
まず・・・。
ヴィヴィオの事は、なんにも有りません。
タイトルの通り、牛丼と生卵の事だけしか書いてません。
たったそれだけの事を真面目な感じで書くってのが、今回の目的です。
今北産業って言われたら。
牛丼と生卵を注文。
牛丼が絶妙にうまかった。
生卵食べ忘れてガクブル。
それだけの事に、さらっと文章にしてみました。
読めば、それなりに面白いです。
でも、オチが先に見えてる状態で読むと言うシュールさを楽しんでください。
それは、とある昼休みのコトだった。
私は、某牛丼チェーン店でお昼ご飯を食べる事にした。
そう、自動的に味噌汁が付いてくるあの黄色い看板の店だ。
その時は、牛丼並に卵が食べたい気持ちだったので、思い切って生卵を注文した。
と言うか、券売機を押した。
カウンターに座り、食券を店員さんへ渡し、心を落ち着かせ待つ。
私は、卵ご飯が好きだ。と言う事を加筆しておこう。本心は、ワクワクを隠せないでいる。
基本中の基本メニューの為、出されたお茶を飲む間もなく、一瞬で来た。
ひとつのトレイに、牛丼のどんぶり、みそ汁のお椀、そして生卵の入った小鉢。
この店では、卵は割って出てこない。割る所から、セルフサービスだ。
私は、この並盛りの牛丼に対して、出来るだけいろんな味で楽しんでやろうと思っていた。
まず、本丸の牛丼を攻め入る前に、正門のみそ汁を頂く。
熱々のみそ汁は、空腹の腹に染み渡り、一気に食欲を増幅させる。
そして、いよいよ牛丼へ箸を伸ばす。
まずは、スタンダードにそのまま食す。何事も基本が大事であるのだ。
うん、うまい。
じっくりと煮込まれたお陰で味のしみ込んだ玉ねぎ。
そして、薄いながらもきちんと基本のしょうゆベースで味の付けられている肉。さらに、その出汁を逃すまいとかけられた煮込み汁。三位一体となり、私の舌を楽しませる。
もちろん、その牛丼を乗せているご飯の存在を忘れてはならない。
ご飯が無いと牛丼は成立しない。ただ役者がいても舞台が無いと成り立たない事と同じ事だ。
少し食べた所で、牛丼には切っても切れない仲の紅ショウガを投入する。
あの食紅万歳の赤い紅ショウガだが、しょうがの風味が、牛丼の出汁のうまさを引き立てる!
う、うまい・・・!
紅ショウガと、ご飯、玉ねぎ、そして、肉をバランスよく食していき、途中、口の中の牛丼を一度リセットさせる意味で、みそ汁へ手を伸ばす。
まだ熱いみそ汁は、口の中の脂っぽさを流し込み、また、フレッシュな気持ちで牛丼を楽しませる為の準備をしてくれる。
ぐぐっと、わかめの味噌汁を飲みほした。
さて、紅ショウガを投入した後に、待っているのは、七味唐辛子。
これを入れる事で、しょうがの風味に、七味の風味とぴりっとした辛みが、味に変化を付け、牛丼の新しい側面を見せてくれる。
ベースであるしょうゆ味にショウガの風味と七味の辛みが喧嘩することなく、それぞれの自己主張を行う・・・。
そう、それはまるで素晴らしい能を見ているような気分にすらなる。
素晴らしい舞台に、この上ない役者。そして、息の合った演奏。
どれが欠けても、舞台は成り立たない。演劇は完成しない。
牛丼のどんぶりと言う舞台に、それぞれが、過不足無く演じきる素晴らしさたるや・・・!
・・・私は、気付くと、どんぶりを空にしていた。
後乗せの調味料達は、自分自身のさじ加減で味のバランスが崩れてしまう。
この日は、本当に絶妙に決まっていた。
たった一杯のどんぶりが、これだけの幸せな気持ちを与えてくれるなんて、最高じゃないか!
と、食後の一服で、湯呑に手を伸ばした時・・・。
小鉢に納まっていた、生卵が目に入った。
・・・どういう事だオイ・・・生卵じゃねーか!!
至福の満足感から、恐ろしいまでの絶望が襲ってきた。
この“どうしても食べたかった生卵”が、突然単品で現れたのだ。
・・・いや、この“生卵”は、始めからここに居たのだ。
信じられん、私とした事が、バランスに欠く食べ方をするなんて・・・。
卵かけご飯が好き過ぎる私は、牛丼屋で生卵を注文する時、もう四分の一ぐらいの所で卵をダイレクトに丼へ投入して、ほんの少しだけしょうゆを垂らして、全てを絡めて頂く。と決めている。
そうすれば、ご飯に対して、卵の濃度が高く、少量でとても満足した気持ちになれるからだ。
最後の卵が、ご飯、肉、玉ねぎ、出汁を優しく包み込み、そして、調味料達の角を丸くして絶妙なハーモニーを奏でる。
家で食べる事の出来る“卵かけご飯”では、味わえない、特別な卵かけご飯になるのだ・・・!
あえての卵とご飯の崩したバランス、それが私のウェルバランス。
しかし、この日は、調味料達のバランスが秀逸過ぎた。
それだけで非常に美味しくいただけてしまったのだ・・・。
私は、この生卵を忘れてしまっていた現実に驚愕し、そして、この生卵の存在に恐怖を感じた・・・。
この卵をどうすればいいのだ・・・!!
私のポリシーとして、出された食事は残さない。がある。
私と一緒に食事をしたことがある人は分かると思うが、米粒ひとつ残さないほど綺麗に頂く。
全ての命を頂く事に最大限の敬意を表する。そして、造っていただいた方へのリスペクト。
それは、残さない事。と決めている。
ここで、食べようがない。事を理由に、卵を残して帰る事は、私が今まで生きてきた人生を否定してしまう事になる。
もう、この葛藤の時点で、牛丼を美味しくいただけた事なんか、どうでもいい事になっている。
・・・今は卵だ。
熱い視線を生卵に送って見たが、ゆで卵になる事は、無かった。
せめて温泉卵ぐらいになれば、美味しく頂けるのに・・・。
あたしって、ほんとバカ・・・。
ふと、美樹さやかのセリフが頭をよぎった。
牛丼を美味しく頂く事に夢中になり、大事な生卵を忘れてしまっていた。
それは、上条恭介の腕を治すために魔法少女になった美樹さやかが、最後に絶望で身を滅ぼす事と似ている。
彼女は、奇跡を願った事を忘れて、ただただ絶望を感じていた。
私も、美味しくいただけた牛丼を忘れて、ただただ生卵を見つめていた。
そして・・・。
私はおもむろに、その生卵へ手を伸ばした。
そう、それは、さもいつもこう言う感じですよ。と言う雰囲気すら感じさせるぐらい慣れた動きで。
そしてトレイの角で卵を割り、空のどんぶりへ投入した。
空のどんぶり以上に、私の頭は空っぽだった。
そして何も考えず、しょうゆをたらし、無心で混ぜ、何事も無かったように飲みほした。
なぜだろう、一筋の涙が頬を伝った気がした。
・・・ごちそうさまでした。
声にならないような声で、そう告げ、店を後にした。
外は、気持ちが良いまでに晴れていたが、心は晴れるどころか、澱んでいた。
ただ、残さず食べきる。と言う、信念は通しきれた事だけが、心を支えていた。
まぁ、ただそれだけのことです。
オチはないですwと言うか、初めに言ってますからね。
みなさんは、生卵を忘れずに一緒に頂いてください。お願いします。