
「コスモ」という車名はマツダにとって深い意味を持つ。1967年に発売した「コスモ・スポーツ」は国産初のロータリーエンジン搭載車として歴史に名を刻み、以後ロータリー車の代名詞となった。1990年4月、バブル景気の追い風に乗って「コスモ」は最強のスペシャリティカーとして復活した。
当時、マツダは販売店の5系列化を進めていて、「コスモ」はユーノス店のトップモデルとして開発された。当時は「ソアラ3・0GT」や「フェアレディ300ZX」が最強GTカーとして君臨しており、トヨタ、日産への強い対抗心があった。
「ユーノス・コスモ」は全長4・8メートル、全幅1・8メートルの大柄2ドアクーペだ。グラマラスな曲線のスタイルは存在感たっぷり。内装は木目パネルや本革シートをぜいたくに使った高級志向。GPSカーナビを初採用するなど、高い先進性も備えていた。
エンジンは“お家芸”のロータリーのみ。スポーツカー「RX-7」に搭載されている2ローターに加え、ルマン24時間耐久レースで総合優勝した伝説のマシンが搭載した「3ローター」を世界で初めて採用した。
3ローターのポテンシャルは極めて強力だ。何しろ排気量はレシプロエンジン換算で4000cc超。ジャガーやベントレーの12気筒エンジンのように低速から滑らかに吹け上がる。シーケンシャルツインターボによる過給で280馬力を発生した。最高出力の自主規制がなければ300馬力オーバーだったといわれる。
最大トルクは40キロ超。ひとたびアクセルを踏み込むと、1・6トンのボディはリアを沈ませながら猛然とダッシュを開始する。あまりの大パワーに専用クラッチの開発が間に合わず、4速AT車のみの設定となった。
だが、ユーノス・コスモは売れなかった。理由の一つは最悪の燃費だ。カタログ値は1リットル当たり6・1キロだったが、渋滞に巻き込まれるとたちまち3キロ以下に落ち込んだという。もともとロータリー車は低速燃費が良くないとはいえ、これは悪すぎた。最上級グレードで500万円を超える価格もネックになった。
初年度こそ年間3千台を売ったが、バブル崩壊後は1千台に低迷。いつしか「走る不良債権」と呼ばれるようになり、96年に市場から姿を消した。コスモは理想主義を貫いたマツダの傑作車だったが、悲運の“恐竜”となってしまった。
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昨年秋の東京モーターショー。会場でハイブリッド車や電気自動車が話題を集める中、異彩を放っていたコンセプトカーがあった。ロングノーズにショートデッキ、流麗で生命力あふれるプロポーションのFR2座クーペ「RX-VISION」だ。マツダはその心臓に次世代ロータリーエンジンを想定。「開発は進行中」とアピールした。
マツダの夢が本当に実現するか分からない。ただ、ロータリーエンジンの開発を忍耐強く続け、今なお挑戦する姿勢に敬意を表したい。
(中村正純)
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ユーノス・コスモ20Bタイプ-E
■エンジン 水冷直列3ローター ツインターボ 654cc×3 280馬力
■ボディ 全長4815×全幅1795×全高1305ミリ
■車両重量 1610キロ
産経新聞
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Posted at
2016/07/23 16:48:00