先日,ある集まりがあり,料亭で季節料理を堪能させてもらった。
懐石料理ゆえ,次の料理が運ばれるまでには静かな間が生まれる。
ふと見ると,先輩が席を立ち,床の間の掛け軸を眺めていた。
そこには,つがいのオシドリが仲睦まじく描かれている。
私も先輩の隣に進み出て,つい愚問を口にしてしまった。
「このオシドリは北への帰り仕度でしょうか?」
先輩は一笑し「お前も面白いことを言うね(オシドリは渡り鳥じゃない)」と肩をすくめる。
「いえねぇ,屏風に描かれた雁が,北帰行する落語を思い出しましたもので…」
先輩は「あ!雁風呂の噺だろ」と膝を打ち,そこから落語談義へと花が咲いた。
料理の合間の静寂は,思わぬ形で賑わいへと転じたのである。
このやり取りの一節が,ふと以前書いたエッセイを思い出させた。
我社の生産拠点は群馬にあり,私が工場へ行くときは埼玉から利根川を渡って県境を越える。
利根川に架かる武蔵大橋(全長687メートル)は可動堰の管理道路で,言うなればダムの上を走る橋ゆえ,上流側の半分は風光明媚な湖のようで眺めがいい。
冬はオナガガモ,コガモ,カイツブリなどの冬鳥が数多く飛来し,見る者の心を和ませてくれるのだ。
先週に続き武蔵大橋を渡ると,水鳥たちの姿はもうなかった。
北帰行のあとだったのだ。
北帰行とは日本で越冬した渡り鳥が春になり,北の繁殖地へ帰って行くことだ。
最近空を見上げることを忘れた私は,もうどのくらい,夕日に映し出された逆V字の影を見ていないだろうか?
四季のある日本では気温や気象現象だけでなく…
草・木・花・虫・鳥などの自然環境に敏感な生き物たちを見て,季節を感じ取る感性も大切にされる。
これから春を迎え,草木が芽吹き出して生き物も活発になるが,その前に暫し冬鳥たちとはお別れだ。
落語「雁風呂」の一席の中に,こんな噺が出てくる。
秋になると,雁(かりがね)は一本の枝葉(しば)を口に咥え,蝦夷松前よりもっと北国から渡ってくる。
飛び疲れると波間に枝葉を浮かべ,それにとまって羽交(はがい)を休めるという。
そうやって函館の浜辺にある一木の松という所まで辿り着くと,要らなくなった枝葉を松から落とし,日本国中へと散ってゆく。
日本で冬を過ごした雁は早春のころ,再び函館に戻ってきて一本ずつ枝葉を拾って北国へ去っていく。
あとには命を落とし,帰れなかった雁の数だけ枝葉が残こる。
土地の人たちは,その枝葉を集めて風呂を焚き,不運な雁たちの供養をしたのだという。
秋は来て 春帰り行く 雁の 羽交休めぬ 函館の松/紀貫之(きのつらゆき)
哀しい話だが,こんな話の一つからさえ季節を愛でる気持ちを忘れたくないものである。
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