
海外調達の仕事をしていると、違法、合法のイミテーション、粗悪な類似品や廉価品に出くわすことが多々ある。数年前に自社のイミテーション部品の調査で海外に出張したこともあった。イミテーションそのものの調査もするが、流通プロセスや製造プロセスの調査もした。正直なところ、欧米の先進メーカーや国内の競合メーカーの製品をティアダウンしたときと、同じか、それ以上に多くの“気づき”や“学び”があった。
イミテーション部品(正規の本体に装着して使用する消耗部品や交換部品)の流通プロセスを調べると、概してエンドユーザーまでの距離が近い。正規品の価格は、中間マージンが幾重にもオンされ、メーカーの仕切価格の数倍、製造原価の十数倍になっている。それに対し、イミテーションの価格は、中間マージン分安い。驚くなかれ、製造原価そのものは、正規品の方が安いこともあった。流通マージンの高さが、イミテーションを作る動機になっていることは否めない。
ものつくりの視点でのエンドユーザーへの近さは、ユーザーの真のニーズ理解の深さに他ならない。ユーザーにヒアリングしたところで、機能や性能、操作性、耐久性そして価格のすべてにベストを求められることが精々だろう。ほんとうの要求(レベルと優先順位)は、ユーザーの購買行動に現れるものだ。ユーザーが安価な粗悪品を購入しているとしたら、ユーザーの一番の要求は、“安さ”ということだろう。我々メーカーが、“あるべき”機能、性能・・・・に拘り続けているのは、結果的にメーカーのマスターベーションでしかない。
もちろん既述のようなネガティブなことばかりではない。一般的には、正規品や高級ブランド品の方がコストの掛かる作り方をしている。しかし、中には、そうでないケースもある。低コスト至上主義であるはずのイミテーションや廉価ブランドが、なぜ、コストの掛かる製造方法を採用しているのかというと、端的に言って、「技術や知見がない」に尽きる。高度な技術ではないと我々が思っている、いわば、その仕事に携わったときからあたりまえのこととしてやっていることが、“高度な技術”であったりするのだ。
例えば、そのままでは硬く機械加工の困難な材料を日本では、熱処理を施し一旦軟らかくして加工し、その後、再度熱処理を施し硬くする。ところが、どのようにしたら硬いまま加工できるか、といった方向に走ってしまった彼らは、高価な刃物を使って、硬いままで加工している。高価な刃物を使っても加工に時間が掛かり、加工を施す範囲は限定される。その結果、部品の精度は低く、最終製品の性能も見劣りするものになる。それでいて高価な刃物を長時間使用するので製造原価は高くなる。それでは、彼らはなぜ日本と同様の製造プロセスに転換しないのか?そう、彼らは硬い材料を熱処理で軟らかくし、再び硬くする熱処理の技術がない。熱処理の技術とは、細やかな温度管理や炉内の設置方法など操業ノウハウが中心になる。高性能の装置を買ってくれば良いという類のものではなく、トライ&エラーを重ねなくてはならない。スピード優先のものつくりでは、スルーされる技術である。
日本の技術といっても、その多くの源流は、欧米製品のコピーである。当時は、高性能な設備もなければ、あったとしてもそれを導入するカネもなかった。あったのは、トライ&エラーを積み重ねる愚直な現場、今風に言うところの現場力である。そこから育まれた技術は、今では空気のようになっているが、イミテーション調査は、その価値を再認識させてくれる。
一方、良い製品が売れるのではなく、売れる製品が良い製品であるという現実に目を背けてはならないことも、最後に記しておきたい。(執筆者:岩城真 編集担当:大平祥雲)(イメージ写真提供:123RF) :サーチナ 2016-06-16 19:24
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2016/10/19 10:07:45