膝《ひざ》がふれ合うほど間近に座った。
「事は帝のご葬儀に関わることじゃ。これまでいろいろとわだかまりもあったが、互いに腹蔵《ふくぞう》
「その件でございますれば、新造の関所から上がる関銭を當てることとし、すでに徴収にかかっておりまする」
「それは存じておるが、左大臣との話ではまだ詰めきれておらぬ所があるようじゃ。それゆえこうして內蔵頭《くらのかみ》を伴っておる」
なく語り
合い、一日も早禮が行えるようにしたい」
「詰めきれておらぬと申されますと」
長慶が急に険しい目をして、三尺ほど後ずさった。
「大葬の禮の費用八百貫をいつまでに納めるか、新造の関所はいつ取り払うのか。この二點だ」
前嗣は手にした笏《しやく》で、あおぐように胸をたたいた。
「內蔵頭の申すところによれば、以前內蔵寮で関銭の徴収をしていた時には、日に四千人が七口の関を利用しておったという。とすれば、新造の関所からは日に四十貫の収入があろう。ひと月には千二百貫の関銭が集まるということになる」
「左大臣さまは、我らにすべてを任すと申されました。今さらさような言いがかりをつけられては心外でござる」
「言いがかりではない。左大臣に手落ちがあったゆえ、改めてくれるように頼んでおるのだ」
「すでに朝議で決まったことだと聞き及んでおりますが」
「帝のご裁許《さいきよ》を得ねば、朝議で決した事も無効となる。帝がご不在の今、裁許の権利はこの私にある。今からでも左大臣の命令を取り消すことは出來るのだ」
「お望みなら、そうなされるがよろしゅうござる」
長慶は少しも動じなかった。
「我らは近々丹波攻めにかかるゆえ、実のところ関所の警固にまで手を取られるのは重荷でござる。大葬の禮の費用も、他の者に申し付けていただきたい」
「私はそのようなことを望んでいるのではない。先の二點について約束を取りつけておきたいだけだ」
「それでは、新たに條件を加えるということになりまするな」
「武家の物言いだとそうなるか」
「なりまする。ゆえにこちらも、それに見合うだけの條件を出させていただく」
「申せ」
「將軍義輝公を廃し、阿波公方さまに將軍|宣下《せんげ》を行っていただきたい」
長慶の父元長は、足利義晴の弟義維を擁して 「堺《さかい》幕府」と呼ばれる政権を打ち立てた。
ところが細川晴元の裏切りによって堺幕府は崩壊し、元長は討死にし、義維は阿波に逼塞《ひつそく》する身となっただけに、義維を將軍として擁立することが三好家の悲願となっていた。
「確かに將軍宣下をするのは朝廷だが、それは武家からの申請があった場合に限る。そちが義維を將軍にしたくば、義輝を説いて譲位させるか、討ち果たして將軍たる內実を整える外はない」
「ならば、當方には少しも利がないようでござるな」
「大葬の禮の警固を三好家に申し付ける。さすれば、そちの威勢を天下に示すことが出來るではないか」
費用を出させて警固もしろとはひどく蟲のいい話のようだが、大葬の禮の警固をするとは、都の支配者であることを朝廷が認めたということだ。長慶の食指が動かぬはずがない。
前嗣はそうにらみ、この條件を切り劄として會見にのぞんだのだった。
「それは阿波公方さまの、將軍としての內実を整えることにつながりましょうや」
「そろそろ義維には、見切りをつけた
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