羨ましい能力

帰りの電車で

隣に立っているオジサンが読んでいたのは
楽譜だった

文庫本サイズの楽譜ってのは初めて見た

パートがいくつかに分かれているところを見ると
クラシックの楽譜だろうか

昔の記憶をたどりつつ数えながらであれば
一つ一つの音符がﾄﾞなのかミなのかソなのかくらいは
読みとれるだろうけど
メロディなんて読み取れない

規則正しくページをめくるオジサンの体は
電車の揺れとはちょっとちがうリズムで揺れていたから
メロディが頭の中に流れているのだろう

おそらく私には想像もできない世界に浸っているのだろう

オジサンはとても楽しそうな表情だった