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2022年12月06日

エンジンのパワーアップを考える。3

エンジンのパワーアップを考える。3 エンジンのパワーアップを考える。1、2 では、P-V線図の読み方が分かって来たかと思います。



燃焼の速度はピストンの移動速度に対して十分に高速では無いため、TDCの手前から燃焼を開始しても、ピストンの降下による燃焼圧力の低下が発生するまでに燃焼が完了する事も無く、理想的な燃焼は得られて無い事が分かりました。



出典 https://glanze.sakura.ne.jp/ignition_timing.html

そこで早過ぎもせず、遅過ぎもせず、ノッキングもせず後燃えも少なくなる、熱効率が一番良くなるタイミングに点火タイミングを調節する必要が発生します。
上図で見るとグリーンのラインが最大の熱効率になる点火タイミング、MBT点(Minimum advance for the Best Torque)Wikipedia となっていて、P-V線図にすると面積が一番大きくなる点火タイミングになります。そこから早過ぎても、遅すぎても効率(パワー)は落ちてしまう事になります。ですが点火タイミングの調整ではMBT点以上の改善は望めませんし、逆にノッキングなどの要素によりMBT点に点火タイミングを設定できるとも限りません。
(補足 右のグラフはP-V線図のTDC付近を拡大表示したグラフです。色付きの面は各点火時期に応じ、下図の理想に対して失われる面を表しています。)


↓パーフェクトに理想の燃焼



根本的にはこの燃焼を目指して燃焼を改善してパワーアップや効率の改善を行う訳ですが、要するに「燃焼を一瞬で済ませば良い」と言う事になります。
実際には、”燃焼の速度を上げる” 事がエンジン改善の全てとなる事と成ります。その上での点火時期の設定ですね。

ここまでで初めて触れる要素になりますが、エンジンには ”圧縮工程” が有り、混合気を圧縮してから燃焼を行っています。P-V線図で見ると圧縮の工程は黄色の面積を狭める働きしかしておらず無駄のように見えますが、圧縮比を上げると燃焼速度を上げる事ができると言うのが圧縮を行う理由となっています。
何と無くで圧縮して点火するとバーーンと燃えると言うイメージが湧きますが、間違いでは無い様です。


出典 https://autos.goo.ne.jp/column/984332/

この図を見ると、圧縮比14位までは熱効率の改善(燃焼速度の向上)の効果が大きく得られるようです。圧縮にはエネルギーが必要なので得られる効率とロスとを相殺して考えるために「熱効率の改善」と表現されているようです。


では実際に圧縮比を上げたエンジンを用意したと仮定して、燃焼をグラフで見てみましょう。

出典 https://glanze.sakura.ne.jp/knocking.html

ココで問題が発生します。上図では2種類の問題が表現されていて、一つは「プレイグニッション」。スパークプラグでの点火の前に自己着火してしまいTDC手前での燃焼が大きくなり燃焼室の圧力が大きく上昇してしまっています。ヘッドガスケットが抜けてしまいそうですね。もう一つの問題はグラフ中で赤線で書かれている「ノッキング」。スパークプラグでの点火の後にプラグ以外の場所から自己着火してしまい、燃焼室内の圧力が通常時よりも大きく上昇してしまいます。
これらの異常燃焼はシリンダーヘッドやピストンなどの表面から発生する為金属に大きな熱を与える事になり、ピストンに穴を開けるなど絶望的な故障に繋がります。
出典元のページにはノッキングが発生している燃焼の動画が有りますので参考にして下さい。SRの燃焼室の状態ともプラグの位置など似ていると思います。

ノッキングの原因はプラグから遠い場所にある混合気(エンドガスと呼ばれる)が、プラグに近い混合気の燃焼により圧縮され熱を帯びて自己着火する事で発生します。点火による燃焼の開始から燃焼の終了までに時間が掛かるとノッキングの可能性は増加する事になりますし、圧縮比が上がると着火前の圧力が高く成るのでリスクが高くなります。エキゾーストバルブやその周辺では燃焼室壁の温度がインテーク側と比較して高くなっているのでそれも原因となります。
逆にプラグが燃焼室の中心にあったり燃焼室がコンパクトなど、燃焼終了までの時間を短縮できる要素が有ればノッキングが発生する可能性が低下するので、圧縮比を高く設定する事が出来ると言えます。
ハイオクは燃え難いと言いますが、このような過酷な状況の中でエンドガスに火炎が届くまで自己着火せずに待てる性能が有るって事ですね。


