2014年12月23日
姿勢変化と荷重移動は分けて考えることが大事
例えばですが、「○○をするとロールが増えるので、外側のタイヤにしっかり荷重が乗る」といった表現を目にすることがあります。
自動車工学を学んだ方はこういう表現をすることはまずありませんね。
では、これが間違いか?というと、必ず間違いであるということも言えません。
難しいですね。
ロールやピッチングといった「車両姿勢の変化」というのは、「各タイヤにかかる荷重が移動すること」とは分けて考えることが、正しい理解に繋がります。
実際には「姿勢変化」と「荷重移動」は密接に関わり合っているものですから、分けて考えたあとで、ふたたび組み合わせるということが必要になるのですが、順番としては先に「分けて考えることが出来る」ということを覚えたほうが、たぶん分かりやすいのではないかと思います。
ごっちゃになってよく分からなくなってしまう場合は、極端な例で考えてみましょう。
たとえばバネやスタビを硬くすると、ロール角は減りますね。
これは「同じ力を受けたときの車両姿勢の変化が少なくなる」という意味で、例えば「受ける力が大きくなると車両姿勢の変化も大きくなる」わけですが、ここは当然「受ける力は同じである」という前提で考えます。
実際には同じではないので、正しく理解できたあとは、受ける力が変化した場合について考えていくことも大事です。
でも今は面倒なので、受ける力が変化しようがしまいが「まったく姿勢変化しないクルマ」を想像して考えてみることにしましょう。
ばねレートが無限大でブッシュ硬度も無限大、ボディ剛性も無限大とします。
ちなみにタイヤの剛性が無限大だとグリップしてくれないので、タイヤ剛性については残念ながら除外します。
このクルマがカーブを曲がるとき、果たして荷重移動は発生するでしょうか?
荷重移動は、クルマの重心高さが地面高さよりも上にあれば発生しますから、例え姿勢変化しないクルマであってもカーブを曲がれば荷重移動が発生します。
ところが、このことは感覚的にいまいち分かりにくいことのようです。
ばねレートは無限大であっても、カーブを曲がれば荷重移動はきちんと発生します。
次のような例で考えてみましょう。
まず頑丈な机と、大体ですが週刊少年ジャンプを10冊重ねたくらいの大きさの長方形の鉄の塊を用意します。
ずっしり重いのですが、あなたは力持ちなので、大きな鉄の塊を持ち上げてしまうことくらいへっちゃらです。
ちゃらへっちゃらです。
その鉄の塊は、机の上に縦にして置きます。
縦に置いているのでちょっと不安定ですが、鉄の塊はずっしり重いので、やっぱり不安定じゃありません。
次に、机と鉄の塊との間に「感圧紙」を挟みます。
「感圧紙」とは、そこにかかる圧力の大きさに応じて色が変化する紙のことです。
分からない方は画像検索でググってみてください。
ここでは特別に、ゴムシートのような性質を併せ持つ感圧紙を使用することにします。
そして机と鉄の塊との間に感圧紙を挟んだら、今度は僕の登場です。
僕は、鉄の塊の「上のほう」をしっかりと持って、「横に」ぐぐーっと押してみます。
机と鉄の間に挟まれた感圧紙はゴムシートのような性質を併せ持っていますから、鉄の塊は横に動くことはありません。
鉄の塊はずっしりと重いので、頑張って横に押しても、びくともしません。
顔を真っ赤にしながら横に押しますが、びくともしません。
うーん、僕のへなちょこ!
「ちょっと代わって」と言って、今度は、あなたがやってみることにします。
あなたはこないだ超サイヤ人に目覚めたので、とっても力持ちです。
机の上に縦に置かれた鉄の塊の上のほうを、小指で押してみました。
すると、ずっしりと重い鉄の塊が、なんと簡単に傾いてしまったではありませんか!
