というわけで「その2」です。
前回は、ざっくりとしたイメージをお伝えしました。
でも世の中具体的なことが大事なので、今日は具体的なところを見ていきましょう!
まずは、ロールセンタの求め方のおさらいから始めますね^^
このようなジオメトリで組んであるダブルウィッシュボーン式サスペンションがあったとすると、
まず片側のアッパアームに重なる直線を引き、
同様にロアアームに重なる直線を引いて、
2本の直線が重なる点を「点P」とします。(インスタントセンタとか呼ばれたりします)
そして点Pと、
「タイヤの接地中心」とを繋ぐ直線を引いて、
反対側のサスペンションにもこれと同様の線を引いたとき、
2本の青線が重なる点Mが、ロールセンタです。
したがってこのクルマは点Mを中心にロールするということが分かります。
やったね!
ところで、ロールセンタがこのようにして決まるのは何故でしょうか?
図をパっと見ただけでは、「へーそうなんか」と思うくらいで、理屈がよく分かりませんね。
もうちょっと具体的に見てみましょう。
まず、ロアアームの取り付け点に注目してください。
緑色の丸で示したところです。
ハブキャリア側(タイヤ側)取り付け点をL1とし、メンバ側(ボディ側)取り付け点をL2とします。
ところで、ここで点L2を固定して考えた場合、点L1はL2を中心にして回転することが分かります。
このことは、アッパアームについても同様で、取り付け点のそれぞれをA1、A2とすると、
A1はA2を中心にして回転することが分かります。
タイヤが動く場合は、アッパアームとロアアームが同時に動きますから、つまりこんな感じですね。
ところでロアアームの動きにもう一度注目して欲しいのですが、
ここで、「ロアアームが動き始める瞬間」を想像してください。
ぐいーっと動いたあとじゃなくて、これから動き始めようとする瞬間の、まさにその一瞬です。
その瞬間の点L1は「どの方向に動こうとしているか」というと、矢印で示したような方向に動こうとします。
これは言葉で表すと「ロアアームに対して直角方向」ということです。
「ちょっと待て、L1はL2を中心に円軌道で動くんだから、直角方向というのはおかしいだろ」と思った方は決して間違ってないのですが、あくまで「動き始めようとする瞬間」について考えていますから、そういうふうに考えてみてください。
今回のお話はここがポイントになるので、よく分からない人も、頑張って。
つまり、
円軌道で動くときの動き始めの一瞬は、円の接線となるような、矢印で示した方向に動こうとしている、ということです。
ただしこれは逆に言うなら、「点L1の動き始めが矢印の方向であるならば」、
その円軌道は、もちろんこういう円かもしれませんが、
「点L1の動き始めが矢印の方向である」ということだけで言うなら、もしかしたらこういう感じで、もっと小さい円かもしれませんし、
あるいは、もっと大きい円かもしれません。
どのような円軌道で動くかに関わらず、「点L1の動き始めは矢印の方向である」ということだけは分かっています。
その場合、例えば小さい円の場合は「円の中心」はここらへんになって、
中くらいの円の場合は「中心」がここらへんで、
大きい円の場合は「中心」がこのへんになりますね。
ここで、円の中心だけを考えた場合、
点L1が描こうとする円が大きいか小さいかに関わらず、「円の中心は必ずロアアームに重なる直線上のどこかに存在する」ということが分かります。
このことは、アッパアーム側についても同様のことが言えますから、
点L1と点A1が同時に動こうとするとき、それぞれの動きを同時に満たす円の中心は、アッパアームとロアアームそれぞれの延長線が重なる点Pであるということが分かります。
ここで、タイヤ(ハブキャリア)には点L1と点A1が固定されていますから、タイヤの重心点をTとした場合、
点Tは点Pを中心とした円軌道で動こうとする、ということですね。
ただし厳密には、動き始めの一瞬だけなので、「動こうとする方向」という意味で言うとやっぱりこういう矢印の方向になります。
なぜ「動き始めの一瞬」だけを考えるのかというと、例えばこのようにストロークした際は、
アッパアームとロアアームに重なる延長線の交点Pはこのへんに移動することになりますから、
点Tは今度はさっきとは違う点を中心に円軌道を描こうとするわけです。
このようにタイヤが上下するにしたがって、円の中心はどんどん変化しますから、点L1やA1は「円軌道」というよりは、どちらかというと「螺旋」に近いような、そういう軌道で動くかたちになります。
とにかく、円の中心が常に移動するというところがポイントです。
さて、以上は車が宙に浮かんだ状態で固定して考えた場合の動きです。
ロール運動を考えるにあたっては、それに加えて、もうひとつべつの動きを考えなければいけません。
それは「タイヤの接地中心」(厳密に言うとタイヤが倒れ込むときの中心)を中心とした円運動です。
ここからは図が見やすいように、片側のサスペンションだけで書きますが、
クルマはタイヤの接地面付近を中心として、こんなふうに動いたり、
こんなふうにも動きますね。
また、こういう状態からでも、
ストロークすることによって、さらにこんなふうにも動くわけです。
わかりますか?
イッチニ、サンシ、って、動きますよね。
ただし、ストロークするときの「瞬間的な回転中心」は、さきほど長々と説明したように「点P」であるということが分かっていますから、ボディの動きに関わらず、あくまで点Pがどのように動こうとするかを考えればよい、ということが分かります。
そしてこの場合、点Pは矢印の方向に動こうとするわけですが、
あくまで「動き始めの一瞬」に関して言えば、その円軌道の中心はタイヤ接地中心だけとは限らず、タイヤ接地中心と点Pとを繋ぐ直線上のどこかに存在する、ということが分かります。
ロールという運動は、点Pを中心としたタイヤの上下動(=点L1や点A1の円運動)と、タイヤ接地中心を中心としたボディの上下動(=点Pの円運動)が合わさった運動になりますから、それぞれの円運動を満たすような点を求めれば、ロールセンタがそこにあると分かる。
したがって、以上のような作業を左右ともに行い、それぞれの青線の交点となる点Mこそがロールセンタになる、ということになります。
以上、ロールセンタの求め方と、なぜそうなるのか?の説明でした。
ずいぶん長くなりましたが、全部読まれた方はお疲れ様でした。
このようにして決まる前後のロールセンタを直線で結ぶと、それがロール軸になります。
ただ、これはあくまで基本的な考え方であって、実車への適用にあたっては注意してもらう点がいくつかあります。
次回はそのあたりのことを書きますね!