昨晩は大雨、今日は台風らしい強風が吹いています。
朝は西武秩父線も運休していましたから。
それでも秩父では大きな被害もなく収まりそうで、ほっとしています。
全国では大きな被害が出ていた模様ですし・・・。
しかし、秩父でも里村に近い山々では、天候が著しく悪化しますと、
土砂災害が発生する危険性もあります。
なぜなら、秩父は針葉樹の単一林も少なくないからです。
【単一林と戦後復興】
秩父は埼玉県西部に位置し、秩父連峰に囲まれる小さな集落です。
今年10月11日には旧吉田村で龍勢祭りが開催されます。
いまや着々とその準備が進められているようです。
さて、国道299号を秩父の上之町交差点から飯能・池袋方面へ車を進めますと、
車道両側は切り立った山々に囲まれています。
この景観は高麗付近までずっと連なっているわけですが、残念なことに
線香林の典型とでも呼びたくなるような、針葉樹の単一林が少なくないのです。
人工林は天然林より生物多様性に富んでいる(*)のが本来の姿ですが、
現実的には、高密度に針葉樹が植林されたままの状態で放置されたため、
建材に使えるだけの太い良質な杉材を算出することができないのはもちろん、
生物多様性も失い、公益上の意義を損なってゆきます。
(*):出典 『森林からのニッポン再生』 著:田中 淳夫
そのような状態で放置されている原因はいくつかありますが、究極的には
日本の林業政策の失敗が根底にあります。
日本に単一林が多いのは、戦後間もない貧しい時期、復員してきた兵隊さん(たいていは徴用された元民間人)たちに職を与えようと公共事業の一環として杉の植林が国策として進められていった経緯があります。
それは兵隊さんの糊口に役立つばかりでなく、戦後復興の際、多くの建材が用いられるに供せられる等の副次的利益もあるため、一石二鳥とも三鳥ともいえるものだったかもしれません。
しかし、その際には、十分な指導がなかったのか、そもそも森林経営ノウハウがなかったのか。
見事なまでの、高密度な杉・檜の単一林が育ってしまっているのです。
日本には昔から森林経営の英知があります。きこりの技術文化ですよね。
どの木を間伐しどの木を残すか、炭焼き釜、冬場の食物確保のための岩魚放流etc・・・
自然との高度の調和の上に成り立っていた森林経営だったわけです。
しかし、それらは日本全国の森林文化を示すものではなく、とりわけ江戸時代には禿山が多く
土砂崩れも少なくなかったことが知られています。日本が近世以降これほどまでに緑に覆われたのは、燃料が薪から石油へと変わった戦後以降で、まだ60年足らずのことだったようです。
但馬学研究会サイト 2006年1月例会ページより
http://www.tajimagaku.net/houkoku/05/0601_takeda.html
禿山は土をそこへとどめておく力が働きませんので、土はどんどん流出してゆきます。
砂防ダムがすぐ満杯になってしまう原因のひとつです。
土の流出を防ぐ役割をするのが森林でして、木や下草などが根を張ることによって、保水性と土の流出防止効果を得ます。
また、その森林にも多種多様なものがあり、針葉樹もしくは広葉樹などの単一林の場合その効果は一定です。実際、杉の高密度単一林は土砂崩れをよく起こします。土砂流出も多く、風雪に弱いのです。他方、種々の植物が定着した混生林の保水力や土の維持能力は単一林を上回るといわれています。根が縦にも横にもよく絡み合って張るからでしょうか。
【輸入建材は、本当に安いか】
ホームセンターで2X4建材がよく売られていますよね。あの杉材はたいてい輸入物です。
日本の国土は70パーセント森林地帯ですが、自給率は20パーセント程度。
日本の建材は高いから需要がない?・・・いえいえ、そんなことはありません。
実を言いますと、秋田杉など特殊な杉を除き、今や一本が500円程度の市場価値しかないのです。
不景気に伴う新・増改築の減少や、海外から流入する安価な杉材の影響によるところが大きいでしょう。
ではなぜ店頭に出ると国産の杉は高くなるのでしょう。
林業としてのコストパフォーマンスが著しく低いためです。森林経営がうまくいっていないのです。
人件費が高いということもありますが、それは海外もある程度当てはまることですし、
どのようにして人件費の増大を抑えつつ、多くのユーザーを獲得して単位価格を下げるかという
競争に敗れてしまったのです。
若い人材の確保の難しさや(皮肉なことに不景気もあって少しずつ戻ってきているようですが)、乾燥期間の短さによる市場価値の低下のほかに、集団経営によるコスト削減(機材・運搬車両の共有など)のノウハウが生かされておらず眠ったまま放置され、弱体化の一途をたどっている森林が多いのです。線香林(*2)では良い杉材が採れるはずもありません。
(*2):あまりに過密に植林された結果、ヒョロヒョロと細い木々が乱立し、建材に使えない林。
国際競争力を得るためには、下草刈の補助金も結構ですが、日本は林業のあり方を根本から見直さなければならないのかもしれませんね。
ああ、たまには秋でも探しに のんびり散策したいです。
山はいくらでも近くにあるんですが、、、(笑