
今回はSRエンジンのDry Sumpについてです。
SRをパワーアップする場合には、潤滑的にも冷却的にもオイルの循環は適切に確保しなければなりません。カスタムをするにあたりノーマルの仕組みをキチンと理解していないと成らないので、今回はSRエンジンのオイル回りを見ていきたいと思います。
※SRのオイル廻りは諸説考え方が有りますので一つの理解としてご覧下さい。
先ずはドライサンプを理解する為、普通のバイクや車のエンジンで使用されている「Wet Sump」を見てみましょう。
今回は分かり易いようにエンジンを集合住宅として考えて、オイルの循環を水道水の供給ルートに例えて考えてみました。
Wet Sumpには集合住宅の下(地下?)にオイルを溜めて置くプールが有ります。これが「オイルパン」と言う部分になります。実際のエンジンだと

https://www.goobike.com/after/work/19796
こんな感じにエンジンの下部にオイルを溜める為の場所が有ります。
ココに溜まっているオイルをオイルポンプで汲み上げると同時に加圧して、フィルターを通して綺麗にしたオイルを各階のエンジンパーツに供給します。後述するDry Sumpに比べてポンプが一つで済むのでシンプルで効率的ですね。
使い終わったオイルはエンジン内を自由落下して再度オイルパンに戻り循環します。
対して
「Dry Sump」 です。
地下にあるオイルパンを極小さな物にして、代わりに集合住宅に高架水槽の様なの外付けのタンクが付きました。SRではフレーム内臓のオイルタンクになります。その外付けタンクまで汲み上げる為の "スカベンジャーポンプ” が追加装備されて、オイルパンに落ちて来た使用済みオイルが浅いオイルパンから溢れない様に、ぐんぐんとタンクに汲み上げます。
汲み上げのイメージは、無くなってしまったマックのジュースとかバキュームカーです。空気と一緒にジュルジュルと勢い良く吸い上げます。
SRのエンジンはこれによりオイルパンの出っ張りが殆ど無い形状にする事が出来ました。これによってエンジンの重心位置を変える事無く最低地上高を稼ぐ事が出来ます。なのでドライサンプはオフロードバイクに導入される事が多いみたいですね。
導入の目的はさて置いて、SRエンジンの "Dry Sump化” で特異な事?と言うか理解がややこしくなる部分として、Mission と Clutch へのオイル供給がフレームタンクへ汲み上げる為のルートから分岐して供給するように変更になっている所です。
「Wet Sump」の時は集合住宅内に住んでいた管理人さんの家(Mission Clutch)が、Dry Sump化の工事のついでで隣に一戸建てを立てて引っ越したけれど、水道配管が上手く行かず? 近くのスカベンジャーポンプから取った感じ。と理解すると良いかも知れません。(上図参照)
Mission と Clutch の潤滑に空気の混ざったオイルを使って大丈夫なのか?ですが、潤滑の方式がエンジンの部品とは違い、境界潤滑なのでエア混じりでも大丈夫なんだと思われます。
ここまでで何となく?エンジンオイルの流れが分かったかと思います。
オイルパンを下に出っ張らせたくなかったので、オイルタンクを別に作ってポンプで汲み上げているんですね。管理人さんの家は特殊対応です。
2つのポンプの各容量ですが、サービスマニュアルからの抜粋で、
フィードポンプ:4.3 L/min /6500rpmrpm
スカベンジャーポンプ: 19.4 L/min /6500rpmrpm
の容量が与えられています。
では次に、ポンプの容量を含めてオイルがエンジンを一周する迄を考えてみたいと思います。 (管理人さんの家の分はややこしくなるので後で別に考える事にします。)
番号を振ったので順番に見ていきましょう。
①ではフィードポンプの容量の4.3L/min のオイルがオイルタンクからポンプに入り
加圧されてエンジンの各部に供給されます。
エンジン各部で使用されたオイルは②のオイルパンに落ちて行きます。落ちる量は①のオイルの供給量と "イコール" となりますので、4.3L/min のオイルが落ちる事になります。
そして③のスカベンジャーポンプで吸い上げますが、ポンプ容量が 19.4L/minと相対的に大きいので ②の4.3L/min のオイルと残りの容量の
15.1L/min の空気(ブローバイ)を吸う事になります。④でフレームタンクの空気室に吐き出された空気はエンジン内部を通りオイルパンまで繋がっているので、Scavenger Pumpで吸った空気は加圧される事が無く④’のようにグルグル循環される事になります。なのでオイルと空気をタンクまで汲み上げるだけなので、オイル経路に高低差以上の
圧力が掛からない となります。
