新車とはいえ、(私見ですが)安心して乗れる状態ではなかったYZF-R7。
スイングアームピボットはじめ、各部の締付トルクや組み付け適正化
の結果、衝撃吸収とコーナリングの動きがかなり自然になり、随分安心して乗れるようになりました。
さらにフットペグのガードプレート周辺の工夫(くるぶし内幅詰め)で、
もう一息、コーナリング開始時の自由度というか、タイミングをとりやすくしたいのと、
曲がりはじめの車体のリーンに伴う舵角の入り方をさらに自然なものにしたいので、
ごく簡単にできること、「見るからに立派な」ハンドルバーエンドを取り外してみました。
すると、かなりの重量があるのでびっくり!
面白半分に量ってみたところ、なんと片側で190gもありました!!判りやすく言えば、ハンドルバー先端に小さい缶コーヒー一本分ですよ!
(冷静に考えれば、ハンドルマウントのミラー相当の重量かもしれません)
磁石に付くので、無垢の鉄製です。
筆者の親しんだドゥカティMHRやF1の場合、単に樹脂製のバーエンドが差し込んであるだけで、
片側10gくらいではないでしょうか?(量ったこともありませんが)
メーカーの意図するところは定かではありませんが、
ハンドルバーの振動吸収目的の「おもり」でしょうか?
連続するギャップを高速で踏み越えた際などのハンドルバーの振れ(共振)対策もあるかもしれません。
もしかすると、万人受けの意図で、舵角の入り方を穏やかに(≒鈍く)するためかもしれません。
バーエンドひとつでメーカーが何を重視するか、想像がつきますね。
取り外して特性の変化を見る価値は十分ありそうで、楽しみです。
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ハンドルバーエンド(先端部)の重量物の、操縦性への影響を乗車フィーリングから考察すると、
●操舵軸(ステム)を中心とする回転運動末端の重量物は、動き出しに必要なモーメントを大きくするので直進安定性は高まる半面、初期の舵角が入りにくく、
●ある程度リーンが進んだところでは、慣性モーメントと、リーンに伴うイン側バーエンドの落下(イン側=低い方へ移動)の勢いが相乗して、舵角を入れようとする。
つまり、直進安定には寄与している反面、リーンアングルと舵角がリニアに連動していない可能性があると考えました。
●舵角やリーンアングルを減らす方向に調整したい場面でも、逆方向へのモーメントへの抵抗成分になる可能性がある。
やはり方向性としては、操縦性を「鈍」にする効果がありそうです。
●ハンドルバーはタイヤ接地点をてこの支点と見ると車体の中では相対的に高い位置にあり、左右方向にも末端に位置するバーエンド、
以前フットペグの作業の際に説明した「やじろべえ効果」は絶大なものがあるはずです。
バーエンドよりも内側に位置するグリップラバーを介しての、
ライダーのハンドルバーへの入力を相対的に小さなものにして、
安定成分を増す働きをするのかもしれません。
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運転者視点からは、ハンドル幅の狭さが強調された印象です。
実際に試乗してみるといかに・・・?
リーン開始からの前輪舵角の入り方(追従)が明らかにスムーズで速いので、
車体の向きが変わっていく感覚が、筆者の親しんだ空冷ドゥカティに近く、
狙ったライン取りに没頭できるのが非常に楽しい!
