EDRのデータ解析

最近の車…というか今そのへん走ってる大体の車には、EDR（イベント・データ・レコーダ）という、交通事故などで大きな衝撃が入った際にその瞬間の各センサの信号などを記録する機能がエアバッグECUの中に組み込まれています。
飛行機でいうところの ブラックボックスみたいなものですね 。
事故の映像をカメラによって記録するドライブレコーダとは違い、EDRが記録するのはあくまで各センサから得られる車両データです。

ここで記録されるデータは警察による事故の検証に使われたり、裁判で証拠として使われたりするため社会的な重要度が高く、かつ正確な分析を行うためにはそれに関わる専門知識が必要になるので、一般のユーザや修理工場が容易に取り扱うことが出来ないように暗号化された上で格納されています。
データの読み出しにはボッシュ社のCDR（クラッシュ・データ・レトリーバル）という専用の機械が必要で、さらにその取り扱いにはCDRアナリストという資格が必要です。

ところで高校時代の友人が弁護士として長らく交通事故案件に携わっているのですが、先日彼から電話がかかってきて「EDRデータの解析を行う会社を一緒に立ち上げないか？」と言われました。
曰く、交通事故の客観的な証拠としてEDRデータはすごく重要なのに、それを取り扱うことの出来る会社が地方にぜんぜん普及していない。
それを自分達でやれたら社会に貢献出来るし、専門性の高い仕事なのでお互いの知的好奇心も満たせるし、ニッチな市場なので細々とやっていけば経営的に厳しくなることもなさそうだと。

お、いいね！

ということでさっそく新会社を登記して、ボッシュ渋谷本社に行って資格研修を受けてきました。
CDRアナリスト認定トレーニングという研修ですが、交通事故案件に携わる警察官や弁護士、メーカーや研究機関の交通事故関連の部署で勤務する人、あるいはアジャスター2級資格を持った人でなければ、この研修を受ける権利すらありません。
そうでない人は別途、CDRアナリスト向けシステムトレーニングという研修を受ける必要があるので、システムトレーニング4日間、認定トレーニング5日間、合計9日間の研修を受けました。
最後に試験があって、合格するとCDRアナリストに認定してもらえます。
何問か間違えたけどなんとか合格しました。
日本で411人目のCDRアナリストだそうです。
アメリカでは既に1万人以上が取得しているこの資格、日本では制度が導入されてから5年しか経ってないということもあって、まだまだ普及していません。
めざせ500人！

資格を取る前は「EDRにはどういうデータが記録されているんだろう？」という部分に興味津々でした。
サーキット走行の分析ではGPSの位置データにより速度や縦・横Gなどを算出して使いますが、最新の車を除いてほとんどの車にはGPSはついていません（カーナビ用を除く）。
結論から言うとホイールセンサなどから得られる速度、Ｇセンサの数値から算出したデルタVと呼ばれる速度差の値、アクセルペダル開度やスロットル開度、ブレーキスイッチのON/OFFの状態やブレーキフルードの圧力、ステアリングアングルセンサの値、衝撃を検知してからECUが事故判定するまでの時間や、その後エアバッグが展開するまでの時間、さらにそこからデルタV（衝撃の大きさに比例する）が立ち上がっていく時系列データなどなど、たくさんありました。
最新のはADAS、いわゆる自動ブレーキのデータが入ってくるものもあるそうです。
記録時間としては基本的には事故前5秒と事故後0,25秒くらいまでです（厳密には「イベントの終わり」という項目で定義された時間まで）。
当然、車種や年式によって記録能力やメーカの考え方が異なるので、2012年にアメリカの49CFRpart563という連邦法規で基準が設けられており、日本の主要メーカー各社の車もこの基準を満たすかたちで生産されています。
気になる方は49CFRpart563と検索すると普通に連邦法規の英文のページが出てくるので、ブラウザの機能で日本語に翻訳して読んでみてください。
丸暗記すると試験の1/4くらいは点を取れます笑

そんなわけでこれからは自動車整備士とCDRアナリストという二足のわらじでやっていきたいと思います。
本業に差し支えるといけないのでせいぜいのところ月に数件しかやらないと思いますが、自分の個性を活かせそうな分野ので楽しみです。