真夜中の湾岸線―――
止まったら,心が圧しつぶされそうだった。
だから,アクセルを踏む。
夜の街が流れ,ちぎれていく。
灯りの消えた部屋には,彼女の移り香だけが残っている。
自分を見失いそうで,叫び出しそうで,気づけば走っていた。
夜の闇が海と混ざり合い,どこまでが空で,どこまでが自分なのか,もう…分からない。
風を切り裂く轟音だけが耳に残る。
彼女の笑顔が,浮かんでは消える。
どこか遠くを見るような目をしていたことに,気づいていた。
言葉にならない違和感だけが,日々を濡らしていく。
いつからだろう…
触れられないもどかしさが,心のどこかを冷たく撫でていくようになったのは…
彼女は,ときどき姿を消し,しばらくするとまた戻ってくる。
問いただす勇気が私にはなかった。
そのたびに,胸の奥で何かが崩れていった。
ふと,あの言葉が,心を揺らした。
「やさしい人ね,あなたって人は」
とがめられず,責められず,ただ見ないふりをされたとき,人は自分の弱さに気づかされる。
その時,遠くの暗雲に一筋の稲光が滲んだ。
目を逸らさず,その方角へアクセルを踏み込む。
雷鳴の中で,何かを委ねたくなる夜がある。
痛みはゆっくりと,静かに染みていく―――
分かっている。それでも…
あの笑顔に,もう一度すがりたい。
ただ… 遠雷の待つ先へ。
心の中では,みずいろの雨が降り続く。
朝の淡い光のなか,アサガオを踏み潰してしまった。
道幅の狭い初めての田舎道,レーンを守って走っていると,草が一角だけ道へ顔を出していて,足元にふわっと柔らかい感触が伝わった。
すれ違いざま,目の端に青紫の花が見えた。
あ!と思って車を止めてバックすると,ガードレールを覆うようにアサガオが自生している。
その一角の,タイヤがかすめた部分だけ,ツルが折れ,いくつかの花がうつむいていた。
申し訳なさが,じんわりと胸に広がる。
それと同時に思い出したのは,誰しも小学生の時に育てるアサガオのこと。
夏休み,鉢に棒を立て,ツルが巻きつくようになったときは,植物にも意志のようなものがあるんじゃないかと驚いた。
毎朝,水をやるときに葉を触ると,前の日より確かに伸びていて,昨日と違う自分と出会っているような感覚があった。
観察日記に,花の色,葉の形,ツルの向きを一生懸命書き留めた。
でも本当は,紙の上ではなく,毎日その小さな成長に気づけること自体,不思議さと喜びに満ちていたのだと思う。
まだ何も知らなかった自分が,アサガオという小さな命を通じて「日々は変わっていくものだ」と学んでいた。
あの夏の記憶は,自分にとって初めて「時間を見つめた」体験だったのだ。
そんな記憶が,霧雨の中で踏んでしまった花と,静かに重なった。
クルマを止めたまま立ち尽くすと,残された花たちが風に揺れている。
折れた仲間の分まで咲こうとしているようにも見えたし,ただ何もなかったように朝を迎えているようにも見えた。
ふと,しゃがんで改めて見てみる。
ツルの先には,小さなつぼみも揺れていた。
―――まだ咲こうとしている。
どこかで,あの夏の気配が,今もそっと脈打っているような気がした。
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