一度ガタが出ない範囲でアジャストナットを緩めてみたところ、
土の地面(青空整備場)では軽く動くものの、アスファルトの上では動きが重くなるので、一度分解してみないと気持ちが収まりません(笑)
良くて追加給脂・適正締付、悪ければベアリング総交換でしょう。
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【分解・確認】
●アッパーブラケット(トップブリッジ)を取り外そうとしても嵌合がきつく、下側から樹脂製の棒で叩くなどしても、どうしても外れません。
恐らく嵌合部に錆があり、はめ合いがきつくなっているのでしょう。
上に抜けないなら、重力を味方に下に抜いてみよう、ということで、
フロントホイール、フロントフォークも取り外して上下のフォークブラケットだけにすると、すんなりステムシャフトからアッパーブラケットが抜けました。
ブラケット単体では上に抜けなくても(質量に対して面積の大きい嵌合が3ヶ所あり、しかも斜め上に抜く必要あり)、重量のあるフォークを下向きに抜く(嵌合は同軸上の2ヶ所)のは簡単でした。
(フロントフォークを抜く前に、アッパーブラケット上面からの突き出し量をメモしておきます)
フォーククランプ部内側。わずかな汚れ程度の錆でも抜けなくなるほど、高精度の工作がされているということでしょうね。この部分は雨水だけでなく、ブレーキやクラッチのフルードがこぼれて浸み込み、腐食する可能性もあると思います。
●ボトムブラケットも取り外して、テーパーローラーベアリングを確認すると、
ご覧の有り様で、ほとんどグリスはありません。メーカー出荷以来30年間、分解給脂されていないのでしょう。水が直接かかって流れだしたりする箇所ではないので、元来新車時のグリスは必要最小限程度に塗られているだけなのでしょうね。
●フロントフォークやステムシャフトが通る、上下ブラケットの穴は内側を真鍮ブラシで掃除しておきます。
●フロントフォークアウターチューブは旋盤の挽き目があって汚れを落としにくいですが、
挽き目に沿って灯油をつけたスチールウールで磨いてやると、アルマイトを傷めにくくきれいになります。
(そのあと灯油をつけたウエスでしっかり拭き掃除しないと鉄さびが付着するので注意)
※灯油でなく水をつけて磨くと、鉄粉で非常に錆が出やすいので注意。
●ベアリングを受ける、アッパーレース側は?
当然のようにグリス切れ。幸い上側には荷重が大してかからないせいで、ひどい打痕や偏摩耗は無いようです。
●ヘッドパイプ内側、グリスが付着した銀色のシールは、向こう側に見えるフレーム(タンクレール)内に雨水が侵入しないように封をしているものと思われます。
他の車両がどうなっているのかは存じませんが、わざわざヘッドパイプに穴など開けないで溶接した方が、強度・剛性は高いような気がするので、溶接ひずみ対策や剛性の調整をしているのかもしれません。
●ボトム側のレースは?
こちらは大荷重を受けるので、特に後ろ側は打痕だらけになっていて、触感でわかるほど。要交換です。見ての通りほとんどグリスはありません。はじめにしっかりとグリスアップしておき、車検ごとには点検するのが良いでしょうね。
レース車両のように、新車の慣らしが終わったあたりで全て分解して組み直すと、本来の最高の状態を味わえるでしょうね。
自転車のステムなどは下側だけでフォークを支えているように、大きな力を受けるのは下側のベアリングやブラケットで、上側は支えているだけといっても間違いではないと思います。
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【ボトム側ベアリング交換】
不調の原因が突きとめられれば、あとは対策するだけです。
といっても、手持ちの新品ベアリングはないので、ここは実験として中古のフレームから程度のよさそうなレースを抜き出して再利用してみることにします。
(筆者はドゥカティSSに関しては、この程度の再整備は厭わないので)
左が現車のもの、右は他のフレームから抜き出したもの。できるだけ変形させないよう、アルミの棒を使って打ち出しました。
●ボトムブラケットのテーパーローラーベアリングは、洗浄し再利用するつもりでしたが、
舵角を規制するストッパー(イモネジ)が折れていたので、
この際ボトムブラケットごと程度のよさそうなベアリング付き中古品に交換して組みます(出所はボトムレースとは別の車両と思われる)。洗浄給脂して両者を比べてみると作動も良好だったので。
本来は出荷時にペアになっているものを組み合わせるのですが、精密な規格品なので大きな寸法違いはないと見越しての実験で、ダメなら後日新品で組み直します。
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【再組立て・調整】
