
スイングアーム ピボットの締付トルクを適正化したところ、一気に印象が好転したので、
残りの重要箇所も点検・適正化を図ります。
現代のスポーツバイクらしく、大径のアクスルを採用しているので、ナットも対辺27mmと大型。手持ちがないので他のついでにモノタロウで購入(トラスコブランド)。
差し込み角が3/4インチと大きく、1/2インチ仕様のトルクレンチを使う際は変換アダプターを使います。
緩める際にトルクを測ってみたら(正確ではないですが)10.5Nmのところ、14Nmの手ごたえがありました。
ナットと左側アクスルホルダーを取り外すと、ホルダー内に切粉が溜まっていました。『何かが正しくない気がする』のでアクスルを抜いて、リヤホイールも取り外してみます。
前回、ドライブチェーンやスプロケットも掃除しておいたので、作業しやすいです。
上の写真、アクスルホルダーとナットの間に平ワッシャー(厚さ2mm)がありますが、これが左側スイングアームとホイールに差し込まれるカラーとの間に入って組まれていました。
サービスマニュアルによると、アクスルホルダーと締付ナットの間に入るもので、
ワッシャを介在させずにナットを締め付けたので、ホルダーが削れて切粉が出たようです。
ドライブスプロケットやチェーンを見た限り、チェーンラインが狂って切粉が出たりはしていないようでした。
ワッシャを誤って入れられていた左側スイングアーム内側を点検すると、円状の痕がついていますが、本来接触するホイールカラーの痕のようでした。スイングアームはスチール製なので問題なかったのかもしれません。
筆者は以前、ドゥカティのホイールカラーの向きを間違えて組んでしまい、軽合金製スイングアームを傷めてしまったことがあるので、ヒヤリとしました。

アルミスイングアームにも対応できるよう、ホイールカラーは接触面積が大きくなってます。左が誤って組まれていた、ナットの下に入るワッシャーです。面積の違いは明白です。
スイングアームがスチール製である動かぬ証拠写真(笑)(懐中電灯がマグネットで横向きにくっついています)
凝った形状の板金部材を組み合わせてあり、重量にも注意が払われているようです。
溶接線は結構な延べ長さです。
タイヤとマッドガードを外したので、リヤショックのベルクランクの締付トルクを確認できます。
リヤショックをプログレッシブ作動にするベルクランク。今回の締付トルクはOKでした。ショック取り付け部やエンジンマウントボルトも同じですが、反対側のボルト頭を回らないようにしつつトルクレンチを使うのは、二人掛かりでやりたい作業です。
ちなみに向かって左のナットがフレームの支点、右がスイングアームとの支点を締め付けています。さらに左に見える円柱形状は、スイングアームピボット部です。

念のため右側スイングアームも点検。特に問題は無いようです。中間部に窓がくり抜かれているなど面白い形状です。窓とアクスル穴の間にある四角いものはブレーキキャリパーブラケットの回り止めです。
いい機会なので、ドライブスプロケット周辺もきれいにしておきます。グリスと砂が混じったものが付着してしまい、つい見て見ぬふりをしてしまいたくなる部分ですが、
積もってくるとチェーンの摺動抵抗になり、掃除後は回転が軽くなります。
ドライブスプロケット前方の隔壁部分は取り外し可能な樹脂製スライダーになっていました。これは掃除をするにも便利な構造ですね。
清掃後。スプロケットカバーはなぜか高強度ロック剤を塗ったボルトで留められていたので、ねじ山は全てタップ・ダイスで清掃します。ただのふたなのでロック剤は塗りません。
ついでにエンジン後ろ側のマウントボルトもトルク管理をしましたが、アンダーカウルが邪魔になるので、その上のサイドカウルも含め取り付けボルトを何本か外し、
後方を開かせて作業しました。
カウル接合部のずれ止めの工夫は大したものですが、取り付けファスナー類の数と種類の多さには閉口します。
ところで、定価100万円以上の車両にもかかわらず、
サイドカウル取り付けがタッピングビスなのは驚きです。
この手の車両は、RC30やドゥカティ916よろしく、
目立つところだけでもDZUSファスナーくらい奢ったらカウル着脱も少しは楽になり、
且つ見た目もファスナー操作感も競技車両ムード満点、
購買意欲を高めることで数万円余分に値付けできそうなのですが(笑)
**************************************
ホイール/アクスルの組み付けは、先日行ったXZ400のようなシャフトドライブの方が遥かにラクです。
・ドライブチェーンをスプロケットに掛けながら、
・リヤホイールをスイングアームのアクスル穴に合わせて持ち上げ、
・ホイールに差し込まれたカラーを落とさないよう注意しつつ、
・キャリパーブラケットの位置を合わせながら、
・アクスルの回り止めがある側には忘れずにホルダーを通しておく必要があり、
やり慣れないうちは手が3~4本欲しくなります。とても写真を撮る余裕はありません。
どうにかアクスルを通し、ナット締付前にスラスト方向のすき間を見たところ、
先のワッシャーがぎりぎり入るくらいのすき間はありますが、
元々なのか、間に入れて組んだせいで広がったのかは判りません。
とりあえず今回はマニュアル通りに組み立てます。
念のため、チェーンラインと、ブレーキキャリパー&ローターのセンター一致を確認します。
いずれにせよホイールカラーとスイングアームの間にわざわざワッシャーを差し込んで組むのはかなり大変だっただろうと思います。
ドライブチェーンのたわみ量、分解前に確認しておきました。測定位置にはマーキング済み。
写真は下向きに引いた状態。
45~50mmが規定値なので、スライダーとの間隔を見れば明らかに張りすぎです。
ホイールアライメント、スイングアームピボット~リアアクスル間の距離を左右で揃えます。
アクスル締め付け後に、ホルダー位置決めのナットを増し締めしてからロックナットを締めますが、チェーンにテンションを掛けた状態(=チェーンが双方のスプロケット間を引っ張っている状態)でアクスルを締めないと、走行時のトルクで引っ張られて、たわみ量は多くなってしまいますので、テスト走行後に再調整します。
**************************************
整備後のテスト走行前には、特に締め付けたり、取り付け直したりした各部を念入りに確認します。
タイヤ空気圧はオーナーがサーキット走行時に設定したままらしいので今回確認したところ、
前=約1.8KPa、後=約2.3KPaでした。
低すぎる内圧で、先日の整備後、好ハンドリングに喜んでいたとは…少々残念。
メーカー指定値は、前=250KPa、後:290KPaですので、こちらに合わせます。
現代のラジアルタイヤは、構造上の理由で、少なくともストリート走行時は指定の内圧から大きく変えるのはNGとされています。
「なぜそうするのか?」理由と目的の確証なしにいたずらに行うのはリスクが大きいです。
サーキット走行では連続走行によって内圧が大きく上がることもあり、乗車感を基に少しずつ下げる選択肢もあるそうですが、サーキット走行後は冷間時指定値に戻すことが必要です。