
昔からの常識として、「古い年式の車には当時と同じ固いオイルを」という定番説があります。
それは、「昔のエンジンは今のよりもクリアランス設計が大きいから。」というのを根拠としてよく聞きます。
もちろんサラサラな水みたいな状態では油膜は保持できませんが、では一体どれくらいの固さのものを選べば大丈夫と言えるのでしょうか。
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【エンジンオイルの常用温度域】
走行中の車の油温は90℃前後が適温だと言われていて、実際の常用域もその辺になるよう水温にて制御されています。
つまり実用温度域である90℃時の粘度が重要であると言えます。
燃費を別にすれば、保護性能(油膜)を考えて高温側の方で安全マージンを考えるのです。
そこで、オイルの代表性状として100℃時動粘度という指標があります。
ここの数字を見比べれば油温が高いときの粘度(=油膜)が分かるという事です。
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【SAE粘度は100℃時動粘度で決まる。】
100℃時動粘度という指標は、オイルの粘度表示を見ると分かるようになっています。
SAEによって定められているからです。
その範囲は以下の表の通りです。
そして一例として、某有名な鉱物油の20W-50の代表性状表がこちら。
エンジンオイルメーカーはこのような表で動粘度を公開していることが多いです。
こちらの商品の場合だと、100℃時動粘度が17.7とあります。
SAEの区分表では16.3~21.9の間に入りますので、それで粘度表示が20W-『50』となっているわけです。
(低温側は低温側でもちろん基準値がありますが、今回は触れませんので省略。)
では固いオイルを選んでおけば、この動粘度はずっと保証されるのでしょうか?
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【粘度指数による粘度変化】
エンジンオイルのベースオイル(鉱物油や合成油)は粘度指数という値によってグループ分けされています。
Gr.I (鉱物油)...粘度指数(VI) 80~120以下
Gr.II (HIVI)...粘度指数(VI) 80~120以下
Gr.III (VHVI)...粘度指数(VI) 120超え
Gr.IV (PAO)...粘度指数規定なし(自ずと120超え)
Gr.V (上記以外)...粘度指数規定なし
粘度指数とは、温度による粘度変化のしづらさを指す値です。
グラフに表すとわかりやすいです。
赤:鉱物油(粘度指数が低い)
青:合成油(粘度指数が高い)
100℃時の数字が同じであっても、それ以前と以後の範囲では顕著に粘度が違いますね。
特に油温が100℃を超えた場合、本来なら安全マージンを取りたいところ、粘度指数が低い鉱物油(赤線)だとどんどんシャバシャバになっていきます。
そしてもちろんオイルは使用とともに劣化しますから、このグラフも下に落ちていくことでしょう。
こんなふうに。
鉱物油は耐熱性も耐蒸発性も低いことから、合成油と比べると劣化が早いです。
なので、『エンジンオイルは3,000km交換しましょう。』と昔から言われているのです。(……これって鉱物油を前提とした交換サイクルでは?)
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【選ぶべきは…】
これらを考えると、マージンを取ってやたらと固いオイルを選ばざるを得ない鉱物油を使うよりも、低温時の流動性も確保しながら高温時の粘度低下も小さい合成油を選ぶほうがエンジンにとってより良いことは明白です。
・粘度変化が大きく、
・寿命が短く、
・不純物が多い
鉱物油を、積極的に選ぶ理由は性能から見ると何一つないのです。
そして、鉱物油であれば劣化後の安全マージンを見て50という固さを選んでいた物が、粘度指数が高くて劣化の緩やかな合成油であればひとつ下の40という固さでも十分性能を担保できるし、オイルを固くするためのポリマーの添加量も少なくて済むことになります。
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【売り手側の思惑】
となると鉱物油の存在意義はコスト面以外では無いということになります。
コスト重視の商品として鉱物油があるのは分かりますが、中には旧車専用と称して結構な高値で売られている鉱物油もあります。
これは最初に書いたような「旧い車には鉱物油!」という旧来の価値観を引きずった車好きへおもねる形で、メーカーが"わざわざ"商品化してあげているだけです。
しかも「どうせ3000kmで交換するんでしょ?」という前提で。
交換距離が短かろうと、スラッジやカーボンは溜まりますからね。
蒸発性が高く酸化も早い鉱物油は特に。
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【終わりに】
信じるとか信じないとかの話じゃない。
少し基本を勉強すれば自ずと同じ結論に行き着くだけ。
特に掘り下げもしないですぐ
「オイルは宗教」
とかそれっぽい事言っちゃう人。
Posted at 2024/09/08 22:20:39 | |
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