其処に居たのは…

そこにいたのは。

もう帰る気でいた友達に、まだもうちょっと帰りたくない気持ちのばっかりに、
「このまま私を…何処かへ連れ去って…(*´Д｀*)」
だなんてバカな事をほざいた末、初めてこの場所へ連れて来て貰った時の自分では、なかったか知れない。




ならば、或いは、
翌年に、自分の運転で初めて来た時の自分だったか？



(確か)そのまた翌年に、夜通し秩父界隈を走り回った末、たどり着いた時の自分だったか？



何年か後に、初めての時の状況を極めて克明に再現できて、
そんなしょうもない事に独り喜んでいた時の自分だったか？



たった3ヶ月だったけど、あまりに色々な事が有りすぎた、
最初の長野滞在期間から戻って来た直後の、
失意の中に在った、その時の自分だったか？



カローラからシルビアに乗り換えて、最初の春の自分だったか？



その翌年、冬の間ヒィヒィ言いながら勤めきった、
あのキツかった仕事をやり遂げた後の自分だったか？



ろくな感動も境遇の変化もないまま、30歳を迎えてしまった年の自分だったか？



5年前の自分も、そこに居ただろうか？



数年前、孤独のRunawayを決め込んだ時の自分だったか？








…果たして、そこにいたのは。
一体いつの自分だったかは、結局のところ、よく分かんなかった。

もしかしたら、上に挙げた「自分」の残影が皆、残されたままだったかもしれないし、
本当は、初めから別に誰も居らず。
ただその瞬間、その場に立ち尽くしていた自分の姿だけが、其処に居ただけなのかも知れない…。







思い出は思い出で、今は今で。
かつては「昔は良かった」と、
過ぎた思い出のぬるま湯の中に浸かり、
その居心地の良さに其処から出ようとせずに居た頃もあった、自分ではあるけど、

ひとつだけ、確かだった事。

その時其処には、単に過ぎた思い出に耽溺しているだけじゃない、
とりあえずは前を見ている、現在進行形の自分が、
確かに其処に居たと、思えた気がした。







…まぁ、また何かの折りに、気が向いた時に、また来よう。

その時また自分が、ただ単に過ぎた思い出に浸っているだけの、後ろ向きのザマじゃあない事だけは、祈りたかった気がする。







初めて来た時には、もうすぐ桜の便りが届きそうな頃でありながら、逆戻りの冬の寒さの中に在った、星空の下にあったその場所は、
とりあえず昨日は、確かに春の足音を感じられそうな、緩い寒さの中に在った。

眼下の街の灯りが、気がつけば少しずつ消えて行く、朝の訪れの中に在った、その場所には、

確かに「キボウ」の姿が、在った気がした…。