医師の倫理観

とある美容整形医外科医が解剖実習に際してご献体をSNSにアップして炎上しています・・・

正直いってあまりに酷い状況で絶句モノです・・・
自分は医師ではありませんが、少し語ってみたいと思います。。。

まず医師の育成に際して、必ず行われる実習に解剖実習があります。これは医学部学生に対して（つまりまだ医師免許取得前の学生に対して行う）実習の一つで、大学にもよりますが、4人程度の学生がグループになってお一人の献体を解剖し、人体の構造や各器官の配置などを徹底的に学ぶものです。ここで供されるご献体は基本的には故人の善意によって提供された、大変貴重で尊いものです。これは医師や医学生でなくとも普通の感覚であれば粗略に扱ってはいけないということは理解できると思います。
実際、この実習に際しては不謹慎な行動は指導教官に非常に厳しく指導されるもので、ご献体を粗略に扱うことで最悪退学処分にすらなる、医師の倫理観では最も基本的な部分になります。

自分は医療系とは言え薬学部出身ですので、この解剖実習は経験がありません。ですが特に日本人は遺体損壊を嫌う国民性があるため、解剖実習のための献体の確保は大変に難しく、善意の提供者ご自身やご家族の理解〜医学教育の意義や倫理観やご本人の尊厳を厳格に守るとの有言無言の合意によりようやく確保がなっている状態です。加えて志高く医師となった解剖学などの専攻領域の医師らは職業的な使命感からも自らすすんで献体を申し出ることもあります。また自分が聞いた範囲では、特定の専門領域の講座所属医師は検体を申し出るのが必須となっているとのことでした・・・

自分は薬学部卒業後いろいろあって最終学歴は医学部の大学院で、しかも所属講座は病理学という、いわば献体を出すことが求められる可能性が高い講座でした。現講座教授はご献体に申し込み済み、と昔伺った記憶があります。自分はたった1年だけですがこの講座の非常勤講師という身分でもありましたものの、自分は現段階では申し込みを行ってはいません。

このように大変厳しい倫理観の育成（指導）と貴重な、そして尊い献体を使った実習を経て医師になった人が改めて自らの研鑽のために自主研修の一環で解剖実習に参加することあるのですが、これは献体の確保が困難な国内では非常に難しく、結果として海外での実習が中心となり、今回の話題の主の美容整形外科医のように海外（今回はグアム）での実習となりますが、そこでやらかしてしまったようです。

今回の美容整形外科医の問題行動ではいくつかの特徴的なことが発生しています。
本人の倫理的な問題行動に限らず、その上司に当たる美容クリニックの代表医師が部下を庇いたいがあまり釈明の発信をしたものの、ここでも倫理的、あるいは問題の本質も見誤りが露呈してここでも炎上騒ぎとなり、この延焼効果で美容整形医療への不信感につながっています。
また前述のような献身的な献体へのご遺体提供の目的意識すら霞ませるような、こんな倫理観で扱われてはたまらない、といった普通の感覚を持つ人が増えることで献体申込者が減り、医学教育に支障を来たしかねない事態へとつながりつつあります。
一方、美容整形医療行為を保険適応にしてもいいのでは？といった議論もそこそこなされていたりもするのですが、これは美醜が精神的な疾病につながるから、などといった論旨展開がなされたりするのです。でもこの手の議論はおそらくかなり分が悪いことになるでしょうね。なお個人的には美容整形の保険適応はもってのほかと自分は考えています。

倫理観は業種によってそれぞれの物差があるとは思いますが、医師のそれは医療行為により患者さんの命に関わる、という重大な職業であることからより高い倫理観が必要とされています。それが今回の事態のように小学生でもわかりそうなレベルで崩壊（ご遺体の前でポーズ取った自撮りでSNSにアップ）なんて、もう有り得ないとしか言えないですね。

多くの方が批判的にいろいろ書いているということですが、一応医療系で有りますし、献体を申し出た恩師らの志の高いお考えを直接伺った身としては、この手の蛮行には厳格な対処をお願いしたいと思わざるを得ません・・・