いつからだろう。
車で買い物に行くことが「何の感動もない作業」になったのは。
いつからだろう。
運転をすると、時に苦痛を感じるようになったのは。
いつからだろう。
ハンドルを握りながら、暇を感じるようになったのは。
18の時、免許を取った。当時はまだ、
「男でAT限定免許なんて・・」
というのが常識だったので、特に考えずMT免許を取った。
緊張しすぎて仮免で落ちて合宿仲間の卒業を見送ったのは黒歴史の1コマである。
それはともかく、免許取りたての頃は短時間でも車で走るのが好きだった。
友達を駅まで送っていくのも、
市中を回り道しながら走るのも、
スキー場へ続くボコボコの雪道を走るのも、
とにかく楽しかった。
車なんて買えないから、レンタカーだったり、友達の親の車だったり、様々な車に乗った。
しばらく時は流れ、自分で車を持つようになった。
スイフトを買う前、3台続けて3ナンバーサイズの車に乗っていた。
三菱GDIギャラン、ボルボS80、BMW525i。
なにもボルボだけでなく、上にあげた3台では割と走る際に苦労していた。
3ナンバーボディは家族がゆったり座れる広い室内だった。トランクも大きかった。
ただ、日本の道で3ナンバー車を走らせるのは苦労を要するのだ。
それがスイフトという、5ナンバー枠に入る車を買った理由だった。
そして現在。
月に数回、食料等を郊外の店へ買い出しに行くとき。
ナビを設定し、アクセルを踏むと、景色が流れていく。
頭の中で「右に歩行者」とか「対向車はみでてる」とか、発見と処置を無意識に、淡々と処理していると目的地に着く。
さて、買うものは・・とか言いながらドアのロックボタンを押す。
それだけである。
それが片道100kmの旅行先でも、高速を使うか、景色の良し悪しは別だが、運転への印象は変わらない。
それだけになってしまったのである。
スイフトはコンパクトカーだが、それでも100km出しても怖くもなんともない。まだ余裕さえある。
静かに滑るように走る。きちんと反応する。そうなるよう手を入れてきたから。
年を取るにつれ経験を重ね、タイヤ1つにしても好みを選んで買うようになった。
燃費なども含めて十二分に納得するレベルである。
でも、前が空いた時、多少アクセルを多めに踏んでスリルでも作らないと暇で仕方ない。
自分が探した抜け道より、最短ルート設定のナビの方が早く着く。
細心の注意を払ってアクセルワークをするより、クルーズコントロールの方が燃費がいい。
言われたとおりに操作してください。
車からやんわりそんな事を言われる感じ。
自動運転が実用化されたら行き帰りは確実に任せるよなあ、運転は現地だけでいいやとか思ってしまう。
燃費と効率、体への無駄な負担を排除していった結果、運転しているのに、することがなくて暇だと脳が訴えるようになってしまったのだ。
話は変わるが、私はスズキのジムニーを羨ましいと思う。
なんというか、自信満々というか、堂々と走っているように思う。
いや、オーナーが、ではなく、車が、である。
走り抜けてきた誇りというか、不思議と古い型ほど、ノーマルであるほど、傷だらけであるほどそう思える。
今はJB64という素晴らしく滑らかに走りながらもクロカン性能も上がった最新型があり、発売以来未だに購入には1年以上待たされ、中古車はもれなくプレミア価格がついている。
今のご時世にプレミアは凄いと思う。
スズキは本当に商品作りが上手い。
ZC72スイフトのシンプルなガソリン車は雑味がない。初代XSも最終型RSも変わらない。
アイドリングストップもデュアルジェットもないが、運転に素直に応えてくれる。
技術陣がちゃんとコンセプトに対してテクノロジーを揃えているからだろう。ちぐはぐさがない。
で、その現行型ジムニーが出る前、旧型であるJB23は1998年から2018年まで作られた。
1車種がマイナーチェンジを繰り返しながら20年も作られるって他にあるだろうか?
確か設計コストを回収するから長く作ると言っていたマーチでさえ10年サイクルだったはずだ。
そして最終型までちゃんと人気があったのである。
ただ、私はどうしても買えなかった。
ハンコを押す踏ん切りがつかなかった。
ジムニー自体は何度も試乗していた。
スイフトの車検中に代車で借りて遠方に旅行も行ったし、短時間の判断では決してない。
ゆえに、必ずこの結論になる。
私では本格クロカンは持て余す。
フラットダートは走る・・だろう・・かもしれない。
川?眺めるものでしょ?
