◆ダイハツ・ネイキッド
これ、普通車に「手本」がないのがいい。たとえばワゴンRは、軽自動車の世界を広げ、そして「軽」というジャンルの存在意義を世に知らしめたが、しかし造形としては、いわゆるミニバンの縮小形であろう。ジムニーとパジェロ・ミニのオフ系2モデルも、縮小というコンセプトでは同様か。だが、このネイキッドには、そうした“本店と支店”の関係が見えない。
そもそもこれは「軽」として企画されたものなのだろうか? 今日的な「ユーティリティ・スモール」をプランニングした時に、たまたま一番近いところにあったレギュレーション(軽規格)を、その恩典も含めて利用しない手はない。それだけだったのではないか。そんな気さえするほどに、このネイキッドの発想と造形は伸びやかで、まとまりが良い。
地上から600ミリ付近の着座位置(ヒップポイント=HP)と、立ったAピラーの造形によって、乗り降りはしやすく、身体への負担も少ない。そして室内に収まれば、ドライバーの頭の周りには十分以上の空間がある。デザインはいたずらにゴージャス性を追うことなく、各部のディテールは、誇りある実用車としての主張に充ちていて、その質実さが逆にオシャレですらある。デザインだけを取ってみても、このクルマ、かなり粋だ。
◆スバル・フォレスター
ネイキッドのコンセプトとパッケージングにはその先例がないと記したが、ただ、ネイキッドの発想の“先生”をムリヤリ探せば、このクルマであるかもしれない。そしてこのフォレスター、トヨタのラウムに先立って、ヒップポイント600ミリで構成された世界初の「乗用車」という栄誉も担う。
その「HP600車」が、この1月にビッグマイナーチェンジ。挙動がぐっとリファインされて新登場した。ハイト(全高)があって重心も高いから、走りの面では、ややネガがあっても仕方がない……とは、このメーカーのスタンスに非ず。新型では足のセットアップが入念に行なわれ、ノーズダイブやスクォートが抑えられたクルマに仕上がっている。
さすが、「HP600」の先達モデルだ。そして、地上から600ミリに人が座ることが珍しくなくなった時代に、後発のモデルを見事に迎撃したともいえよう。こうしたパッケージングは、人間工学的にもユーティリティにも優れたものだが、しかし他社の(一部の)ハコ型は、あまりにもワカモノに迎合したようなモデルがある。その意味でこのフォレスター、オトナのための貴重なハコである。
◆スズキ・スイフト
スズキがワゴンRを出したとき、そのヒップポイントを中心にしたパッケージングに注目した人は誰もいなかった。ワゴンの縮小形みたいな、巧みなデザインワークを評価した人はいても。しかし、このメーカーも、実はしっかり「600&1500」でクルマ(普通車)を作るという領域に踏み込んでいた。
「600」は地上からのシートの高さ、そして「1500」はクルマの全高。600ミリに座らせると、全高が1500ミリ以上ないと、車室内に人が収まらない。最近のハイトの高いクルマは、多くの場合はじめに全高ありきではなく、シート座面の地上高(HP)がその全高を決定するベースになっている。
このスイフトは、軽とか小型とかいった枠を無視し、今日の“小さなクルマ”として企画されたモデル。GMがこれに目を付け、イケるじゃないかとして、アジア向けのクルマのベースにしたがっていると聞くが、もちろんこれはスズキのオリジナル。
室内にはスッと乗り込め、シートに収まると、余裕の空間がドライバーを包むのは、人を中心としたパッケージング設計の賜物。かなり静かなクルマだが、そのせいかミッションノイズが聞こえ、また、サスの仕上げには不満部分もある。それでも、しっかりしたボディとシンプルなデザインは良いし、新タイプの乗用車という提案は注目だ。
(「スコラ」誌、2000年2月)
○2015年のための注釈的メモ
ここで採り上げているスイフトは、2000年にデビューした初代(タイトルフォト)。2004年にフルチェンジされたスイフトの二代目は、全高、ヒップポイントともに低くなった。二代目の仮想敵は、おそらくVWのポロ。運動性重視の軽快コンパクトとして新次元に踏み込み、そのコンセプトはそのまま三代目(2010年~ )に引き継がれている。
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00年代こんなコラムを | 日記
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2015/06/16 07:40:59