初めて先輩からタケノコをいただいたのは,少々気まずい事情の後だった。
私のわがままで,ご面倒をお掛けし,謝罪に参じた春の日の午後。
竹林の奥から,長靴に鍬を携えた先輩が,ゆっくりと姿を現した。
応接間に通され,言葉に詰まる私に,先輩は何も言わずにうなづいた。
それが,赦(ゆる)しのしるしだった。
帰り際,駐車場で差し出された包みは,掘りたてのタケノコ。
無骨で泥だらけのこの春の恵みに,なぜか心が和らいだ。
あれから,春が来るたびに,先輩は欠かさずタケノコを送ってくれる。
それは,単なる季節の贈り物ではない。
あの日,無言の赦しをいただいた静かな続きなのだ。
竹に旬と書いて,筍。
十日で竹になる。
土の中から顔を出し,陽の光を浴びて一気に伸びる。
若いころの私のようでもあり,あの時の関係も,もしかしたらそうして再び芽吹いたのかもしれない。
水煮パックでは味わえない,土の匂いと時間の重み。
アクを抜き,丁寧に炊いたタケノコの味は,どこか懐かしい。
先輩の手と季節の恩恵が合わさって,ようやくたどり着く滋味がある。
旬を食べるとは,こういうことなのだと,つくづく思う。
あの竹林があるかぎり,この季節は続いていくのだろう。
だが,その時間もまた限られていると,どこかで知っている。
だからこそ,毎年届くそのタケノコに,私は変わらぬ想いと静かな絆を感じている。
春はめぐる。
タケノコもまた,春の味わいを運んでくる。
竹林の奥で鍬を振るう先輩の姿を想像しながら,私はまた今年も,タケノコの皮を一枚ずつむく。
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