岩場?車で行けるわけないじゃない。
そんな私である。
それらの踏破を可能とするのが、特に最上級のクロカンとされるジムニーの本領である。
最上級はランクルやレンジローバーだろと思うかもしれないが、それらはデザートリムジンである。
アラブの王族が砂漠を時速160kmでぶっ飛ばし、日が暮れるまで砂丘を上り下りするための車である。
粉のように細かい砂にどれほど埋もれても必ず自力で出られる。
特にランクルは氷点下数十度の砂漠の夜でも故障することすらない。
デカくてもいい。王族が快適に過ごせればいい。
そういう付加価値を顧みず、純粋にクロカンを追い求めたのが軽ジムニーである。
燃費が10を超えるのは何かの吉兆だろう。
一般道のうねりを制限速度内で超えたとしても首がどうかしそうになるくらい跳ねるのは仕様だ。
それでも。
細い林道でも、川でも、道ですらない岩場でも、普通の車ならJAFを呼ぶ深雪地でも。
ジムニーはゆっくりゆっくり、決して立ち往生せずに進んでいく。超えていく。走り抜けていく。
横転したら起こせばいい。ガラスが割れようがボディが凹もうが走行に支障はない。
絶対に目的地まで送り届ける。故障は目的地に着いた後で直せ。部品はいくらでもある。
それがジムニーの流儀だ。
だからこそ、私は持て余す。
得られるメリットを使いきれず、デメリットは常にまともに食らう。
だからこそ、ため息をついてカタログを閉じてきたのである。
そんな私がこの子に出会ったのは、こんな風景だった。
馬鹿みたいに広い空の下、なんとなく立ち寄った中古車屋のストックヤードを歩いてると、目が合った。
軽自動車という日本独自の規格は1949年に始まり、すでに半世紀以上存在する。
この子は旧規格、つまり現在の軽規格より1世代前の物だ。
全長329cm、全幅139cm、身長もとい全高163cm。
ちなみに現在の軽自動車は
全長339cm、全幅147cm、全高183cmなんてのもある。
明らかに全部一回り小さい。
なお、当時の軽自動車は高速道路でも最高速度は80kmだった。
(現在は普通車と同じ100km)
だから軽自動車の多いストックヤードの中でも「ちんまい」のである。
初代パジェロミニ。
出た当時からスタイルに惚れ、何度も気になった車だった。
四角目でスマートになった2代目より、こっちの初代が好きだった。
しかしカタログを貰って驚いたのは、何もかも別売りオプションだったことだ。
フォグランプはおろか、ABSやリモコンドアロックすらオプションといえば分かるだろうか。
カタログに載ってる写真のような姿にするためには、莫大なオプションを取り付けてやる必要がある。
そのため簡単に新車総額が200万を超えてしまう。
さらにいえば、この車はとにかくジムニーと比較された。
そしてジムニーよりクロカン性能が劣る事を指摘され、格下、劣る車と揶揄された。
今もジムニー乗りの多くの人はそう思っているだろう。
さらには同じパジェロミニ同士でも、ターボモデルは1気筒辺り狂気の5バルブを備えた超高回転型エンジンで、インタークーラーターボが機能し始めるとすっ飛んでいく加速番長仕様であった。
新車当時も圧倒的にターボモデルの方が人気があった。
当時の軽自動車ではターボこそ正義だったのだ。
ゆえにごく常識的な仕様の自然吸気モデルは
「後ろから蹴っ飛ばしたくなるくらい遅い」
などと言われた。
さらにはATが3速しかないうえにコンピューターが脆弱だったこともあり、
「ATどれだけ壊れるの」
「もうかんべんして」
そんなコメントが並んでいたし、そのレスには
「だからジムニー買えとあれほど」
とついていたのである。
ゆえに購入の選択肢にはならなかった。
しかし、さすがに初代はあまり見ないけれど、2代目は今現在でもよく見かける。
2代目がひっそり生産終了したのは2011年の事だから、もう10年たつのに、である。
運転するのは老若男女問わないし、おばちゃんも結構運転してる。
ジムニーはほぼ100%男性、それも若者か中年までである。
ばぁちゃんが
JA22のジムニーを運転してるのを、少なくともこの1年見たことはない。
話を戻そう。
この子はタイトルにも書いたけれど、製造から24年たっている。
つまり1997年式。
ハイマウントストップランプすらない時代の1台。
リモコンドアロックもABSもない。一方でチョークが必要なほど古い訳でもない。
ECI-MULTIと呼ばれるマルチポイントインジェクションを積む、1気筒当たり4バルブというごく普通の4気筒52馬力エンジン。