小指の力を緩めたら、傾いた鉄の塊は元に戻りました。
ふたたび小指に力を込めると、鉄の塊はふたたび傾きました。
くいっ、くいっと、何度も押すと、くいっ、くいっと、何度も傾きます。
僕はその横で「なんじゃそりゃー!」と目を見開いてびっくりしています。
何がすごいって、そんなに大きな鉄の塊を載せてもびくともしない、机の頑丈さにびっくりです(そっちか)
以上は簡単な実験ですが、ここで、あなたが小指で押す前に僕がチャレンジした直後の感圧紙の状態をチェックします。
僕が鉄の塊を押す前は、感圧紙の色はきれいに均一です。
ところが、僕が顔を真っ赤にして鉄の塊を横に押したあとは、押された反対側の部分のほうが色が少しだけ濃くなっています。
それまで均一だった荷重が、横に押されたことで、偏りが発生したということです。
つまり、荷重移動した。
その後、あなたが小指で鉄の塊を押すと、鉄の塊は傾きます。
感圧紙に接している角っこの部分だけ、めちゃくちゃに色が濃くなっています。
当然ですね、ずっしりと重い鉄の塊のすべての荷重がそこにかかっているわけです。
これはクルマで言えば、片輪が浮いているような状態と同じですね。
そのまま力を加え続けると、横転してしまいますね。
さて以上は例え話ですが、「横に押してもびくともしないが、実際には荷重は移動している」というイメージを持ってもらえたら、と思って書きました。
クルマの場合はバネがついているので、このような状況だと、ロールしてしまいます。
ただしもしも鉄の塊のように、バネレートが無限大に近いようなクルマだったら…つまり走行中どんなに力が加わっても姿勢変化しないようなクルマだったら、荷重移動量が増えていき限界に達したところで内輪が浮きはじめ、やがて横転します。
というわけでロールをしようがしまいが、(クルマの重心点が地面高さよりも上にあって)タイヤがグリップしている状態で重心点に横力が加われば、ちゃんと荷重移動は発生するということです。
この場合、見た目の姿勢変化は重要ではなく、実際に4つのタイヤに加わる荷重がそれぞれどの程度の大きさなのかということが重要で、例えば感圧紙のようなものを使えばそれを知ることが出来るかもしれませんが、実際にはそれを計測することはとても難しいです。
ともかく、「姿勢がどのように変化するか」ということと、「荷重がどれくらい移動したか」ということは切り離して考える、ということが重要で、それを理解するためには「まったく姿勢変化しなくても荷重移動は発生する」というケースをイメージすることが理解の助けになるのでは、と思います。
ところでクルマがロールした状態では、重心位置が外側下方に移動するので、そのことが荷重移動量そのものに影響を与えます。
そのため「ロールの大小は荷重移動にまったく関係がない」とは言い切れないのが実際のところです。
ただし20度も30度もロール角がつくようなクルマは別にして、スポーツ走行用に足回りの硬められたクルマでは、それが影響する量というのは大きくありません。
無視できる大きさではないが考慮に含めるほどの大きさでもない、という意味で、ただの豆知識として頭の片隅にでも入れておく程度にするのがよいと思います。
どちらにしろ過度のロールはスポーツ走行に不向きであるということは一般によく知られているわけですしね。
またクルマがロールしている状態では、重心位置だけでなくロールセンタも移動します。
クルマをロールさせる力 = ロールモーメント ≒ 重心点~ロール軸間の距離×重心にかかる横力 なので(※)、ロールによって重心やロールセンタが変化するとロール量が変化するというのも当然ですね。
(※1…ロールした状態では重心にかかる重力の影響もありますが書いてるとキリないので割愛します。苦笑)
(※2…左右のバネレートが異なる範囲ではロールセンタも変わるし、ジャッキアップ特性でも変わるし、そもそもダンパのガス圧やブッシュにかかる力やタイヤのばねなど、左右で異なる要素はとても多いため、厳密にやろうとするとほんとにキリがないのでこのへんはあまり突き詰めようとせずほどほどにしておくようにしましょう。苦笑)
そういった絡みがあって、ロールの大きさは荷重移動に少し影響を与えます。
ただし、だからと言って、ロール剛性を半分にすれば荷重移動量が倍になるかというと、そうではありません。
このあたりの感覚を身につけることが、ロールを正しく理解することに繋がるかもしれませんね。
いろいろ書きましたがが今日は「姿勢変化と荷重移動は分けて考えることが大事」ということが書きたかったのでした。
とても混同しやすい要素なので、よく分からなくても無理はないのですが、混同しやすいものは分けて考えよう、分けて考えようという意識を持つことが大事だと思います。
そして次にカラオケ行ったときはちゃらへっちゃらを歌いたいと思います。
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Posted at
2014/12/23 21:53:50
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