2014年08月03日
94北往記1。山陽路
1・第1日/山陽道走破
▽計画実行前夜
※広島駅
今回、この広島駅からの発車とした。
発車の約一時間前にコンコースに入った訳だが、昨今JRを殆ど利用していないのと、アジア大会に向けて駅構内を改装しているのがあいまって小綺麗になってる。
それらを見回してから、暫くするとムーンライト山陽も入線して来たようだし、改札を抜けた。例の18切符に日付を捺印し、ホームへと入って行った。
※去り行く者へ…
ムーンライト山陽は3番線にいるのだが、考えがあって私は4番ホームに降りた。
ここは、広島で数少なくなった“特急到着ホーム”である。
乗り場案内の電光掲示板には“みずほ”の文字がある。
みずほは、この冬の大規模ダイヤ改正で姿を消すとの日経新聞の記事があった。
先頃は東海・山陽を走るブルトレの食堂車が営業を停止したばかりである。
殊に広島のJRでは新幹線一人が気を吐いて、他は寂しくなる一方だ。
妙なことを言うが、この旅行を出回って“ステン車輌”を見なかったのは広島だけである。
(20年後の現在でさえキハ120がわずかにあるばかりである(-_-;)
言い換えれば、昭和末期以来新車を充当していない数少ない地域である。
すっかりビジネスライクに徹して、今回のような旅行の情緒を一層感じ取られなくしてしまった。
そこに持ってきて、それを持っていたはずのブルトレも年を追う毎にその旅情を薄めて行く。JRの山陽路にはかつての旅情はもう求められないのか?
その鬱積をぶつけたくて、みずほを見送ることを考えた。
時間がきて、みずほも入線してきた。いつもの表情でいつものようにすまし顔で入ってくる。だが、来年からはこのみずほは存在しない。行く末短いこの列車も、それを素知らぬ様に振る舞う。無機物の列車だから当たり前と言えば当たり前だが、そういう風に考えると澄み切っているはずの青い車体が澱んで見えた。
そして発車。おそらく私が間近に見る最後のみずほである。持っていたビデオカメラで走り去るみずほを追った。緑と黄色のテールマークも、しっかり目で追った。
みずほは遠く、今から私が向かう東京へと一足早く旅立った。
▽広島 0:13~京都 6:26・ムーンライト山陽(オハ14 185)
※発車
さて、3番ホームに戻り、指定席を捜して屯座した。
まだ発車まで20分ほど有る。
山の手の窓際。不満と言えば不満である。真横に窓枠があるし、須磨浦も拝みにくい。
まぁ贅沢は言うまいと思っていた処、“さくら”が先程の4番ホームに入った。
さくらも先程のみずほ同様に九州ブルトレの一員であるが、どうやら廃止とは無縁らしい。
みずほ以上の“最古の歴史”もある。
親しまれる“三等車特別急行”から成り上がった歴史は伊達ではない。彼にはみずほの分まで頑張ることを期待したい。
(こちらは2005年に廃止の憂き目に遭う)
さくらを見送ると0:13分は間もなく。いよいよこちらムーンライトの発車である。
滑り出す広島駅ホーム、漆黒の闇に沈んだ市街。
根室までの、足掛け3日間のマラソンレイドの始まりだ。
第一目標は東京。到着は15時半。15時間強の道程である。
広島機関区、運転所を左右に見送り、いよいよ市内を離れる。発車の車内アナウンスが終わると速攻で微灯。車内も薄暗くなる。だが、急に寝ろ・と言われて眠たくなる訳はない。天邪鬼の私は窓外の景色を見つづけた。
※快走
見慣れたはずの山陽路の風景だが、午前零時という時間帯がいつもと違う雰囲気を醸し出す。
実は、ムーンライト山陽を利用するのは実に3年振り3回目である。
と言うのもこの列車には苦い思い出があり、当分利用は避けていたのだ。
話せば実にくだらんのだが、この列車、一番最初は“12系急行型客車”を使っていた。
こいつは側窓の開く型式である。こいつに乗って早朝の京阪路の涼風を浴びるのが一つの目当てであった。
処が翌年には“14系特急型客車”に格上げされた。
こいつはリクライニングシートなどもあったが側窓は固定式で開かない。
外の空気を嗅げないばかりか、明け方までには冷房を切ってしまう。
その結果、凄まじい足の臭いで目が醒めるという最悪の状態になった。夜行列車では長丁場を寛ぐために靴を脱ぐ人が多いからだ。
今年もこの冷房がいつまでついているやら…それを思うと、気安く寝つけなくなる。
この時間、上りは“さくら”で終了したブルートレインの離合は、瀬野で下りの離合を始めることになる。一番手は新大阪発車の“なは”らしい。
山陽路の山あいを縫うムーンライト。
この時間にもまだ灯りの着いている部屋を幾つか認められる。
最近は25時頃というのは以前ほど深夜でなくなったように思われる。
左右に見え隠れする国道2号線も乗用車が目に付くようになった。今般は事情によって盆休みからシフトした日程を取ったが、そう考えているのは小生ばかりでなく、実に大勢の人がいるようだ。
国道2号線も南に下って30分ほど、もの寂しい自然の風景を見送った後、広島を出て久しぶりに都市風景を見ることになる。三原である。
