親父の腕時計〜ROLEX ExpⅠとSEIKOゴールドフェザー

自分の手元には親父から受け継いだ時計が2台あります。

1台はROLEX ExpⅠ（Ref 114270）、もう1台はSEIKOのゴールドフェザーです。
ExpⅠは先代（になるのかな？）の114270ですが、いわゆるZ番ということでちょっとプレミアムな様です。一方のゴールドフェザーは1960年代にSEIKO社が世界最薄を目指して開発した手巻きモデルで、自分の個体はおそらく1961年頃に製造されたものです。

親父の時計とは言え、いずれも少し変わった流れ（所有歴変遷）をしており、Exp ⅠはH 19年に自分が買ってプレゼントした後に親父の他界により自分のところに来て、またゴールドフェザーは親父が自分で買った物でしたが、もう40年近く前に当時高校生だった自分がもらい受け、以後ずっと所有しています。

ゴールドフェザーは暫く普通に使っていたこともあって結構外装は実使用傷にまみれています（今はほとんど使っていません）。親父に聞いた話では、最初の給料をつぎ込んで買ったそうです（当時平均的なサラリーマンの月収くらいの値段でしたので、かな理思い切ったことをしたんでしょう）。その後仕事先で風防が飛んでしまい、パーツが見当たらなくて、使うのをやめていたのが暫くして仕事先から連絡があって、（なんかのお叱りか？）と慌てて出向いたらパーツが出てきた、と言って手渡してくれ、そんな縁もあってか仕事もうまくいった、と教えてもらった事があります。そんな事から、親父にとってはそれなりに大事な時計だったんでしょうが、単に時計が壊れたからクレ、と言ってる物の価値もよくわからん高校生のガキにくれたのは、今の自分からしたらこれはこれで思い切ったことをしたものだ、と今更思います（笑）。

今一方のExp Ⅰは全くの逆パターンで、自分が親父に買ってやって、その後自分のところに戻ってきたものです。親父は自分とは趣味がちょっと違っていて、デイト機能もないシンプルな3針時計が好きで、（親父曰く）ゴタゴタしたクロノグラフはキライでした（苦笑）。

で、このExpⅠを買ってやった時期はちょうど親父が前立腺癌の手術をした直後で、長生きしてほしいと思って時計を選んで贈りました。と言うのも、手術直後に主治医から見せられた病理結果は、手術としては取り切った！といった外科医の言葉とは異なり、かなり悪性度が高い（再発リスクが高い）との所見でした。これを見た瞬間、自分としてはかなり暗澹とした気分になったのをよく覚えています。自分は病理のラボに暫く研究員として派遣されていたため、少しばかり知識があったからこそわかったわけですが、この時ばかりは知識があることを恨めしく思ったものです。なんせ隣では外科医が取り切った、といったことを喜んでいる親父とお袋がいたのですから…。もちろん病理の初見についはこの場では一切言わず、帰宅してから家内にだけ伝えました。ですが、本当に幸いなことに、その後も親父は再発をしないまま生き抜く事ができ、結局は別の疾病により亡くなったわけですが、前立腺癌手術が終わって5年経った後（一応の完治の基準）に、親父とお袋にはその話をし、心の底から安心した、と伝えました。

そんな経緯で親父に渡したExpⅠですが、親父はごくたまにしか使わずに温存していた様です。でもお袋に聞いた話では友人と会う時とかに喜んで着けて行き、嬉しそうに友人らに自慢していた様です。

と言った具合に、時間的にも大きくずれて、かつ経緯も全く違う2台の時計ですが、今は自分のところでチクタクと動いています。そんなわけですから時計としての価値は自分には全く関係がなく、まさにプライスレスな価値ですが、外出できない今日、チマチマと磨きつつ、ちょっと思い出に浸っています。