こんばんは。ゲリラ豪雨の合間を見て整備に勤しんでいます。
タイトル写真、今回の作業のためマッドガード(スイングアーム側フェンダー)を外したついでに、
ドライブチェーンとスプロケット周辺を磨き上げてみました。
色の組み合わせ、素材感の対比は目に心地よく、
板金溶接構造のスイングアームなど、溶接線の長さは軽量設計かつ、鋳造品にない柔軟性への志の高さ(≒コストの高さ)を感じさせ、機能美にあふれていますね。
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さて、ネットオークションで首尾よくサービスマニュアルを入手しました。
電話帳か、昔のO誌(判るかな?)くらいの厚さです。
これでようやく、各部の締付トルクの管理ができます。根拠があっての整備です。
勿体ないことに、殆どページをめくった形跡はありませんでした。
読み物ならば紙に印刷されているものが最良と思いますが、
この手の整備資料は通読することは稀で、使えば汚れが付くのは避けられないので、
必要に応じてプリントや拡大表示できるPDFなどのデータで入手できることが望ましいと思います。
まずはスイングアームピボットから。指定締付トルクは11Nm。
中央の六角ナットの左上と、その内側の中空ボルトの真上よりやや右に黒い印があるのが判るでしょうか?
これが元々の締付状態で同じ位置にあり、真下(6時の位置)の緑のマーキングは指定締付トルクで締め直した、再組み付け時のための目印です。
メーカー出荷時に90度近く余分に締まっていたことになりますが、この部分の影響は甚大でした。
青空作業中、にわか雨の襲来で慌てて倉庫に車両を戻す際、
スタンドから降ろした感触は「車体が柔らかくなった」ので驚きました。
ちょうど魚が体をしならせて泳ぐような印象でした。
ついては以前の試乗時のサスペンション調整は根拠を失っているので、
あらためてメーカー出荷時のセッティングに戻しました。
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この後、リヤショックユニット上下締付ボルト、前後キャリパー取り付けボルト、フロントアクスル&ピンチボルトを指定締付トルクで締め直しました。
以前取り外した前後キャリパー以外は、全てかなりのオーバートルクで締め付けられていました。
ショックユニットは1G(自重を受けた際のリヤショックユニット ストローク状態)で締め直すつもりでしたが、
サービスマニュアルによると連結部はニードルベアリングが使用されていて、取り付けボルトにはグリスアップの指定すらないので、ラバーブッシュのようにねじれを考慮する必要はないと判断しました。
筆者が整備後に締め付けた前後ブレーキキャリパー取り付けボルトは、
指定締付トルクよりも若干弱い状態でした。
他の主要締付ボルト(エンジンマウント、リヤアクスル&ドライブチェーンの遊び、ステアリングステムベアリングなど)は、
工具やフロントをリフトさせる道具の都合でひとまず先送りです。
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さて、リヤブレーキ整備と各部締付トルク適正化の、走行性への影響は?
ズバリ、嬉しい驚きです!
前回の試走は、整備したフロントブレーキの具合のみ気にしていましたが、
今回は接地感とコーナリング時の挙動が激変しています。
筆者の二輪乗車歴ではかつて経験がない、夜道でも安心してスロットルを開けてコーナリングを楽しめます。
もちろん入念に整備したブレーキも本領発揮です。思うように好きなだけ「制動」できます。
かいつまんで言うと、
●最初の交差点左折時、車体リーン初期の前輪舵角の入り方が自然で、舵角も大きくなり、
曲がりやすいのと共に不安感減少。
●乗り心地はソフトではないが、しっとりとした落ち着きのある接地感。
以前のリヤショックユニットが動かないような、不整路面で振り落とされそうな不安感は解消。
ソフトなグリップラバーも乗り心地・安心感に貢献している。
●制動制御がしやすく、特に微速、停止寸前の車体の安定感が増した。
車速がゼロになってからフットペグから足を離して着地すれば間に合うような心地よさ。
赤信号手前でふらつきながら足を出しているのは、我ながら体裁がよくなかったので。
●リーン初期の前輪舵角主体の、いわゆる一次旋回の状態から、
そのまま自然にスロットルを開けて後輪主体のいわゆる二次旋回に移行できるので、
曲がり切れず膨らんでしまう不安がなく、ためらわず思うままスロットルを開けていける。
●コーナリング開始時のタイミングが掴みやすく、
わずかなきっかけを与えればライン取りもライン変更も思いのまま。
●ようやくスロットルを大きく開けた走りができて判ったのは、
国産スーパースポーツには異例の実用域加速力重視(速度上昇が速い)のチューンで、
かつての空冷ドゥカティに通ずる感触があります(並列4気筒では味わえない強烈な蹴り出し感)。
スロットルを開けての車体コントロールやエンジンを回し切る感覚を存分に楽しんでも、
絶対速度が乗りすぎないのは、筆者が750㏄クラスを好む大きな理由で、
安全面や社会適合性含めた、公道用スポーツバイクとしての大きな美点と思います。
今までの状態での試走では「どうにもうまく乗れない・・・」と納得がいかず、
運転者としての資質、ひいては車体をまとめ上げる能力・感性の自信を無くしかけていましたが、
