3・第1日/東京
▽東京駅にて
※丸の内・あぁ丸の内?
そげなこげなで着いた東京駅。
ここではムーンライトで新宿を出発するまで7時間半もある。
それだけの膨大な暇、はっきり言ってすることは決まってはいない。
鉄道を乗る、ウインドゥショッピングをする、確かに出来る事は多い。
しかしやることと言えば魅力あふれる処は限られる。
どこもかしこも東京の都市化に憧れたばかりに、東京ならではの味が薄味ながら何処でも味わえる。それが東京の魅力を希釈しているのは確かだ。
ここならではのパワーも、15時間半にも亘る列車旅でくたびれた私には却ってうざったい。
此処は休憩には不向きである。
マァともあれ、此処でやるべきことはまず一つ!
“北海道観光連盟 東京事務所~東京都千代田区丸の内1-8-3”
なにぶんにも初めての北海道。
無手勝流で飛び込んでもいいが根室半島踏破を目論んでいる手前、貰える情報はとっておきたいのが本音。
降りたホームから東京駅を横断して赤煉瓦の「丸の内口」へ向かう。
正面は江戸城・皇居。
こちらに顔を出すのは3年振りである。“丸ビル”共も3年ぐらいでは代わり映えしない。
さて、駅前案内地図の掲示ぐらいはあるだろう。
そう思って捜してみる。お・思った通り、ありました。
所番地も併記してあるが、建物の名前がはっきり書いてある。こちらを探ったほうが早い。
ガイドブックには建物名が国際観光会館とあるし、こりゃあはやいわ。
ふむふむ‥‥‥あれ?無いぞ。
そんなビルなんか。ありゃあせんぞ、そんなビルがこの丸の内‥‥‥
まるのうち・マルノウチったら丸の内‥‥‥って、丸の内一丁目ったら東京駅「八重洲口」のことじゃないか?
もーいっかい東京駅を横断せんといけんらしーわい!
このクソ重い荷物を引き摺って八重洲口のコンコースに出ると、確かにそこの方向板には“国際観光会館”と御丁寧に矢印まで差して書いてある。
何処が「丸の内」一丁目ならぁ!誰が「八重洲口」ならぁ…あー疲れた。
(私、旅先で往々にしてこう言う間違いを犯します)
そういう訳で、エレベーターで4階にあがって、目当ての“北海道観光連盟・東京事務所”に辿り着いた。
その途上気が付いたのだが、このビルは国内外の観光事務所が寄り集まっているらしく、富山新潟フィリピンなど様々な地域の観光事務所が居並ぶ。
こと国内に至ってはクニ自慢の特産品の販売まで取り扱っている。
勿論土地のモノに対して値は張るが、色々な地域の特産品を此処で取り寄せることができる。妙なところである。
さて、如何にも北海道然としたその事務所に一通り目を通す。
よく広島そごうがやる“北海道展”のイメージそのものだが、確かに様々な物産と資料がふんだんにある。
余分な銭と気力がないので、早いうちに目の前のカウンターに座って、ほぼ普段着然の受付嬢に御用件を述べた。
「これから北海道に行こうと思うのですが…」
との斬り出しで、明日夕方から足掛け四日間ほど、函館・根室・札幌の順で立ち寄ることを述べる。
凾館山の観光、根室半島の地形や気候、札幌の交通機関などを訊ねた。
それらの返答を併せ聴き受けると、計画の実行に支障は見いだせなかった。
根室市内から納沙布岬までの踏破に至っては、「遠足でも通っているくらいですからねぇ」とのこと。
気候に気を付ければ大丈夫とのことだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・現地でそこの見込みを誤っていたことは追々思い知ることになる。
その間じゅう、脇のテレビでは甲子園を流していた。
折しも、彼の地元校である函館の高校が試合をしていた。
(当時)北は弱いと云われる甲子園で、今年は北海道二校がよく踏んばっており、またイイ試合をしている。
「今年は北海道勢がいい試合をしてますね。見ていて気持ちがいいですよ」
マジで私がこう言ったが、どうも相手はお世辞と受け取ったらしい(^_^;)。
苦微笑いだが「応援しています」と答えた。
私は甲子園と余りツキが合わないのでこれ以上の追求は避けた。必要なパンフだけを受け取り、北海道観光連盟を後にした。
※“ゆりかご45”
さて、次に向かったのはムーンライトの始発駅である新宿。
此処でこのクソ重い荷物をどうにかしてやろうと思った。
今となってはどっち回りか忘れたが山手線に乗り込む。
地形上、東京と新宿は山手線と言う楕円の対頂点である。どっちに乗ったって同じじゃないかともう殆ど投げやりで、来た電車に乗り込む。
もはや中央線の存在を忘れる(!)ほど、体は休息を欲していた(-_-;)。
とにかく新宿に到着。
コンコースに降りるが、またれーによってあいているろっかーがない。あ・もーこらえられん。ぶんしょうまでひらがなになってしもうた。
兎に角開きロッカーを探り出し荷物を放り入れると、近くのキャッシュディスペンサーで小遣いを引き出した。
これが後ほどの祟り目になろうとは夢想だにしなかった。
とにかく東京。これからまた来れる宛がない。何処に行こうかと乗り込んだのがまた山手線。
ところがである。
次に気が付いたのは大崎だったかと思う(-_-;)。
私もよく覚えていないのだが、寝惚けながら山手線に揺られていたに違いない。
腕時計に目をやると、驚いたことに18時半を回っている。
オイ・ちょっと待て!乗ったのは確か16時半を過ぎたばかりだぞ!
