長年連れ添った愛車の車検満了を契機に,BMW・M2コンペティション(6MT)を次の後釜に据えた。
この先長い付き合いになるこのクルマの第一印象を,まだ初々しいうちに備忘しておこうと思う。
M2の誇らしげなキドニーグリルは泣く子も黙るBMW!さすが高級車だ。
オーナーの証であるキーは(ベンツは別として)トヨタiQ以来のスマートエントリー。
アバルト595やロータス・エリーゼは鍵穴をこじらないように指で探ると,あたかもイモビ解除に必要な踏絵の如く「静電気の洗礼」が待っていた。
それに対してM2は肉体的な拷問にビビらなくてもエンジン始動はボタンひとつで瞬時に咆哮を上げてくれる。
今日はちゃんと掛かってくれるかなぁ…と不安に苛まれることなど微塵もない。
その2。天候を気にせずに運転できる。
最も驚かされたのが,小雨でワイパーを掛けてもギュッ!ギュッ!と鳴かない!
595&エリーゼは何度調整してもらっても黒板を爪で引っ掻くぐらい不快な音がするので,前が見えなくなる直前までワイパーは我慢していた。
ところがM2は悲鳴どころか静寂の海に漂っているかのようで,なおかつ小雨でもワイパーが自動で動き出すスグレモノだ。
蛇足だが,エリーゼは湿度が高いと運転席のドアボタンが渋くなり外からドアが開けられなくなるので,助手席から乗り込んで中からドアを開けるのだが…
M2は雨の日でもちゃんと外からドアが開けられる。
その3。運転しながらでも助手席の窓を開閉できるのがとっても素敵!
595&エリーゼはやっとパワーウィンドウに変更されたが未だに運転席に助手席の窓のボタンは備わっておらず,助手席までめいっぱい手を伸ばすスタイルはクルクルと手で回していた時代からの伝統を今に伝える。
その他にもM2はバケットでないので背もたれがフラットになり仮眠もできるし,色々な箇所が電動で介護用ベッドにも引けを取らない。ヘッドライトもオートだし,アイドリングストップもあって至れり尽くせりだ。
こんな些細なところに配慮を欠かさぬ姿勢がBMWが高級車と呼ばれる所以である。(ホントかよ?)
てんこ盛りの快適装備はまだまだあるが,まだ使い方を理解してないのでこの辺でやめておこう。
さて,M社自慢のM3/M4と同じS55型エンジンを搭載したその走りはこれ如何に?
カタログデータを見る限り私が乗ってきたどのクルマよりも速いことを予感させる。
しかし,まだ納車から日が浅いせいか?全然それを実感できていない。
すなわちドライビングプレジャーを感じられない。人馬一体感がないのだ。
クラッチが柔らかく軟骨の減ってきた膝にはやさしいが,反発がなくミートポイントも広過ぎる。
シフトはショートストロークだがダイレクト感に欠ける。エリーゼが9点で595が8点ならば6点といったあたりだ。
ここまでくると言掛かりに近いが,サイドブレーキの位置がどうもしっくりこない。
赤信号→ブレーキ→ニュートラル→<探す>→サイドブレーキ→青信号→1速→<探す>→サイドブレーキ解除→アクセル…
一連の動きがサイドブレーキの位置が悪いため流れるように操作できずリズムが崩れる。
ステアリングの手応えを重くする機能があり多少クイックさは向上するが,サスペンションで上手くいなされてしまい路面状況が全く分からない。
エリーゼのように昔の機構の方が素手で路面を触っているかのようなインフォメーションを得られ,改めて見直されるべき項目だと思う。
バイエルン発動機(BMW)のビギナーとしては,滑らかで淀みなくどこまでも回っていくエンジンを想像していたが,なんか少し違う。
それともシルキーシックスとはNAの直6を指す呼称だったか?記憶があやふやだ。
しかし,ツインターボが絞り出す低回転域からのトルクは素晴らしく途切れのない加速感が得られる。(最大トルク550N・m/2350~5230rpm)
どこかで味わったことのある加速感だと暫く考えていたが…思い出した。これはまさにEV車だ。
また一度3速に入れてしまえば,市街地だろうが高速道路であろうが変速の必要がないぐらいトルクフルで扱いやすい。
しかしそれを言い換えるなら,オバちゃんたちが運転するオートマ限定のレベルとなんら変わらない。
そこであえて不必要にシフトチェンジしてもクルマからの反応は…どっちでもイイよ,大して変わらないから。とマグロ的な返事が聞こえてきそうだ。