くるぶし内幅を追い込んだことでコントロール性が上がったこととの相性も良いと感じます。
見た目も、転倒時を考えても、バーエンドなしのままというわけにもいかないので、
できるだけ軽量なアルミ製のヤマハ車用(ハンドルバーは今どき単なるパイプではなく、末端形状が各社(車?)まちまちのようです)社外品が良いと思います。
極端に軽くしたくなければ、純正品をドリルで肉抜きして、
好みの重さにして使うのも通人的でよろしいかと思います。
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XZ400の代わりに預かって、一か月弱。
走らせたうえでの疑問点を考察・対処し、
(オーナー不在をいいことに(笑))親密さを増し、信頼関係ができつつあるところで、
名残惜しいですが、車両オーナーに引渡しの時となりました。。。。。。
翌日はサーキット走行とのことなので、混乱を招かぬよう、
あえてバーエンドは再度装着しました(部品持ち帰りの都合もあり(笑))。
預かる前との違いを体感してほしかったのですが、
時間の都合で短時間の「テストコース」同行短縮試乗となり、
ブレーキの操作感とリヤサスペンション作動性以外はよく分からない様子なのはやむを得ないところか・・・
本連載やXZ整備記事連載でも繰り返し書いていることなのですが、
「なぜそうするのか」、その上で「どう扱うのか」を改めて説明し、
本人が気になっている事象との関連などを少し話したところで時間切れ。
とにかくたくさん走りこんで、車両、挙動、操作への理解を深めて、
R7ならではの走りの組み立ての面白さの神髄に触れてほしいですね。
筆者の”整備+α”の意図を端的に言えば、
●リヤサスペンションをきちんとストロークさせ、
不安感減少/快適性向上/メリハリのある掴みやすい挙動・姿勢変化。
●コーナー外側のくるぶしと内ももで車体をホールド・荷重操作できる姿勢を作り、
上半身は自由にしてハンドルバーで体を支えない(=前輪舵角を妨げない)。
●思いのまま減速でき、制動の抜き加減をも制御できるフロントブレーキ。
●安定感を得るために、速度・姿勢・荷重調整がしやすいリヤブレーキ。
●できるだけ早い時期からスロットルを開けて、ドライブチェーン上側が張っている状態で安定感を自ら生み出しながら、自在なライン取りと加速パフォーマンスを楽しめる。
車両とライダー双方の本来の能力を引き出しやすくする、
できるだけ「大胆かつ緻密な操作ができる」ための整備・調整ということです。
以前の状態を「標準」としていたでしょうから、初めは戸惑うこともあるかもしれませんが、
ストレス・不安が減り、自信をもって走るための工夫のヒント・きっかけになれば幸いです。
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●オーナーに成り代わり、ここまでの整備と試乗を楽しんだ者として、
YZF-R7の特徴を”灸太郎くん流解釈”で、かいつまんで言うと、
「とてもうまく翻訳された、現代日本語版ドゥカティSS」といえると思います。
運転者の意識を「走り」に反映させる様が非常に面白く、
「さっきよりもまだいける」「今度はどう攻めてみようか」と
ポジティブな意欲を自身へのエネルギー源としながら、
ポテンシャルを引き出す実感を楽しみながらも、速度域が高くなり過ぎないところで充実感がある。
具体的に言えば、
●高級感は意識していないが、実質を重視した正直な造り。
●走りに必要な機能だけを残した割り切りの良さ。
●一見スパルタン風だが、走りに向けては非常にフレンドリーな(扱いやすい)特性。
●ヤマハらしい安心感を残しながら、コーナー入口での切れの良さ(反応、旋回性)。
●それに即応するトラクションの掛けやすさ(荷重コントロールしやすい車体とスロットルの開けやすさ)でライン取り自由度が高い。
●さらに大きく開けた時の速度の伸び感を伴った、強烈なビートのある蹴りだし感。
これらを一般道でも十分に楽しめるということです。
以前の「和製ドゥカティ風仕立て」TRX850を短時間試乗した印象は、
良くも悪くも「二気筒の音がする並列4気筒スポーティバイク」のようで、
ひたすら安定志向の走行特性にはこだわるべき個性は薄いと思いましたが、
R7の場合、見た目の印象は好みが別れるところでしょうが、
「二気筒の特性をメリットとして十二分に活かしたスーパースポーツ」として、
☆☆☆☆☆、太鼓判を押したいと思います。
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筆者は毎度一言多いのはわかっているのですが、
車両オーナーは上達を目指して熱心にあちこちのライディングスクールに通っていることで、
講師による表現の違い(個性?)が却って悩みを深めている節もあるような気がしました。
あるいは、一昔前の最大公約数的国産車(いわゆるレーサーレプリカ群含め)とは一線を画し、
安定成分を確保した上で大きく運動性能を追求した、
現代のスポーツバイクたるR7になじむ時間と経験が必要か?
昨日今日乗り始めたわけでもなく、スキー競技などに親しんだスポーツマンですから基本は理解しているはずなので、
むしろ一般道を使い、速度を上げず、できるだけ長時間バイクに親しんで、
自信と余裕をもって気持ちよく乗れる自然な状況(いわゆる「乗れている状態」)を繰り返し経験し、ライディングイメージの礎とするのが得策のように当方は思いました。
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ひとまずYZF-R7の新車整備+α、一段落となりました。
後輪周辺と比べて大きな問題は無いと思いましたが、
今回できなかったフロント周りの整備もいつか着手し、レポートできればと思います。