だが、小柄な割に軽量化の概念すらなく、総重量は1.1トンに達する。
排気量で換算すれば2トンになったスイフトだ。燃費がいい訳がない。
実際、ドアやボンネットを閉じる時の音は、自動車というよりトラックというか建設機械のそれである。
その時思いだしたのが、
初代パジェロである。
三菱が作った、「荒天でも快適に過ごせるようにしたジープ」
生い立ちがジープゆえ、非常にシンプルな構造で、必要最低限の装備である。
ゆえに修理が簡単で、今も東南アジアや東欧、ロシア等で走っているらしい。
その初代パジェロの軽自動車版といわれると色々腑に落ちる。
ドアも、リアゲートも、ボンネットも、閉めればガチンと丈夫な鉄が合わさる音がするのもジープベースならそういうもの。
なお、ジムニーはこれよりさらに凄い音がする。
同年代のジムニーは
JA22になるが、内装も鉄板むき出しだったりする。
ガチでバン(商用車)登録だし。(パジェロミニは普通車登録)
燃費がNAでさえ10を上回るかどうか怪しいというのも、初代パジェロ本家の5km代に比べれば、である。
燃費が悪い事に変わりはないのだが、初代パジェロよりは現実問題として維持していける。
古いがゆえに自動車税は最高ランクとなり、年間12900円だ。
悲しい事に、それでも5年目スイフト(34500円)の約1/3である。
自動車保険もスイフトより安かったりする。
なお、高速代も有料道路も軽自動車料金。
駐車場も軽自動車枠に悠々止められる。
あぁ、普通車と軽自動車の差よ。
価格的にもさすがに24年落ちなら50万くらいで乗り出せる。
※中古車は諸費用とそれなりの消耗品交換と整備をするなら20万くらい車両本体に足さねばならない。
しかし、不安も多い。
今まで所有した最長老は11年落ちのBMW318i。
たった1年半の間にこれでもかというくらい壊れまくった。
純正部品の新品が箱に入った状態で故障していて、ディーラーが平然とそれを渡した時は本気でショールームでブチ切れた。
最初からエアコンは動いてなかった。冬に買ったから気づかなかった。
ボルトは簡単にねじ切れ、修理すれば修理してない所から水やオイルが漏れ、ウォーターポンプは腐食して崩れていた。
毎週修理屋に通い、補修部品を買いながら預金通帳を見て溜息をつくのは悪夢だった。
最後は車検見積もりで故障腐食のオンパレードで100万以上かかると言われ、詰んだ。
雪国で走った車の現状販売というものの恐ろしさを学んだ1台だった。
24年経ったパジェロミニは、どうなのだろう。
普通に考えれば上記以上の悪夢が待っていそうである。
販売店いわく、まだサードパーティを含めれば部品は出るらしい。
間違いない事実は、買うなら人生で最後の機会だろうということ。
軽々しくチャンスとは言わない。
安心という意味なら、150万くらい払って2代目の高年式をトヨタ系ディーラー等で購入し、2年保証つけてもらう方が良いに決まってる。
しかし、私は初代の方が好きなのである。
そもそも50万と150万は次元の違う話だ。
余談だが、ジムニーは当然として、他にも実は指名買いされる軽自動車は存在する。
パジェロミニ、初代ミラジーノ、ネイキッドなんかが良い例である。
1/1スケールの、自分が乗れる、公道を走れるおもちゃとして趣味車の地位を勝ち取った車達だ。
ミラジーノは機械的にはミラなので、安く直せて維持しやすいオールドミニという認識らしい。
確かに今から
オールドミニ(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション製のミニ)を買うのはひと財産使う覚悟がいる。部品取り車と専用のガレージ、アストロの工具フルセットが最低限要るだろう。
私が初代パジェロを買うどころじゃない敷居の高さである。
そんな話を横耳に聞き、頭の中で現状把握と算段を重ねながら、この子を触ること15分。
口をついて出た言葉は、自分でも意外だった。
「買います。整備内容の話を詰めましょう」
「買い替えですか?」
「いえ、増車で」
さすがに24年前のクラシックカーに片足突っ込んでる軽自動車にメインカーの役目を担わせるほど無謀ではなかったのである。
スイフトの車検は今年10月。
梅雨と夏は一番車にとって過酷な季節。夏の終わりには何らかの結論が出るだろう。
あまりの故障続きで早々に手放すか、共存か。
まさかパジェロミニ一本化は無いだろうが・・