
自分の時計の中では最もよく使っているOMEGA Seamaster GMT(正式名称はとにかく長いので今日はこの呼称で行きます。なお正式名称はシーマスターアクアテラ クロノグラフ GMT)・・・
最も使っているのは最も便利だからに他ならないのですが、特に梅雨時期は雨の中を原チャリで走る機会などもあるし、最近またもグローバル業務が増えてきて3極時刻把握が必要(GMT便利♪)、毎日使うから安定した精度欲しいし、といろいろ重なった結果です。
ただ、この時計が心底好きか、というと正直やや微妙です。
必要とする機能を最も有しているからこその日常使用ですが、この時計はいろいろな意味で“ヘンテコ”な時計でして、どうしても自分の中では心底惚れ込むには至らない時計です。
とはいいながらも、自分としては人に勧めることができる良い時計だと思います。それほど人気がないせいで取引価格が低迷していることからコスパの良さが更に向上している、という点は気に入ったらメリットが大きいと言えます。
魅力として他人に語れるのは、
クロノメーター、150M防水、GMT機能、垂直クラッチ式クロノグラフ、裏スケ、などなど・・・・。
と、ここまでは普通に語れるポイントではありますが、今日は長いこと自分が感じてきた“ヘンテコ”な時計、の点を書いてみたいと思います。今回の記事を書くにあたりかなりの時間をかけて情報収集をしてきました。かなり長いのでお好きな方はどうぞお付き合いください・・・
自分の感じる“ヘンテコさ”はほぼ全てが搭載しているキャリバーに関する部分です。
OMEGAはSWATCHグループ屈指の名の知れた時計ブランドですから、多くの商品を展開し、この時計はSeamaster系のラインナップとしてリリースされました(すでに絶版し後継機種に変わっています)。
OMEGAはクロノグラフだけでも複数のシリーズを展開し、Speedmasterもその一つです。またバリエーションも多く併せて価格帯に応じ使用するキャリバーも様々です。
クロノグラフは最近では多くの会社が自社開発する様になりましたが、一昔前はほんの一握りの会社が自社開発をし、開発できない会社はキャリバー専門業者から供給を受けていました。そうした専門業者のキャリバーは価格帯により使用する機械のグレードや仕上げ、仕様パーツなどが層別化されており、高級時計にはそれにふさわしいとされる高級機械が入っていました(もちろん今もその傾向は続いています)。
OMEGAはSWATCHグループの中核会社ですから当然ながらキャリバーはグループ内から調達しているわけですが、このSeamaster GMTでは一般的なクロノグラフに汎用されるETA7750ではなく、高級機械と位置付けられるOMEGA3603をチョイスしています。このOMEGA3603は名前こそOMEGAですが、実際にはやはりSWATCHグループに連なるフレデリックピゲが製造したものです(ただしOMEGA独自のコアクシャルを組み込んでいますので、厳密には委託製造かも)。
このフレデリックピゲはかつて名跡が途絶えていたブランパンの復活を支えた会社として名高く、現在はブランパンの機械製造部門として存続しています。このブランパンは世界最古の時計製造会社とされる会社ですが、前述のように一度会社が途絶えていた時期があることから、継続性から世界最古と認定しない説もありますが、クオーツ時計を作らない高級時計メーカーとして知られており、ブランドとしての地位はかなり高い会社です。1992年にSWATCHグループ傘下となり、当然ながらフレデリックピゲもSWATCHグループに属することになりました。
まだ独立系だった頃から高級機械式クロノグラフ用の機械を製造してきたフレデリックピゲですが、1987年に画期的な手巻き機械式クロノグラフムーブメントFP1180を開発しました。このムーブメントは当時高級機械式クロノグラフムーブメントとして市場を席巻していたレマニアの2310の強力なライバルとして一気に市場で競合状態となりました。なおこれら二機の機械はいずれも現在でも高級機の代名詞とされるコラムホイール式を採用しており、機構からしても高級志向の機械でした。
この時、レマニア2310に対する絶対的な優位を決めるためにも、フレデリックピゲは自動巻き機能を組み込んだFP1185を開発し、以後これがフレデリックピゲの機械式クロノグラフムーブメントの中核となります(この自動巻き機能の追加により石数が29石→37石に増加しました)。このFP1185の凄いところは自動巻き機能を追加したにもかかわらず、レマニア2310よりも薄いことで、しかも振動数も6ビート(レマニア2310は5ビート)と優位点が多い点です。さらにフレデリックピゲは1180にラトラパンテ機能を組み込んだ1181を作り、とどめに1181の自動巻きバージョンとして1186まで開発し、高級クロノグラフムーブメントでの中心的な存在となりました。現在もこのラトラパンテ機構を持つクロノグラフ時計はほぼこれらFP1181かFP1186ベースとなっているようです。レマニアはその後社名がヌーベルレマニアとなりやはり高級ブランドであるブレゲの機械製造部門として再編されましたが、そのブレゲそのものも1999年にSWATCHグループに属することになったのは何とも皮肉な話です。
FP1185が高級機械式クロノグラフムーブメントとして盤石な地位を築いたのはその小ささ、薄さゆえに多くの高級ブランドが手掛けた機械式クロノグラフ時計にこぞって搭載したからです。薄さ小ささが設計に余裕を生み、多くの個性的な製品が開発されました。この様にFP1185というのは小ささと薄さを武器として市場を占有してきた機械なのであり、その点がこれまで高い評価に繋がってきたワケです。
前置きが長くなりましたが、自分が持つOMEGA Seamaster GMTはこのFP1185をベースとした機械なのです。その証拠に両機械とも石数は同じ37石となっています。
正確にはFP1185をそのまま使うわけではなく、OMEGA向けにかなり大掛かりな機構の変更が行われており、その間ハイビート化(6ビート→8ビート)、コアクシャル機構搭載、などを経て、かつGMT機構まで組み込んでOMEGA3603に至っています。
こうした経緯を経て開発されたOMEGA3603は果たしてOMEGA Seamaster GMTに相応しい機械なのか、が自分の中ではずっと違和感なのです。これこそが自分が感じる“ヘンテコさ”の原因だろうと思います。
前に自分は
勝手にインプレとして、サブダイヤルが寄り目、と評しましたが、これまで書いてきました通り、搭載している機械が“小さいことが良いこと”的に開発されてきた機械ベースであることから、ガワに相応しくない小ささ、が根本原因なのです。この小ささが違和感、は実は裏スケでも確認できます。画像はその裏スケ画像ですが、一見仕上げもちゃんとしたきれいな機械が見えていていいんですが、OMEGA3603という機械はほぼこの窓のサイズしかありません。ガワに比してかなり小さい機械なのです。
とかいいながら、世間にはGMT機能を持つクロノグラフムーブメントは非常に少なく(たしかFORTISやGLYCINに昔あったような・・・。またSWATCHグループのETA社がETA7754を開発した)、かつクロノメーター規格を突破している機械はほぼないはずです。仮にもSWATCHグループのしかも中核の会社は“高級な機械”を入れないわけにはいかなかったんじゃないでしょうか。
そんなこんなで、ワタシにとってこのOMEGA Seamaster GMTは装備する性能には一定の価値観を持つ一方で、血筋というか、成り立ちが今一つ気に入らない(しかもデザイン上の難点の根本原因に繋がる)、“ヘンテコな”時計なのです。
Posted at 2020/07/05 15:21:41 | |
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