決してクロスレシオなのではなくパワーバンドが恐ろしく広いのがその理由だろう。
勝手にやってくれるブリッピング機能も余計なお世話だ。
シフトダウンのミスによるエンジン保護の観点から言えば非常に有効なデバイスだが,操る醍醐味を一つそがれてしまった。
レブカウンターを見ずに速度や音など五感を頼りに狙った回転数に納めたときの快感を奪われた気がする。
加速力・旋回力・制動力がクルマの三大性能だとすれば私が最も注視するのは旋回力である。
もちろんバランスが大切なことは当たり前の話だが,乱暴に言えばレースに於いてはコーナリング中では抜きづらいため制動力と加速力がカギを握る。
しかし,フリーでタイムを刻もうとした場合は逆に旋回力がものを言うが,だからと言って私はポールポジションを狙っているわけではない。
旋回力にこだわる理由は,コーナーをどれだけ攻められるかがドライビングプレジャーの質量を決めるからだ。
M2のホイールベースはMシリーズ中で最も短い小型車だが車重は1.6トン以上もあり決して軽量とは言えない。
直線では強力なエンジンの賜物で車重を感じさせないがコーナーではどうか?パンドラの箱を開けてみた。
ホイールベースに起因するものか?電子デバイスの恩恵か?恐れていた私の心を嘲笑うかのように良く曲がる。
車重900キロ以下のエリーゼに対して,その2台分近くもあるM2でコーナーに進入したら私の腕力では抑え切れないド・アンダーを覚悟していた。
しかし四輪のうちどのタイヤにどのくらいトラクションを与えるかを制御できれば,かえって重量があることは武器になる。
次にトラクションコントロールを全部切って試そうとしたら,危険だからやめとけ!と警告が表示されたので次回に譲ることにする。
結論を言えば,四輪に対して別々にブレーキを掛けられない我々はコーナーに応じたギアの選択やブレーキングポイント,ミリ単位のスロットル操作,ステアリングの操舵角などを駆使して荷重移動をコントロールするが…
電子デバイスに私の下手くそな運転を全部矯正しまくられたのでは,いくら速くコーナーを駆け抜けてもドライビングプレジャーなど望むべくもない。
何年か前の話だが,初めて595に試乗したときは衝撃的だった。
バケットに腰を沈めてエンジンをスタートさせた瞬間,目の前にスターティング・グリッドの光景が広がった。
コーナリング性能が特に優れているわけではなく高速道路でも決して速いわけでもない。
しかし,対抗馬として検討していた(BMW製)ミニJCWよりも格段に尖がっていた。
クセのあるジャジャ馬を乗りこなすと言うことは同時にドライビングプレジャーも得られると言うことだ。
その後エリーゼへと触手が伸びるが対抗馬のアルファロメオ4CやアルピーヌルノーA110が購入候補から外れたのは,クラッチペダルとシフトレバーがないことが大きなビハインドとなった。
今では絶滅危惧種となったMTがM2にラインナップされていたことが心を掴まれる切っ掛けだが,それらを含めて味付けが万人ウケを狙ったマイルドなものでは折角の良い素材が台無しになってしまう。
しかし一部のユーザーが声を上げたところで,アバルトやロータスといった町工場にBMWのような大企業が足並みを揃えるわけにはいかぬジレンマであろう。
レーシングカーもご用意しておりますので,そちらをお買い求めになられサーキットで安全に走行してお楽しみください。と言われるのがオチだ。
最後はドイツ車ゆえどうしてもアウトバーンやニュルブルクリンクで鍛え上げられたというフレーズを使いたくなるが…
もしも私がアウトバーンを疾走するなら,もっと高い評価で絶賛することは想像に難くない。
しかし近所にアウトバーンはなく,レース目的でもなく,ましてや直線番長も要らないとなるとこういった評価になる。
私としては札びらさえ切れば誰にでも愛想の良いクルマよりも,例え貧乏でも特性や限界を知っている相手だけに心を許してくれるクルマの方が魅力的なのだ。
まだまだ語れるほど乗りこなしていないが,天邪鬼な私見でM2を総括すると…
ときめくような愛人にはならないが,いつまでも一緒にいたい妻として娶りたい相手である。
自分の嫁に何か物足りなさを感じているあなた!
物足りないけど,懐が深くまぁまぁ良妻賢母で不満はないと思っているならば,私の言っている意味がお分かり頂ける筈だ。