

DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)
昨今のDPFを搭載したディーゼルエンジン車とは切っても切れない関係にあるのがエンジンオイル。
ところで、、、
「DPFって排気中の煤を集塵する部分じゃないの? なんでエンジンオイルに指定があるの?」
って思ったことはありますか?
エンジンオイルがどうして排気管へ紛れ込んでいるのか
なぜ燃焼室で一緒に燃えてるのか
かと言ってエンジンオイルが目に見えて減ってるわけでもない
この辺を説明してみようと思います。
悟空「ぜったい見てくれよな!」
DPFの役割
ディーゼル車に乗っている方ならご存知だと思いますが、昔と違って今のディーゼルエンジンには排ガス対策としてDPFと呼ばれる集塵装置が排気管の途中に取り付けられています。
ここで煤を集塵するのですが、ある程度煤が溜まってくると『再生』と称する燃焼によって、煤の焼き切りを行います。
これを繰り返すことで排ガスを継続的にクリーンにするという仕組みです。
画像引用:シェルルブリカンツジャパン

DPFの排ガス浄化と再生のメカニズム
うざい再生燃焼
ところで、この再生燃焼という作業がまぁまぁ結構な頻度で起こる。
もちろん乗り方によっても大きく左右しますが、数百キロごとには発生するイベントで、走行中に勝手にやってくれる自動再生であれば気にしなくてもいいですが、手動再生の場合だと停車中に行わなければなりませんし、無視する訳にもいきませんから結構なストレスです。
大型トラックなんかは一度に走る距離も結構あるので、DPFのサイズが大きいとは言っても毎度の事なのではないでしょうか。
エンジンオイルが指定されている訳
冒頭に書いたように、DPFにはエンジンオイルが影響しているからこそディーゼル指定のエンジンオイルが存在しているわけですが、その指定オイルが定めている重要な基準が「硫酸灰」の量です。
JASO DL-1であれば0.6%以下
JASO DH-2であれば1.0%以下
ACEA C3やC5であれば0.8%以下
と、小数点以下の世界でやたら細かく指定されています。
DPFの再生燃焼によって煤は焼ききれても、オイル内に含まれる金属成分は焼ききれずに残ります。
その金属成分の燃え残りが『灰』なわけで、DPFを最終的に詰まらせる物質になります。
画像引用:DPFドットコム

DPFに残った灰
なので、DPFの寿命を伸ばすという意味でオイル内の灰分を規定しているのです。
余談:
ちなみにJASO規格では灰分に関しては厳しいけど、エンジンの保護については二の次になっているようなレベルの規格です。
規格適合していても良いオイルとしょぼいオイルの落差がひどいですので、選ぶのはそこそこ上級者向けです。
まぁしょぼくてももちろん壊れはしないでしょうけど、かと言ってDPFの再生が長いかというと別にそんなこともない。なんだかそんなレベルの規格です。
大事なのは規格じゃないんだなぁ。…あ、ACEAは信用していいですよ。
JASOディーゼル規格の評価項目がこれなのに対し、

ACEAディーゼル規格(乗用車)の評価項目はこんなに。そして厳しい。

なので、仮に規格で選ぶなら断然ACEAです。
なぜエンジンオイルがDPFに影響するのか
そろそろ本題に入っていきましょう。
エンジンオイルが排気管へと紛れ込むそのメカニズムは以下のとおりです。
前提:エンジンケース内の空気(ブローバイガス)は、再循環システムによって吸気管へと合流されている。
1.エンジンケース内は高温環境
↓
2.オイルが微量に蒸発していて、ミスト状に漂っている
↓
3.そのミスト状のオイルが吸気に混ざる
↓
4.燃焼室で一緒に燃える
↓
5.排気管(DPF)へ
オイルが直接燃焼室へ向かわないよう途中にバッフルプレートが装着されたりしていますが、それでも気体に漂う細かいオイルミストまでは完全に除去できませんので、どうしても燃焼室にオイル分が紛れ込んでしまいます。
実際、排気ガスに含まれる(DPFで処理される)汚染物質の内訳は...
画像引用:シェルルブリカンツジャパン
こんな感じで、オイル要因が半分以上を占めています。
燃料の不完全燃焼成分だけでなく、オイルの不完全燃焼成分(カーボン)が非常に多いのです。
なので、いかにオイルを燃焼室へ持ち込まないかが大事になります。
蒸発量(Noack)に目を向ける
規格上でいくら灰分が規制されていても、原因物質(オイル由来)がガンガン送り込まれたのではDPFの処理が追いつきません。
特にJASO規格のオイルには鉱物油が多いのですが、鉱物油は蒸発量が多いのでなおさらです。
実際、蒸発量の規制値について比較しても、JASOとACEAでは乖離があります。
JASO
ACEA

(ちなみにACEAの大型車用E規格でも全てのグレードで13%以下です)
つまりは、ディーゼル用のオイルを語る上では「灰分」だけでは片手落ちで、「蒸発量」についても厳しく検討しなければなりません。
また、オイルに含まれる粘度指数向上剤(俗に言うポリマー)は熱の影響で劣化すると後にスラッジ&カーボン化してしまうため、無駄に粘度指数の高いオイルは避けるべきでしょうね。
さらには、そもそものブローバイの量を減らすことも大事です。→密閉性
ディーゼルエンジンに適したエンジンオイルとは
以上、ここまで書いてきたことをまとめた、ディーゼルに適した良オイルの条件とは、、、
- 灰分が少ないこと
- 蒸発量が少ないこと
- 鉱物油でないこと
- 粘度指数向上剤ができるだけ含まれていないこと
- 密閉性が高いこと
あたりが挙げられそうです。
でも、世のディーゼルオイルで主張しているのって1.の灰分のことばっかりじゃないですか?
そこだけに着目していても良いオイルにはたどり着けませんよ。
2.蒸発量(Noack)
→ できればACEA規格準拠。データが公開されていれば尚良し。
→ 鉱物油は避ける。蒸発量の少ないGTLやPAOベースを選ぶ。
3.鉱物油
→ 避ける。(絶対条件)
→ 鉱物油由来のVHVIよりも、できればGTLまで選びたい。
4.粘度指数向上剤
→ 中身は分かりようがないけど、極端に粘度指数の高いオイルは避ける。(合成油ならVI=150~170あたりが落とし所かなぁ?)
5.密閉性
→ 粘度を上げるか、または安定性の高いベースオイル(GTLやPAO)を選ぶ。
→ 密閉性を上げる特別な措置が働く添加剤の配合