↓清掃したアッパーベアリングレース。錆びや打痕はなし。
↓打ち替えたボトムベアリングレース。同じく錆び、打痕はなし。
打ち替えに際しては座面を清掃、レース外周に薄くグリスを塗り、
打痕のあったレースを治具としてあてがい作業しました。治具は今後も使えるので保管します。
こちらもフレームダウンチューブとの接合部に封がされていますね。
●この先、写真が無いのですが、上下のベアリングには、特にローラーのすき間にも押し込むように大量に(ケチらず)グリスを塗りつけてから、
ボトムブラケットだけ組み付けた状態で(アジャストナットを取り付ける前に忘れずにベアリングカバーをかぶせ)、一度ベアリングアジャストナットを強めに(打痕が付かない程度に)締め付け、左右ロックまで何度も動かしてベアリングに当たりをつけ、座りを良くしてやります。
その後一旦緩めて、ガタのないギリギリのところを狙ってアジャストナットを調整します。
フロントフォークなどが付いていない状態で、脇を締め、感覚を研ぎ澄まして作業します。
●アジャストナットにはロックナットはないので、ベアリング締め具合を調整したらアッパーブラケットを被せ、トップボルトを規定トルクで締め付けます。
●その後フロントフォークを差し込んで、左右ともアッパーブラケットからの突き出し量を分解前寸法に合わせてクランプを仮締めして(フォークを位置決め)、
まずボトムブラケット側を規定トルクで締め付けます。
●続いて、アッパーブラケットのフォーククランプ(仮締め)を一度緩めてから、規定トルクで締め付けます。
フォーク上下位置決めの基準をボトムブラケット側とするためです。
その後フロントホイールを復元し、各部の組み付け、締付を確認した上で、押し引きしてステムベアリングの作動やガタツキをチェックした後、試運転を行います。
●再調整する際は、フロントホイールをリフトアップして、アッパーブラケットを持ち上げてアジャストナットを適宜(外周で数ミリ単位)動かします。トップボルトを締めるとベアリングも締まるので、その分を見越して調整します。
●テーパーローラーベアリングは、例えば四輪のホイールベアリングのように、予圧をかけて(ある程度締めこんでスラスト方向に負荷を掛けた状態)使用するのが本来なので、今回のように負荷の少ない状態の場合は傷むのが早いかもしれません。後々確認しつつ運用したいと思います。
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【整備後の試運転】
目論見通り、ドゥカティらしく前輪はリーンに追従して素早く舵角がついていくようになったのに対し、
後輪が遅れるような、追従して旋回していかないような印象です。
以前整備したBMW S1000Rのような、前後輪とも同時に曲がり始めるような状況を内心期待していたのですが、タイヤの摩耗状況(断面形状の変形)もハンドリングに影響していると推測できそうです。
ひとまずタイヤ内圧を前2.3、後2.9㎏(=プロファイルを改善したいのでリヤタイヤ内圧を上げ、全体を膨らませることで中央部曲率に変化を期待)としていますが、加圧、減圧を試してみたいと思います。
ハンドリングに関しては、ひとまず現状の部品構成を利用して、
車高調整やばねプリロード、減衰力調整等含め、できる範囲での改善を後日まとめたいと思います。
●筆者の場合、ハンドリングを見る際は、できるだけ条件のいい日の、視界のいい日中に試運転をして確認・調整をするようにしています。
運転者由来の不安定要素(評価のブレ)を少なくするためで、明らかに乗れていないと感じるときはむやみに調整状態を変えないようにしています。
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【本音】
筆者は今まで所有した車両は殆どすべて、ステムベアリングを自分で交換・調整しているのですが、元来臆病な性質(笑)で、特にリーン開始時の舵角のつき方に納得できないと怖くて乗れません。
●例えばオフロードバイクの猛者など、この辺りに無頓着なようですが(うらやましいほど)、
筆者は(特に使用ですり減った)ラフロードタイヤはリーンと舵角の関係がまったくつかめず、怖くて乗る気も起きません。
●本来は916系から後のドゥカティ車両群のように、抵抗の少ないボールベアリング(大径ボールをレースに組み込んだもの)で組んでみたかったのですが、
調べてみるとボールベアリング採用車両はヘッドパイプの径もステムシャフトの径もまるで違い(太くなっている)流用不可能で断念。
国産車等で流用できる部品が見つかったら、ボールベアリングへの組み替えを試してみたいと思います。情報お持ちでしたらご一報いただければ幸いです。