対厳山のブログ一覧

　著者　　　新藤兼人
　出版　　　2005年新日本出版社
　入手度　　易(原稿当時新刊のため)
　難易度　　易

　内容
　それは『白いシャツを着ろ』という妙な命令。

　映画人として上京(都(^^ゞ)し、しかし予備役応召で宝塚にいた著者が後日訪れる事になるヒロシマの最初の情報だった。

　幼な日に歩いたあの美しい街がかくも無惨に破壊された。
　その衝撃から、社会派映画の創り手としても看過できないヒロシマと核を描くその自伝。

　プレスコード解除を待ちわびて原爆への怒りをぶつけた『原爆の子』に始まる5作品と、それらの掉尾の仕事に是非やりたいという(しかし適わなかった)『原爆投下の惨劇を描く映画』の未公開稿に触れる。



　広島近郊の出身で2012年に100歳の大往生を遂げた新藤兼人監督。
　年少の頃に家を没収されて身一つで映画界に上京というなんとも凄まじい前半生を送られているんですが、そのパワフルさは私も見習いたいところです。
　もっともこの本はそのかなり後のお話なんですけれど(^_^;)。

　こういう自伝というのはちょっと取っつけないところがありがちなんですが、序盤でかなり当時の映画界の裏事情をテンポ良く暴露されてますので、けっこう取っ掛かり易い本だとは思います。
　特に文字通り一生の伴侶として新藤映画を彩る乙羽信子のエピソードは爆笑級なのがあります。

　とはいえそれは刺身のツマ。
　本題に入るにつれてその力のこもった被爆伝承を綴っていきます。

　ここで気になるのは、新藤監督本人は被爆者でない(!)こと。
　それがかくもこのような被爆追求作品を撮り続けてなお消化不良とは。
　そこに被爆の本質が潜んでいるんですよ。

　映画人としてまだその真実を誰も描いていない。未公開稿はその真の姿を模索し、しかし創られやしないだろうと言う一種の諦観。
　被爆というのが昔話や戦争の惨劇の一言で済まされないその大きさを知る本です。

　著者　　　岩波書店/岩波映画製作所
　出版　　　2008年岩波書店(復刻版)
　入手度　　難
　難易度　　易

　内容
　当初は被爆啓蒙の書籍ではなく広島観光の手引きとして編集されていたが、講和条約発効で被爆報道の規制撤廃とライバル紙のアサヒグラフの特集刊行情報から編集方針を一変、1952年の被爆忌に満を持して刊行された日本初の被爆ハンドブック。

　当時ならではの情報のブレはあるモノの一方では当時だからこそ掲載なし得た生々しい情報がわずかな誌面に写真として網羅されてる。
　中には今だと掲載がためらわれる罹患写真も無遠慮に掲載され、資料としては貴重である。
　この冊子は有名なアサヒグラフより倍以上の値段をしながらも増刷を重ね世間の興味を惹いたモノとされている。

　2008年に文庫復刊のおり山田洋次監督の推薦の許復刊をなし得た。



　偶然ジュンク堂書店で見つけた書籍だが、これには驚かされた。
　アサヒグラフの評判については漏れ聞いてるが、こういう完全復刻という形でこの書籍に相まみえた岩波書店には感服する。

　当時は報道のガイドラインも現代とは大きく違っていて、よかれと思ったら無遠慮で報じるさまがこの書籍では正しい方向に働いている。
　むろん内容の正否についても勘案しないといけないが、基礎知識があれば許容範囲だ。
　また近年このときの取材を元にした写真集が出たようでこれも一見の価値ありだ。

　取り扱い書店が限られるが、一見の価値はある本だ。

　余談だがほかにも各著名人の推薦でこの文庫は十数冊復刊されたようで、いろんな分野の興味事がコンパクトに編集されているのが愉しい。
　かつての保育社カラーブックスの簡便さと情報量を彷彿とさせる。
　昭和/戦後を識るのにうってつけのシリーズだとお勧めする。

