
明け方にもかかわらず,日本中が固唾を呑んで見守った。
ワールドカップ北中米大会,日本vsブラジル。
残念ながら日本は敗れ,今大会を終えた。
しかも幕切れは,ロシア大会(2018)のベルギー戦を思わせるアディショナルタイムでの逆転負けだった。
思い起こせばドーハの悲劇(1993)もアディショナルタイム。
どうやら日本にとって,その時間帯は鬼門なのかもしれない。
もっとも,アディショナルタイムを気にしているのはサムライブルーだけではない。
永田町でも会期延長を巡り,攻防が繰り広げられている。
与党が協議のテーブルに着かず,野党が委員会への出席を見送っているからだ。
昔の政治家は,お気軽だった。
与野党間で対立が強まる。
時には旗色が悪くなり,窮地に立たされる。
すると,なぜか絶妙なタイミングで体調を崩し入院するのだ。
時間切れが来るまで,病室から国会中継を高みの見物である。
まるで,梅雨前線のような季節の風物詩でもあった。
最近はそうした個人プレーも見掛けなくなったが,決して油断はできない。
寝てない。ふらつく。持病の悪化。
サッカー選手以上にアピールする政治家もいる。
なにしろ,体調不良を理由に討論番組をドタキャンして,地方遊説に向かった人もいたぐらいだ。
与野党共に「ドーハの悲劇」ならぬ「永田町の茶番劇」は,もう大概にしてもらいたい。

雨の日は,エリーゼで出掛けない。
濡れるからじゃない。汚れるからでもない。
理由は単純。
───雨漏りするからだ。
タルガトップなので,いちおう幌は付いている。
しかしスピードを出すと,フロントガラスと幌の隙間から雨が沁み込み,そのうちシトシトと落ちてくる。
たいした量ではない。
だが,集中力が削がれる。
縦G・横Gの程度によっては自分に直撃するので,カーブでは水滴をかわしながら運転する。
水滴が落ちるタイミングが気になり出すと…
密室でメトロノームを聞かされているみたいで,気が狂いそうになる。
ところが,昨年の夏,事態が一変する。
セブンが我が家にやって来たのだ。
こうなると,人間は刺激を欲する動物で,昼も夜も♪セブン~♪セブン~♪セブン~
エリーゼは,すっかり放っておかれる。
新しい側室にばかり通い,正室を顧みない───バカ殿様そのものだ。
だが,さすがのセブンでも,雨の日は無理。
幌?何それ美味しいの?という世界である。
そこで登場するのが,そうエリーゼだ。
雨?上等だ。
エリーゼなら,ぜんぜん問題ない。
いや,正確に言えば「相対的に」問題ない。
この話を車仲間にすると「それさぁ,前と言ってること違うだろ」と大笑いされた。
たしかにそうだ。
だが比較対象が変わると,評価軸も変わる。
そう,人生と同じである。
エリーゼの乗り降りにはコツを要し,腹筋が衰えたら即引退。
助手席側の窓の開閉やドアミラーの調節には,あと5センチ腕の長さが欲しい。
一応エアコン装備だが,風量は弱・中・強のみ。
音楽は,騒音で歌詞も聞き取れず,流せる程度。
それでもセブンに比べれば,豪華装備満載のラグジュアリー車だ。
明日は雨だ。
───エリーゼの出番である。
正室の逆襲は,雨音と共に始まる。

TIMEXのミリタリーウオッチを手に入れた。
となれば,ベルトはもちろんNATOベルトだ。
その戦場での強みは…
1)1本のリボンのような構造で時計の裏側を通しているため,万が一時計のバネ棒の片方が破損しても,時計が落ちて紛失する心配がない。
2)裏蓋が肌に直接触れないので,灼熱や厳寒の条件下でも,火傷や凍傷から肌を守る。
3)防寒着やウエットスーツの上からでも巻けるように,ベルトは長めに作られている。
そのため,直接腕に巻いたときに余ったベルトは,折り返して入れられるよう,リングが大きめにできている。
これで焼肉屋も怖くない。
時計を網に落とすことも,ベルトがタレに浸かることもない。
何より,火傷の心配がなくなった。
ヒトハチマルマル,総員焼肉屋へ突撃せよ!

セブンには,時計がない。
いや,付けようと思えば何とかなるが,スパルタンなメーター類に時計を並べた瞬間,急に生活臭が漂う。
それは,食べ残しのポテトチップスの袋を洗濯バサミでとめるぐらい,野暮ったい。
そこで,引き出しの奥からGショックを引っ張り出してきた。
20気圧防水,ストップウォッチ付き,もちろんバックライト装備だ。
多少ぶつけようが,雨ざらしだろうが,「ほう?」くらいの顔しかしないタフな奴。
セブンとの相性は,抜群に思えた。
───だが問題があった。
老眼である。
走行中にチラッと時計を見る。
ところが瞬時に液晶の数字(7セグメント文字)が識別できない。
「0」それとも「8」なのか?
「8」だと「6」や「9」にも見える。
「6」や「9」だと「5」に近い。
こうなると,もはや雰囲気でしかない。
そのうち数字が全部,「急いで書いた暗号」みたいに見えてくる。
これでは意味がない。
そういうわけで,アナログ時計にした。
針はシンプルに3本。
というよりも,よくある小さい針なんて,あっても見えない。
目を引いたのはタイメックス。
ミリタリーウォッチの草分け的存在で,どことなく強靭な雰囲気を醸している。
セブンの無骨さによく似合う。
決め手は,何と言っても特許のバックライトで,文字盤全面が光ることだった。
夜,道に迷い,雨に降られ,幌も掛けず,震えながら時計を見る。
そんな状況でも,タイメックスだけは妙に頼もしい。
例の如く,腕を伸ばしたり近づけなくても,しっかり見えるのだ。
もはや私に必要なのは「月差±5秒」ではない。
老眼鏡なしで,「焦点±5センチ」なのだ。

日ごろ,腕時計はしない。
なぜならスマホを持ち歩いている。
時間なら,これで十分だ。
だが,改まった相手と会うときは別である。
目の前でポケットからスマホを出すのは,どうも気が引ける。
だから,そういうときだけスーツ用の腕時計を巻く。
ところが最近,逆にカジュアルな腕時計が欲しくなった。
おそらくセブンのせいだ。
ほとんどのクルマには,当たり前のように時計が付いている。
しかし,セブンにはそんな洒落た物もなければ,スマホなんて滅相もない。
あのクルマ,雨風と引き換えに色々なものを置き去りにしている。
だから,時間を知るにも妙に原始的だ。
ちらりと手首を見る。
そのくらいがあのクルマには似合っている。
そうなると,視認性が欲しくなる。
雨は「天候」ではなく「アトラクション」なので,防水は必需だ。
車内灯のないセブンは,後続車の善意で照らしてもらうが,暗闇で一人ぼっちだとバックライトも必要である。
雰囲気としては,少しタフなミリタリー時計か───
しかし,ドライビングなら,やっぱりクロノグラフが定番だろう。
だが,タキメーターで平均時速を計る奴なんているのか?
そう言えば,私のセブンはキャブじゃないけど自然吸気だし,ラジエターファンは回りっぱなし。
だったら,気圧や気温も測れる登山時計のほうがセブンの乗り手らしいか───
そんなことを考えているうち気づいた。
私は,腕時計が欲しいのではない。
それを巻いてセブンで旅に出たいのだ。
文庫本を買うと,どこか遠くへ行きたくなることがある。
それと少し似ている。
まだ何も始まっていないのに…
物語だけが,先に走り出しているのである。
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