



中国で外国企業への嫌がらせがまたも起きた。南シナ海での中国の主権を否定した仲裁裁判所判断を受けて、中国各地で米国系製品のボイコット運動が勃発。都合の悪いことが起きるたびに、脅しのように経済面で圧力をかけてくるのは中国の常套手段だ。2012年の尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化では暴徒化したデモ部隊に日系企業がさんざんな目にあった。「チャイナ・ハラスメント」はいつまで続くのか。
ケンチキ行くと「先祖の面汚し」
政治・外交の恨みの矛先を、無関係な企業や民間人に向かわせるやり方はまったく変っていないようだ。
国連の仲裁裁判所が7月、南シナ海での中国の主権を認めない判断を出したあと、中国で米国系製品を買わないように呼びかける不買運動が広がった。
仲裁裁判所に申し立てたのは南シナ海の領有権をめぐって対立するフィリピンだったが、矛先は主に米国に向いた。米がフィリピンをたきつけて、仲裁裁判所に持ち込ませたと逆恨みしているうえ、南シナ海での軍事的行動をにがにがしく思っていたからだ。
抗議活動の恰好のターゲットは、日本でも馴染みのある米系ファストフード、ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)だ。
KFC創業者、カーネル・サンダース氏のイラストをあしらった店舗デザインは確かにアメリカ的だが、フライドチキンと南シナ海問題はまったく関係がない。しかも、店の従業員も客もほぼ中国人だ。それでも、KFCへの抗議は、中国全土で少なくとも十数件起きたとみられる。
携帯電話のショートメッセージなどを通じて集合時間と場所を知らせて実行。中央日報(日本語電子版)によると、KFC店舗周辺で、「先祖の面汚しをやめよ」と商品を食べないように訴えた。山東省では、小学生が教師に引率されてKFCを訪れ、「米国製品排斥、領土は一寸たりとも減らさない」とスローガンを叫んだという。
狙われたのは、KFCだけではない。
尖閣国有化で、デモは暴徒化
スマートフォンのiPhone(アイフォーン)を販売する米アップルにも矛先が向いた。
江蘇省では約100人を超える抗議集団が米アップルの販売店を取り囲んだ。
ロイター通信によると、抗議は3時間におよび、「米国製品をボイコットしろ。アイフォーンを中国から追い出せ」と繰り返した。
中国では、市民活動の動きは、当局のコントロール下に置かれている。こうした不買運動や抗議活動は、当局の容認がなければ起こりえないことだ。
実際、共産党機関紙、人民日報系の環球時報など中国各紙が「KFCへの抗議は間違っている」とする意見を掲載すると、さっと抗議活動は下火になり、“官製デモ”の一面がのぞいた。
尖閣国有化で暴徒化、当局のコントロールは
2008年には、仏パリで北京五輪の聖火リレーが妨害されたことを受けて、中国で大規模な仏製品の不買運動が起き、仏系スーパー、カルフールが抗議デモの標的になった。チベット騒乱への武力鎮圧をめぐる欧米からの批判に、中国が業を煮やしていたことが背景にある。
日系企業も激しくやられた。2012年の尖閣諸島の国有化に抗議する反日デモだ。暴徒化した集団に日本料理店や日本車に乗った人まで襲われ、世界を震撼させた。
山東省のジャスコ黄島店は、デモ隊に外壁や店内を破壊され、ホンダとトヨタの販売店も壊滅的な被害を受けた。キヤノン、パナソニックなど日系メーカーの現地工場も相次いで一時休止に追い込まれた。
いつかは、中国当局に矛先が
中国は米国に次ぐ経済大国に成長し、多国籍企業が多く現地に進出している。その立場を巧みに利用して、外交で不利な摩擦が起きるたびに、企業を標的に抗議活動が展開される。
しかし、それは、中国の不安定化を招くリスクを背負う手段でもある。
官職の腐敗、経済格差、言論の制限、景気低迷などに不満を募らせる中国市民の感情が、デモをきっかけに爆発する恐れがあるからだ。2012年の反日デモ翌年の13年は、デモの扇動はなく、静かな年となった。デモが恒例化すれば、いつか中国当局への抗議に転化しかねないとの懸念があったとみられる。また嫌がらせによって「チャイナリスク」が強く意識されれば、企業の脱中国の動きも加速させるのは必至。中国外交の横車を押す「チャイナ・ハラスメント」だが、自国の首を絞めることにつながる〝もろ刃〟でもある。
:産経新聞
Posted at 2016/08/08 19:07:21 | |
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