降りしきる雪の中、僕らは無邪気に校庭を駆けまわったんだ

進級を控えた年度末の大事な試験。
しかも苦手な英語だってよ。と毒づいたのが前日の夜だったのか当日の朝だったのかすら覚えてはいない。

あれこれ考えている暇はない、今は身体の芯まで冷やす冬の風を切って、大学までの道程を最速で駆け抜けるべく、バイクのスロットルを回すだけだ。

結局はただの大寝坊ってやつが原因なのだが、入室禁止時間まで後五分という状態で講義室に駆け込んだ上に、もともと勉強など全くやらなかった僕が試験問題を解けるはずもなく…、制限時間が過ぎた頃には妙にサッパリしちまっていてさ。

そのくせ、どこかクサクサした気分で押した講義室のドア、
次の瞬間、僕の目は一瞬にして輝きを取り戻した。
教室棟の周りが一面、白銀の世界になってたんだ。

半地下になった学食で、仲間たちと食事をしながら外を見る。
その間にも雪は自己主張を強める一方で、僕らが食事を済ませた頃、
空から舞い降りた白い天使の羽根達は、おそらく僕の人生で初めて、
くるぶしまで足が埋まるほどの積雪になっていた。

荷物をおいている部室に着くと、
「午後からの試験の予定、どうなんだ？」と訊きながらも、
すでに先輩達はかまくらを作る準備をしていた。

「どうせお前も一緒にやるんだろ？」そんな甘い囁きが僕を掻き立てる。

まだ一年生だった僕は一瞬の躊躇の後、捨ててもいい科目を全て捨て、明日からも続く試験の事を忘れて雪遊びを満喫した。

出来上がったかまくらはとてもではないけれど人がくつろげるような大きさではなく、
それはそれは不格好なものだったけれど、僕らは終始笑ってたんだ。

夜になって止んだ雪、路上が凍ってしまってはバイクに乗ることは出来ず、僕らは電車やバスでそれぞれの下宿先に帰る。

翌日もその翌日もかまくらは少しずつ形を変えながらあの日の僕らのエネルギーを主張するかのように居続けた。

みんなテストの結果は散々だったけれど後悔しているやつなんか居なかった。
それが僕らの青春時代。

時は流れ、一人、また一人、当時の仲間は全国へ戻って行き、それぞれの社会人としての生活を始める。

地面に落ちて濡れてしまった羽根が乾いたのだろう。
天使は再び舞い上がる。
それぞれの夢や希望を胸に、少し薄茶色に汚れた羽根を揺らしながら、やがて天に帰る日まで。

先に天に帰った当時の仲間達へ。

僕はまだしばらくこっちの世界で楽しむよ。
君等が残してくれたものを次の世代に伝えきるまでは帰れないって僕の担当の天使に伝えてくれるかい？

最後の時にはまた一面の銀世界を作ってくれるかな？
最後まで無邪気に雪遊びに興じてその土産話をもって仲間の所に行きたいんだ。



まだ夏の気配も残っているのだけれど、ふと思い出した古い記憶。

さぁ、そして行こう、新しい記憶を積み重ねる為に。