の小ささを生かして、機体をギリギリまで絞り、翼はには機関砲や燃料タンクを配置せず、薄く小さい翼とし、機体胴体部に、エンジン、武装、燃料タンク、主脚の取付部と折りたたみ機構等の重量物を集中配置することで、ロール速度の早い、ダイブ アンド ズームの垂直方向の機動戦闘に適した飛行性能を実現することに成功しているのです。
優れたエンジンを搭載し、理詰めて設計された Me109 は、開発時期は1930 年代半ばと、大戦期の各国の主力戦闘機の中では初期の機体であるにも関わらず、また、航続距離が短いこと、武装強化の余地が少ないこと、構造上の弱さを持つ主脚のせいで離着陸に難があること、といった弱点にも関わらず、更には、後に Fw190 という優れた戦闘機も登場したにも関わらず、多くのパイロットに愛されて、最後まで主力戦闘機の座を明け渡すことがありませんでした。
表面的にスペックのみ見ると、Me109 はそれ程飛び抜けた性能を持っているとは分かりにくく、しばしば航続距離の短さによる不利や水平面での運動性能の低さにのみ注目されて論じられるのですが、当時(実に80年前!) としては卓越したエンジン(動力)性能によって、実際は極めて強力な戦闘機であったと考えられるのです。こうした機械性能を追求して、理詰めで高性能なマシンを創り上げる精神(伝統)は、今のドイツ車のモノづくりにも脈々と受け継がれているのではないかと思います。そういう点では、ドイツには、日本を含めてどの国も敵わないところがあるのではないでしょうか?
最後に、上記 DB601 エンジンは、日本陸海軍によりドイツからライセンスを受けて国産化され、飛燕や彗星といった日本の軍用機に搭載されたのはよく知られた歴史的事実です。しかしながら国産化された DB601 エンジンは工作精度の低さもあり、所定の性能を発揮できないことも多く、また信頼性も低いものでした。当時の日本の技術力では、残念ながら、このような高度なエンジン技術を十分に消化することができなかったのです。
勿論、今ではそんなことはないでしょうし、日本の技術力は、少なくとも自動車産業においては、ドイツに勝るとも劣らないであろうと信じています。
Posted at 2011/10/19 00:55:18 | |
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