なぁんてこったい?
けっきょくあの2時間ほど、また寝惚けてしまったのだ。
今思えば、実は無意識ながらこれを狙って行動していたのかも知れない。
兎に角、一周45分も掛る山手線を寝ずに周回したことの無い自分。
山手線が心地好い揺り籠と化してしまったのかも知れない。
かくもまた、1周半も山手線に揺られました。
もう一周するほど暇はないぞ!新宿に帰るんじゃ~!
だが、折しも今はラッシュ時。乗車率200%ほどまではなかったが。
乗り換えた山手線は満席で、おまけにやってきた列車が6扉車。
吊革にぶら下がる間抜けな自分。
その目前には液晶テレビがあった。新生205系自慢の“文字放送サービス”である。
確かに情報に飢えた旅行者の自分には有難い設備だったが、見飽きるのも早かった。
(それに比べて今のソレは実に退屈させないエンタメにまで成長しているなぁ(^^ゞ)
かくて、何をしたのか解らぬまま、新宿駅に戻って‥‥‥あ、乗り過ごした。
▽新宿鐘楼
※東京‥‥‥
一つ向こうの新大久保から歩いて新宿に戻る自分。何か阿呆である。
マァ土地勘を頼りに新宿に戻るが、これがアテにならんことならんこと。
気が付けば筋を一本平気で間違えていた。明るいうちに表通り裏通りを歩いて、何とか新宿に戻ることができた。
夕闇迫る新宿西口。
耳に着けたヘッドホンステレオからは、野球中継が流れ始めた。宛がある訳で無し、“新ブラ”を始めた。
ところが今更何処かへ・と言う雰囲気ではなくなった。マジ疲れてる。
“東京を見渡そうか‥‥‥”
そんな考えだけが頭を支配した。
そう、高層ビル展望台のはしごである。
何とかは高い所が(^^ゞ‥‥なんてよく言うが、この時の私はまさしくその何とかであった。
高速エレベーターで展望台を目指して行く。
(原稿には残っていないがおそらく野村ビルかと思われる)
全周とは言わないが、ガラス張りの部屋に進み出ればトップリ陽の墜ちた東京夜景がそれぞれのビルから望める。
特に新宿外苑明治神宮には一際眩しい灯がともる。
神宮球場や代々木競技場の照明塔。
今日はプロ野球もJリーグも此処で行われている。高層ホテルの屋内プールが見えているものもあった。
東京の夜景が綺麗だと時々聞くが、その趣はよそにある情緒とは異なるモノを持ち併せている。喧噪、絢爛、様々大勢の“トラフィック”が織り成す流れである。
綺麗はきれいであろう。
だが、疲れ切った体を休めるそれではない。
一通りビデオに納めた後は、その夜景から離れて、ただひたすら呆としていた。
“東京は性に合わない”
改めて思い知らされた。
さて此処で失敗談を。
高層ビルを二・三回っているうちに妙な異臭が体を襲う。
その源はどうやら足許からだった。
気がついてみると足下が薄ら痛い。
靴を脱ぐと足の皮が真っ白になっている。
完全に蒸れ切っているのだ。
靴の中を覗くとインソールが捩れて内底が破れ、底ゴムのリブが踵を下から圧迫していた。しかも靴が湿っている。
実は出発前靴を丁度する暇がなく、午前仕事を終えた後で止む無く損傷の軽微なのを速攻で洗って干していたのを履いた。しかし殆ど生乾き状態で持ち出したのが祟り、蒸れてしまった。
蒸し暑いとは別に思わなかったが、この事実を確認してから異様に汗をかくようになっていた。
病は気から・ではないが、靴の不具合を知ってから妙にダレてきた。
あとにも触れるがこれがこの旅を根本からぶち壊すことになり、
靴の拘りを一変させる事になる。
階下に降りて、駅前の洋食屋によって夜食と洒落込んだ(店については記憶も記録もない(T_T)。
物を食っている時が至福の時と言うがこの時はまさにそうらしい。漸く腰を据えたような気がする。
時計に目をやると20時半を廻っていた。
チキンカレーとハンバーグを頼んで600円、食費に妥当なリーズナブルな出来だった。
これらをゆっくりと召し上げると、腹の落ち着くのを見計らって勘定。新宿駅に戻った。
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~後記
当時はまだ東京を観光の中継点としてみているばかりで、2000年代に堪能したようないわゆる街巡り店巡りは全くやっていない。
おまけに北海道からが旅の本番と思ってたフシがあってお金も無い状態。
思えば山手線での時間つぶしは気疲れも考えると理に適っていたのかと思う。
街に来てお金も暇も無い観光と言えば高所に上ることと言うのは今も昔も変わらず、コレはのちの函館や門司下関高松でやってる。
広島は高い位置のパブリックスペースが無いんでこの手が使えないんだよねぇ(T_T)。
どういう訳かホテルを除いて13階以上に上がれる場所が無い。今度の52/46階建てのも例に漏れず上階はマンションだしふざけるな。
靴ねぇ(T_T)。
コレは函館根室札幌とホント泣いています。またの講釈で。