これで大きな全体の流れをザックリ理解できたと思います。次に管理人さんの家の流れを考えると
①で4.3LのオイルとMission/Clutchからの戻りが合流して4.3+α となりスカベンジャーポンプが吸い上げます。
②では Mission/Clutchからの戻り量と同じだけの α分のオイルが Mission/Clutchに分割して供給されますので、タンクに行く分は4.3+α -α でフィードポンプの容量の4.3L/minとなります。
③はスカベンジャーポンプを通ったオイル量が α分だけ増えたので、空気の量は -α となります。
簡単に言えば、オイルパン ~ スカベンポンプ後の分岐点 までは Feed Pomp容量+α分 のオイルが流れるだけですね。 のなで α分 のオイルが増加したとしても、オイルタンクに行くエアーの量がその分減るだけだという事が分かります。
油圧が掛からないスカベン系のオイル通路ですが、管理人さんの家にはオイルタンクの油面との高低差の分だけ油圧が掛かる事が分かりますね。
管理人さんの家に流れるオイルにはエアーが混入しているので計算しても正確なオイル量は分かりませんし、実際どの程度の流量が流れているのか分かりませんが、大体でOKです。
ここ迄で SRのドライサンプに流れるオイルの全体像が理解できたと思います。
※正確には分からないスカベン系から分岐を取った分の流量を「α分」として定義しておきます。
SRのオイル循環の全体像を正確にザックリと言うと、
1,大きな流れとして Feed Pump容量でぐるっとエンジン全体を循環するループ経路と、
2,スカベン系でタンクに行く手前で分岐する α容量のループ経路と、
3,スカベン系のオイルの大半(77%)は空気(ブローバイ)である事と、
4,スカベン系を循環する空気のループが有る。
という事が分かれば完璧です。
ではサービスマニュアルの「オイル潤滑系統図」です。
もう完璧に理解出来ましたね。Scavenger Pumpで吸われた空気は、オイルタンクへ入った後に空気用のリターン配管でエンジンに戻されて再度Scavenger Pumpで循環される。と言うのがミソになります。
ココで一つ裏技?の紹介です。Feed Pump の流量の増加は強化オイルポンプの装着で叶いますが、Scavenger Pump 側の α分 の流量の増加を簡単に行う方法も有ります。
オイルタンクからオイルパンに繋がるエアーの戻し配管にオリフィスを入れて、少し絞って通りを悪くすると、Scavenger Pump 以降のリターン配管に微圧を掛ける事が出来ます。オイルタンクからエアーを抜け難くする事で、スカベンジャーポンプから送られて来るオイルと空気がオイルタンクに入り難くなります。そうなると相対的に流れ易くなったMissionやClutch方向に流れが傾く事に成り、α分の流量が増える結果と成ります。
絵で言うとココになります。
詳しくは
こちら をご覧下さい。
特にクラッチのプッシュロッドの摩耗防止に効果を感じられますのでお勧めです。
ではここからはカスタムを行った場合に何が起きるのか?を見ていきます。
■先ずは、Daytona KEDOの 強化オイルポンプから
これは Feed Pump の容量が+50% になるアイテムです。ノーマルのFeed Pumpが4.3Lなので、4.3+50% = 6.45L になる計算です。
何故だか強化オイルポンプの導入に否定的な向きもあるようですが? 実際に何が起きるのかを見てみたいと思います。
左がノーマルの状態で、右が強化オイルポンプです。当然強化オイルポンプの Feed Pump の流量が150%になったのでオイルの循環量が50%増えています。それに伴ってスカベンジャーポンプのエアーを吸う量も減少します。なのでスカベン系に流れるオイルの気泡率は77%から →66%に減少し、ミッションやクラッチに行く αのオイル量は約15%増量される事になります。
(前出の α分のオイル流量は考慮しない計算結果ですが誤差は小さいと思います。計算してみるとスカベン系の空気の割合はかなり多いですね。)
一見上手く行っているようですが一点だけ注意点が有ります。
ヘッドに行くオイルラインにボトルネックが有って、ヘッドへのオイル流量が規制されてしまい腰下のオイルが増えすぎてしまう問題です。
対処方法は
こちら と
こちら が参考になると思いますのでご覧下さい。
(ノーマル状態でも400では流量を規制し過ぎてると思いますので、ノーマルポンプでもボルトネックは解消しておくのが良いと思います。)
他に起きる事としては Scavenger Pump の汲み上げるオイル量も増加するので、オイルクーラーを装着している際にはオイルクーラーを流れるオイル量も増加するのでクーリングの効率も上がります。これも150%になるのかな?