この三原で20分、次の糸崎で5分もの待ち時間を喰らう。
こんな事なら寝て置けばよかった、と思うほど蒸し暑く思われた。
ヘッドホンステレオが唯一の娯楽に思えた。
目の前には自販機もあったが、岡山までは乗降扱いをしていないので表に出られない。
こんな時に・と用意して置いたのは“秘密兵器”。
いやそう大した物じゃないが、自前の飲料水である。
買い揃えた保冷袋に1lと2lのポリタンク。
残った使い捨てコップを取り出した。
1lにはサイダー、2lには麦茶を、前の日の朝から凍らせたものが入っている。
サイダー缶が膨脹しているのに驚き、これから栓を開けたが、驚いたことに殆どが氷。溶けている部分を入れてもコップ半分が精一杯だった。
涼を取り戻して列車も快走しているのを愉しみ、福山を過ぎた辺りで疲れに任せて暫く眠りに着いた。
実は前の日午前五時起きで仕事を済ませてそのままだから…
※トランスファ
次に目が醒めたのは程無く岡山に入る処であった。時刻は26時57分。
左手の電車区車庫には、岡山で1泊する115系3000番快速用車両や、381系“やくも”がいた。
寸もなく岡山に入線したが、妙に物静かだ。それで居て物音だけは騒がしい。
恒例だが、ムーンライト山陽の運行中はこの岡山でムーンライト高知を併結する。
おまけにこの時間に下りも入線するのでこの場に4つの列車が一同に会することになる。
座った姿勢のまま体が固着しかけたので体をほぐす意味でも席を立ち、ビデオカメラ(ソニーTR75)を右手にホームをぶらついた。
(当時はバッテリーが課題だったため撮影は虎の子のシーンに限られた(T_T)
そうすれば、いるいる。上りムーンライトのほかにも下りムーンライト。こちらはまだ分割を終えておらず、ブルーの山陽と、スカイブルー・ホワイトツートンの高知が一繋ぎになっていた。私のいる10番ホームには俄かカメラマンもパラパラ。さて・私も一寸。
やがて最後の客員・上りムーンライト高知も到着し、岡山降りの乗客を降ろすといよいよ併結に掛かった。
高知発は電気機関車を構内回送に使って山陽の前に連結した。
面と向かってこんな併結作業は見たことはなく、必死にビデオカメラを回していると、忘れていた客がもう一丁来た。
東京発の“はやぶさ”である。
北海道行きの豪華列車が乱発した現在、今やその存在は“ブルートレインの飛車角”になってしまったが、多彩な編成内容はまだ普通列車や臨時快速などをはね跳ばしそうな威容を持つ。つい私も目を奪われた。
総べての作業を終えてはやぶさ、下りムーンライト山陽に続いて我が上りムーンライトが発車した。最後発になる下りムーンライト高知を左手に見送って再び列車は闇に抱かれた。ついでに私も眠りに抱かれてお休みなさ~い。
※もう一つのお得意様
次に目が醒めたのは加古川である。時刻は28・いや4時頃。
その前に姫路到着も認めたが再び寝惚けていた。長閑で愛すべき蓮根畑や水田もこう眠くては気合いが入らん。
そう言う訳で、本格的に目が冴えたのは明石からである。
丁度5時前。AMラジオも放送を開始し、目の冴える相棒が付き添ってくれる。
明石を出て朝霧を通過する頃から瀬戸内海を右手に見て、その異様を顕にし始めた明石大橋も右手に…、そう、見所はみんな右手に流れ、こちらの窓際は山ばっか!クソぉ・グレてやる!
神戸。ここまで走るとすっかり夜明け。
だが残念ながら天気は今一歩さえない薄曇り。
ここの朝はいつもこうすっきりしない。だが六甲山の裾野が開けてビルが林立して、左脇から神戸高速鉄道のレールが生え、三宮駅で阪急駅と並ぶと調子が戻ってきた。
通過地点だというのに休憩地点に来た安らぎを覚える。ここは列車旅がその日付を跨いだときにきた初めての場所だからだ。
そう。いつだってこの列車旅の拠点はこの京阪神間にあった。
神戸市内を過ぎて阪神間の都市を駆け抜ける間に朝日が車内を突き刺す。琥珀色の鋭い明かりに洗われた六甲山麓。これだって夜行列車の醍醐味である。
軽快な台車の響きは電気系統のモーター音にともすれば殺されがちだが、阪神間の屈曲の少ない鉄軌の上を快走する。
それが腹に伝わるトラスの響きになるとそこは淀川。大阪は間近になる。
大阪を過ぎても時刻はまだ5時50分。まだ早起きに当たる時刻だ。終着の京都までまだ30分強。もう一眠りと洒落こんだ。
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後記
今やムーンライトやブルトレと夜行列車全般が昔話になってしまったが、夜行列車で随分愉しんだ記憶が鮮明に書かれてる。
その夜行列車の閉鎖空間でどう過ごすかも書いてて今や興味深い。
その工夫も出来なくなった現在という現実(T_T)。
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蔵出し鉄旅録 | 旅行/地域
Posted at
2014/08/03 21:55:30
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