　著者　　　中谷吉隆
　出版　　　1997年JCIIフォトサロン・図書印刷
　入手度　　難
　難易度　　易

　内容
　1955年の広島。
　被爆の傷は一通り癒え、市民は新しい生活に追われて活況を呈する街角。
　その日々の中に存在するヒロシマを抑揚無く追う写真集。



　今回はあくまで一例です。
　どちらかというと現在は南々社の「百二十八枚の広島」「生きていた広島1945」などもっとうってつけの写真集が発刊されてきましたし。

　これは平々凡々に、被爆10年後を追ったカメラマンの作品です。
　コレ、実はカメラ屋でタマタマ置いてたんで衝動買いしちゃったんだわ(^_^;)。

　被爆とか戦災とか、この写真集は目を付けて追いかけている訳じゃない。
　しかし散見するヒロシマ。
　その中で戦争が昔話になりつつあるときの現実を写真から伺い知ることが出来ます。

　考えてみると、人って基本的に前向きにモノを見たがるから、こう言うときに被爆なんて・って訴えるのはかなりのエネルギーが居るんですよ。だけどプレスコードの解除で原爆を語る口をふさぐ手が離れたのはたった3年前。
　その中で抑揚なくありのままを両面で観ることが出来る写真集です。

　マァこの本は一例として、別に被爆の惨状や平和活動ばかりを追う本だけが被爆を語るとは言えないんです。
　当時や復興時の生活を垣間見て、破壊や復興の航跡を見るのもまた学ぶモノ計り知れません。

　著者　　　黒古一夫、清水博義編
　出版　　　2005年日本図書センター
　入手度　　図書館閲覧
　難易度　　易

　内容
　被爆60年をしてなお訴求される核廃絶の原点。
　被爆者の高齢化による伝承風化を防ぐものとしての一つの答えがこの本。
　選ばれた被爆状況の写真や資料を交えて被爆体験を持つモノ・それを伝えてゆくモノの所信、その両面から被爆を見つめる。
　人や街が死ぬ、生きていれば再臨なく痛む、その意味がどういう事なのか、二つの街は訴える。



　最初の中国新聞の写真集が『ヒロシマの被爆大全』なら、こちらは広く浅く確実にヒロシマ・ナガサキを捉えるのにうってつけの本と言えます。

　情報量は少ないながらも、説明の必要ない当時の写真、『あの日』を伝えるために手段を尽くした人々の作品、被爆伝承や核廃絶運動に人生を傾けた人々のコラム、それらが英文訳を伴って揃えてあります。

　この本は『伝える』事を使命とした本です。
　難しいことを難しいまま有耶無耶にしない、そんな本です。
　是非、ヒロシマ・ナガサキを知るなら最初に目を通すのにうってつけです。

　著者　　　庄野正美(編)
　出版　　　1996年広島市
　入手度　　図書館閲覧
　難易度　　易～難

　内容
　広島の被爆当時の建物を主要なモノ殆どを検証したデータベース。
　地区毎にサンプリングした建物･橋梁･樹木を対象に以後残存した建物だけでなく被爆壊滅した建物もその検証対象に含み、その経緯を可能な限り詳細に網羅している。
　被爆が題材だが、被爆以前の『広島市の生い立ち』を含めて伺える極めて内容の濃い読み物。
　建物自体の検証だけでなく、その様式や都市計画、被爆禍においての都市機能など付録記事も網羅され、『都市』『戦争』のキーワードを超えた内容を持つ。



　出版当時は被爆半世紀を顧みて、被爆当時を振り返られる資料が氾濫し始めた時期で、その使える資料をフルに使ったデータベースです。
　軸足は被爆ですが、市政を敷いて拡張していく広島市からを細かに拾い上げ、都市学/建築学の観点から被爆以降にもその足跡を残した建物から復興をも視野に入れた「広島市の記録」です。
　内容を難までと曖昧にしたのも専門用語の羅列箇所もあって簡単に拾うにも専門的に拾うにも応えられる内容だからです。

　特に地図を使っての検証が難しかったようです。
　と言うのも、被爆前の軍都広島の地図が殆ど発行されなかったせいがあり、戦前の貴重な市街地図をこの本では使っています。

　そういう手合いで被爆前の広島市をかいつまむのは一大プロジェクトであり、容易ならざる全容の解明･という感じの本です。

　基本的にこの本は公共図書として購入するモノで過去『購入が難しくすごく高価』という表記をしていましたが、広島市公文書館(のちの項目で記述)で購入(2840円･2014年4月現在)出来ることが解り、私もこの記事のあと個人購入しました。
　広島市に関する情報限定ではありますが、被爆以前の総括的資料としても2550?円(税抜き)ではバーゲンプライスな内容の濃さがあります。