エンジンの圧縮比の設定は、混合気を急速燃焼させる為の”燃焼室の性能” に応じて設定されている。と言っても良いかと思います。


仮定の話ばかりでしたので実際の話を少し。
SR500のオーバーホール時にピストンが無くSR400のピストンを流用してハイコンプ仕様にする場合があるかと思います。その場合の圧縮比はSR500ノーマルの 8.3 から 10.5 まで上がります。
だいぶ圧縮比が高くなるので燃焼速度は改善される筈ですね。あらかたの評判には、「パワーは上がるけれども壊れる」と言う物がありますが、何が起きているかを考えてみると、
1、燃焼のスピードが上がっている。
2、燃焼室内の圧力が上昇しているのでノッキングへの耐性が低下している。
この2つが同時に発生する事になります。

MBTでの点火のグラフを用いて考えると以下のようになります。圧縮アップ後の状況を破線で書き足しました。


青→点火タイミングが早過ぎ、緑→最適MBT。赤→遅過ぎのラインです。(後燃えのラインは面倒なので書きませんでした)
実線がノーマルの圧縮比でのラインで破線が圧縮比アップのラインとなります。
圧縮比アップ後の破線は燃焼速度が上がった分だけノーマルよりも立つ事になりますので、点火の始点は一段階遅くしています。
そうするとP-V線図で最大の面積を稼ぐMBTはTDC側に点火タイミングが後退する事になります。一歩理想に近づく訳です。
点火時期をノーマルから動かさない場合は点火時期が早過ぎて効率が向上しないばかりでは無く、ノッキングが発生してしまいます。ノッキングが一度発生すると燃焼室の圧力は想定を超えて上昇するので温度も上昇してしまいます。そうするとプラグが熱せられてプレイグニッションが発生してしまったりで状況は更に悪化し、プラグやピストンを溶かす事となってしまいます。
MBTでの点火でも圧縮比の上昇でノッキング耐性は低下しているので、燃調を濃くしたりハイオクを使用したり、補助的な手法も併用してマージンを確保します。

SR400のピストンを使用したハイコンプ仕様で何が起きているのか?理解が出来るようになりましたね。圧縮を上げたエンジンでは燃焼速度が向上するために、点火時期を未調整とすると燃焼効率がBESTでは無いだけでは無く、プレイグやノッキングでエンジンを壊す恐れがある。圧縮比の事を理解するにもコレだけの知識が必要になってきます。

エンジンの実際は、特に高負荷域ではノッキングが発生しやすいのでMBTで点火を行うとノッキングが発生してしまいます。なのでMBTよりも遅い点火タイミングで運用されていることが殆どです。なので点火タイミングに対するノッキングの余裕がある場合には点火タイミングは早めた方が効率は良くなるイメージになります。

ハイコンプにしたエンジンの壊れる壊れないの話に、「エンジンオイルの交換を指定の距離できちんと行なえば…」と言う人がいるらしいけど、、、そう言う考え方はどうなのかな?w



https://www.daytona.co.jp/products/single-95233-parts

デイトナの点火時期調整プレートです。商品ページに行って「備考」の欄を見てみましょう。
――――――――――――――――――――
備考
※ハイコンプエンジンの場合、遅角させてノッキング対策も可能。
※点火時期は年式により異なります。
※FI('10~)の場合は取り付けは可能ですが、ノーマルの点火時期がBTDC約38度とかなり進角しているため、ベースプレートでさらに進角させても性能向上しません。
※点火時期の変更によって燃調のセッティングが必要な場合があります。
――――――――――――――――――――
何となく小難しくて読み飛ばしてしまう備考欄ですが、商品PRの文面よりも備考欄の方が意味がある事が理解できるようになったかと思います。こうなってくるとエンジンの仕様を考えるのが楽しく成ってくるかと思います。


ですがメーカーが作ったエンジンなので、そうは簡単にパワーアップはさせてくれません。しかも日本メーカーのエンジンは、世界でもTOPを争えるエンジンですからね。


ココまででエンジンのパワーアップとは、
・兎にも角にも燃焼速度を向上させる手段を探す事になる。
・点火タイミングは燃焼のスピードに合わせて変更が必要になる。
・エンドガスの存在がノッキングの原因で、エンドガスが燃焼ガスに圧縮・加熱されて自己着火を起こしてしまう。ソレがノッキングの正体。ハイオクは燃え難いという話はこういう場面で有効に働く。
・大体のエンジンはMBTまで点火時期を進めるとノッキングが発生してしまうため、MBTよりも遅い点火タイミングで運用されている、