実際、強化オイルポンプでオイル流量が上がって何が良いのか?ですが、私が思う所、高回転時の最高流量にはあまり意味を感じず、逆に低回転の低流量時に真価を発揮すると思います。オイルポンプはエンジン回転に比例した回転になるので、渋滞などトロトロ走っている場合には少量のオイルしか循環しなくなります。アイドリング回転を1000rpmとするとその時の流量は0.66Lとなります。渋滞路などで発熱が多くなる場面でオイルの流量は減少してしまうのです。そう言う場面でオイル流量を150%確保してくれるのが強化オイルポンプの良い所です。低回転でもソレなりのオイル流量を確保してオイルが切れ易いと思われるロッカーアム周りにオイルを廻したり、ヘッド周りに過剰に貯まったエンジン内の熱をオイルを媒体にエンジン外に持ち出したり全体に散らして希釈します。例えオイルクーラーを付けていたとしても走行風以前の問題でオイルの循環がなければ意味が無いですからね。そう言う意味でも効果が期待出来ます。当然高回転の高流量時にはエンジンの発熱も大きくなっているので、多量のオイルでエンジン内の熱を多く運搬するのに貢献します。
強化オイルポンプはサーキットなどの高速走行向けと言うよりも、ストリート走行での熱負荷が高い状況に向けて効果を発揮します!
逆にサーキットなど高回転を多用する場合には、強化オイルポンプは不要です。高回転で回っていれば十分な油量が確保出来るのがノーマルポンプです。パリダカールラリーを走ったTT500のレースエンジンの末裔ですからね。そう言うのが得意な体質です。SRも。
逆にトロトロした走行は、昔のレーサーエンジンの末裔なので体質に合いません。。
“高回転志向のエンジンをストリート対応する。”
そんな感じだと思います。強化オイルポンプの意味。
■次に、スカベンポンプのオイルをヘッドに廻す方式を考えます。
早々に集合住宅の絵にしてみました。
一見問題は無いように見えますが、3点ほど疑問点が有ります。
まず1点目。
スカベン系のリターンオイルには、前述の通りポンプで発生する油圧は掛かりません。なので高低差で発生する油圧で潤滑通路にオイルを送る必要が有りますが、ヘッドの位置はミッションに比べて大分高くなるのでオイルを送る力が弱いのではないのか?
実寸で見てみても、クラッチ周りに掛かる高低差の油圧と、ヘッドに掛けられる高低差での油圧は、半分以下になってしまいます。
2点目
ヘッド内のオイル通路で2つのロッカーアームは繋がっています。油圧の無いスカベン系の油路と、油圧のある Feed Pump 側の油路が繋がる事になるので、Feed Pump 側のオイルがスカベン系に流れ出て逆流してしまうのではないか?
3点目は、そもそも気泡率が77%のスカベン系のオイルを注入して、オイル量が確保できるのか? 空気はヘッドに入れてしまっても大丈夫なのか?です。
これらは α分のオイルを増量・増圧する為にオイルのリターン配管や前述のエアー配管を絞る事で幾分かのオイルの流れを改善する事が出来るかと思います。α分のオイルを増加させてもオイルタンクに昇るオイルの量は Feed Pumpの容量と等しくなる事は前述の通りで問題は発生しません。ですが「 ロッカーアームのIN・EXHの油路の繋がりは断絶する事が望ましい」と思いますが、どうなのでしょうか??
また、スカベン系オイルの導入時のオイルホースの交換と同時に、オイル経路の
ボルトネックになっているバンジョーボルトが共に変更になります。そのFeed Pump側の流れの改善効果とスカベン系オイルの導入での効果が混同されている様にも感じます。
と少しネガティブな面を羅列しましたが、冒頭にもある様に「SRのオイル廻りは諸説考え方が有りますので、一つの理解としてご覧下さい。」
以上、今回はSRエンジンのオイル潤滑系統を追ってみました。
結論。
オイルの流量と分配は、車両の使用目的に合わせて変更する必要がある。
ストリートでの熱問題と潤滑には、「強化オイルポンプ」を選択し、
サーキットユースなど高回転でのパフォーマンスには逆に「ノーマルオイルポンプ」で良い。
どちらにしてもヘッドへの油量がバンジョーボルトの穴径で絞られているので、バンジョーボルトの穴径拡大は重要で効果が大きい。
オイルポンプのオイルシールのメクレにも注意が必要です。
SRのサーキットガチ勢が縦型のオイルクーラーを使用する理由も考えると面白いと思います。横型のオイルクーラーも下からオイルを入れるのと、上から入れるのではオイルと空気の挙動はどう変わるでしょうか?
最後までお付き合い有難うございましたw