整備状況による車体特性の変化の大きさに、まさに目から鱗が落ちた思いで、
和歌山利宏さんのライディング理論への実感と理解のきっかけがようやく掴めたところです。
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まとめると、
●挙動が安定して接地感があり、加減速にもコーナリングにも制御に不安がないので、
刻々と変化する路面状態やコーナー曲率に応じたコントロールに没頭でき、
次のコーナーが心底待ち遠しい。筆者にとって今までにない新境地。
●ハンドル~シート(後方は幅広)~フットペグ(内幅も狭い)~ペダルの位置関係や、
末広形でエッヂのある(=押さえが効く)タンク後部形状など、
身体とバイクの接する関係性(インターフェイス)が公道でのスポーツライディングに最適。
●車体の挙動への不安から来る緊張感とは無縁、
余裕ある心境で前向きなチャレンジ意欲が湧いてくる。
自然と視野も広くなり、制御に自信が持てるので安全マージンが増したのがはっきり判る。
●車速や荷重コントロールの要のブレーキシステムとサスペンションの調和がとれていて、
速度管理や車体の反応に不安がない。
(特にブレーキを緩めつつリーン開始する際の、荷重を残す(フォークの伸び具合)制御のしやすさはラジアルポンプならでは)
●結果として、考えることなく自然にコーナー外側の内腿とくるぶしで全身を支えられ、
タンク後端エッヂやシート上面を通じて荷重でき、安心してスロットルを開けて曲がっていける。
気付けば初めて、ひじが燃料タンクに接した戦闘的フォームを自然にとっていて自身驚くほど!
頭に浮かんでくるのは、かのケニー ロバーツのライディングです(到達レベルはともかく)。
メーカー初期設定のサスペンションセッティングが絶妙というほかなく、
主要作動部分の正確な締付トルク管理(特にスイングアームピボット)に加え、
ブレーキ、スロットルグリップ、ペダルといった制御部分が、ごく自然に微細にコントロールしやすいことが不安なくライディングに集中させるのだと思います。
前述の整備状態未確認箇所が残っているのと、
モトGP車両などでも取り沙汰される「車体の左右方向へのしなり」の重要性を体感できたので、
更なる上質な乗車感と旋回性向上が狙えそうです。
オーナーが設定したままのタイヤ空気圧も改めて確認検証したいと思います。
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比較的小柄な車両オーナーは車両のコンディション、物理的特性に敏感ではないようで、
車両の状態がどうあれ自分のライディングができるのであれば問題はないのですが、
(逆に言えば天才肌(ナチュラルライダー)ということになるのでは?)
整備後の状態をどう感じて表現するか、反応が楽しみです。
できることなら、車両の状態や整備結果の比較確認のために筆者が設定している「テストコース」を一緒に走って、
当方がチェックしている挙動や、アクションの起こし方など、意見を交換したいと思います。
また、オーナーはタンク後端のエッヂを使うコーナーワークがしづらいと不満を訴えていますが、
今までの状態は元来の旋回性を大きく損なっていたと考えられます。
元来「無理して曲げる努力」など必要でもできるものでもありません。
乗車位置や姿勢などの工夫も必要で、
(例えば左右への荷重移動前提のスポーツバイクで、車体左右中央に漫然と座っていては、下半身で身体を支えられない)
車体と身体の位置関係を規制するような形状は、アクションを起こす際に妨げになる可能性があり、既製品(吊るし)が本人にフィットする保証もないので正直お勧めしたくありません。
どうしてもやるならウレタンフォームなどでパッドを作って貼り付けて、
形状変更・位置調整など納得いくまで試行錯誤することを勧めます。
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多くの方にとってはショッキングな意見かと思いますが、
出荷状態の新車は適正な整備状態が保証されているものではないようで、
(保証されるべきだと思いますが)
極論すれば車体に関しては『正規の公差内で部品を組み立ててある素材』、『損耗を待つ儚い存在』に過ぎないようです。
そのまた「なれの果て」たる、筆者にはなじみ深い、市場の中古車においては・・・
もはや語るべき言葉はありません。
多くのプロショップは新車時・中古車入手時の入念な整備をセールスポイントにしています。
磨耗する前に万全の整備状態を作れば、ベストの状態を長く持続することができるからです。
極めて手厳しい表現で失礼かとは思いますが、
不完全な状態のまま、場当たり的な対処を楽しむだけでよいなら、
大枚はたいて新車購入する機能的なメリットは、筆者の価値観では見出せません。
完全整備の状態をスタート地点として、R7本来の美点や実力を感じ取り、
メーカー設定セッティングが生み出す安定感や動きの自由度を実感・理解して、
ライディング改善のヒントや、車両理解・改善の根拠にしてほしいと思います。
筆者の整備記事も、微力でも車両理解、因果関係理解の一助になればと願っています。
今後の整備による本領発揮がますます楽しみになってきました。
新境地に導いてくれたR7を返したくないのが正直なところです(笑)
気前よく新車を預けてくれている友人には、貴重な学習・実践・理解の機会を与えてもらい、
心からの感謝に堪えません。
記述へのご意見、質問など、お気軽にどうぞ。