昔のエンジンは馬力競争の中での開発だったので、吸排気を改善するためにと大きなバルブを装着したがりました。その為にボアを大きくとり燃焼室を大きくして排気量に対して大きなバルブを配置しました。必然的にショートストロークとなり高回転での最大出力を大きく取る事に都合が良いコンセプトとなりました。排気規制も緩く燃費に対する意識も低かったのでノッキングはガソリンを多く供給して燃焼室を冷却する事で回避していたようです。
最近では排気ガス規制が厳しく燃費への意識が高いので、燃焼室を小さくコンパクトにする為にボアを小さくするので必然にロングストローク傾向となる事になります。バルブ径はレイアウトの制限を受けて小さくなりすが、燃焼改善の為にタンブル流が重要視されているので都合が良いです。全て必然の流れになっているんですね。



つづく。



難しく専門的な参考にしているページの方が正しい知識が書かれていると思います。ですがいきなりソレで全てを理解するのは難しいので、知識を身につける基礎、専門的なページへの橋渡し的な読み物になればな と思います。




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Posted at 2022/12/06 03:23:57

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この記事へのコメント

2023年8月10日 11:11
最近の省エネエンジンはダウンサイズターボで比較的ロングストロークですけど、

昔のガソリン冷却大馬力エンジンはバルブ挟み角が大きくて半球系燃焼室で圧縮比を稼ぐには重い山盛りピストンを使ってました。

昔の広角4バルブNAと
昨今の小径ボアロングストロークターボの間に

リーンバーンGDI直噴高圧縮比俠角バルブ挟み角フラットピストンヘッドショートストロークNAエンジンというのが私が今修理中のエンジンです。

リーンバーン高圧縮でも直噴によって燃焼室温度を下げると大馬力が出ましたけど、さらなる馬力競争ではターボ化が進んでしまいました。
コメントへの返答
2023年8月10日 15:48
Boshの直噴インジェクターは国内製のモノと違いピストンに向かって噴くタイプなので、圧縮工程の終盤にピストンに届かない様に「パッパッパッ」と短く複数回に分けて噴射して燃焼室の中心にのみ混合気を成形するので、燃焼の終盤で燃焼室外周に残るエンドガスが理論的に存在しないので大きなノック耐性を得られるのが利点なんでしょうか? (と今気付きました) ビッグボア燃焼のウィークポイントを補える様になっていて、この辺りの技術をリーンバーンと表現しているのでしょうね。

ビックボアにすると大きなバルブが入れられるので充填効率の向上が見込まれ、狭角レイアウトでは強いタンブル流が得られ、フラットトップのピストンはタンブル流を堰き止めない形状の燃焼室を成形して燃焼を促進、直噴で燃焼室の中心に混合気を成形して燃焼速度の高速化を狙い熱効率を向上。(釈迦に説法ですみません)

ターボの加速も良いですが、NAの感応性能には捨て難いモノがありますね。
2023年8月10日 22:16



壊れたエンジンの内部がココに表されてます。

https://minkara.carview.co.jp/userid/2252957/blog/47099392/

① 直噴インジェクタ
取付角度はピストンに対して直角ではなく、ほぼ水平でした!

② 直噴機構と燃焼
気筒内へのスワール及びタンブルは吸気機構の形状により発生。
直噴機構ではない。

③ 噴射燃料の分布
燃料室中心部のみに混合気が存在するのではなく、スワール&タンブル気流に噴霧された燃料が混じり合う。

④ リーンバーン
AF比的に薄い混合気の事を称しているので省エネに繋がるが、燃焼温度が高くなるために何らかの方法で温度を下げる必要がある。
直噴による蒸発潜熱が温度低下である。

⑤ 対ノック性
圧縮比12.5対1でも直噴機構による蒸発潜熱が効いている。

⑥ ビッグボアの欠点
燃焼室の温度低下が欠点。

⑦ ビッグボア充填効率
充填効率が高まるのはバルブの大きさよりも排気脈動による吸気の掃印によります。
ビッグボアで大径バルブが使える事は充填効率というよりも吸気抵抗の減少。

⑧ 俠角バルブ挟み角
俠角バルブ挟み角がタンブルを発生する訳では無い。
俠角バルブ挟み角の燃焼室形状は、高圧縮燃焼室に有効。フラットヘッドピストンでも高圧縮比を得られる。

⑨ flat head piston
着火後の火炎伝播に優れる。「燃焼の影」が無いので良好な爆発によってトルクが伴う馬力が出る。

10 flatheadpistonと
俠角バルブ挟み角
隅々迄高速に燃焼する

コメントへの返答
2023年8月10日 22:35
Boshもウォールガイドのインジェクターがあったんですね😅知りませんでした。失礼いたしました。

プロフィール

「[整備] #SR500 輸出用ハイコンプと言われる「583-02」ピストンの上手な?使い方 https://minkara.carview.co.jp/userid/2092714/car/2422595/7482416/note.aspx
何シテル?   09/05 02:04
β350です。よろしくお願いします。
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