「ポーン!」
という音と共に、エンジンマークが点灯。ああ、これがネットとかでよく見るエンジンチェックランプってやつかと思った。夢心地から、急に現実へと引き戻される。好事魔多し。
一度停車し、一速でクラッチを繋げて発進しようとすると、
「ガクガクっ!」
という振動と、弱弱しいエンジンパワーしか出ないことが、確かにこのMINIのどこかが不具合を起こしているということを表していた。
急のつく運転を避け、峠道を抜けて平たんな道で家へと向かう。エンジンチェックランプが黄色だったから、まあ動けるだろうと思ってはいたものの、これほど異変を感じる故障は経験がなかったから、家までたどり着けるかどうか不安になった。
インプレッサWRXStiに乗っているときも、一度エンジンチェックランプがついたことがあった。しかし、普通に運転できたし、吹け上りも変わらなかった。ディーラーに持っていったら、インタークーラーのカシメが緩んだことが原因だったので、補修部品(リビルド)が用意できるまで加給圧をあまりかけずに乗っていてと言われただけだった。
よしよし、この信号を曲がってゆっくり坂道を登っていけば、最悪自分の家の駐車場まではたどり着ける。その手前にあるMINI専門店が開いていれば、修理を頼もうと思った。修理工場の入り口を入っていくと、開店時間を少し過ぎていたのにガレージのシャッターはすべて閉まっている。事務所のドアを開けようとするが、鍵がかかっていた。
「だよなぁ、ゴールデンウィークの間の平日だもんなぁ。」
もう一度エンジン掛けたら、普通に戻っていたりしてなどと、メルヘンチックな考えでエンジンを掛けるが、現実は変わらず、ガクガクしたMINIをもう一度運転して、駐車場まで戻った。
BRZに乗り換え、ちょっと遅れで出勤。午前中の仕事をこなしつつ、お昼前くらいにもう一度修理工場がやっているかどうか電話をかけてみる。プルルル、プルルル、と長いコールの後、転送電話に切り替わった。ああ、やっぱり休みかなと思った時、
「はい、もしもし。」
と、電話に出る声。あ、この声は社長さんだ。
「あの、エンジンチェックランプ着いちゃって、さっき整備工場へ持っていったら閉まっていたんですけど、お休みですよねぇ…。」
そう聞くと、
「あ、ガレージまで来たの?今ね、外出ててさ、午後1時くらいには戻るけど。」
「じゃあ、持って行っても良いですか?多分イグニッションコイルじゃないかと思うんですけど。」
「見るよ、持ってこれる?」
そうとなればと、昼休みに飛び出し、BRZをガレージに停めると、いつもよりのんびりした雰囲気で、メカニック一人と社長さんだけ。とりあえず、BRZを預かってもらって、徒歩で家までMINIを取りに行く。ずっと山道を登っていくと、運動不足のせいか息が上がる。MINIを登ってきた坂道をゆっくり転がすように整備工場まで持ってきた。
事務所に入って社長さんに声を掛けると、直ぐにチェックしてくれた。
「一番死んでんなぁ。」
そう言うと、テスト用のイグニッションコイルを持ってきて付け替えてみる。
「うん、良いんじゃない?直ぐできるよ。」
「預けなくても良いですか?」
「明日から本格的に休みにするし、もう大丈夫だよ。」
MINIを置いていくつもりだったので、BRZを置いていったのだが無用だった。もう一度BRZを置きに帰り、ゆっくり歩いて来るうちに修理は終了。イグニッションコイルとプラグを交換。こういう時、専門店だとパーツの在庫があるから助かる。ものの一時間も掛からず終了。
「じゃあ、請求書作るからちょっと待ってて。」
しばらくして、
「あれ?データ無いなぁ。もしかして、修理初めて?」
実は前に2回ここへ来たことがあったが、1度目はMINIに沢山出ていたマイナートラブルをチェックしてもらい軽く手直し(無料)してもらった後、1時間ほどおしゃべり。2度目は、無料にしてくれたお礼にお菓子を届けに行き、またおしゃべり。美味しいコーヒーを淹れてくれた上、MINIに関する話をずっとしてくれるし、自身もMINIが好きで乗っているという話をしてくれた。足回りや、パーツ選択のアドバイスも楽しんでおしゃべりしてくれるから、この人に診てもらおうと思えた。
「うちにもさ、宣伝してないけど全部仕上げたJCWあるんだよ。」
ガレージの前に前期型のJCWR56のレーシンググリーンが置いてあった。焦らずに、こちらで購入したほうが良かったかもしれない。
「今日も仕事?今、お昼休み?」
ちゃんと顔も覚えてくれていたし、仕事を何しているかも覚えてくれていた。しっかり、顔を売っていて良かった。
「あ、そうだった!今日は助かりました。ようやくお客になれて良かった。またよろしくお願いします!」
おしゃべりに熱が入ると時間がすぐに経つ。一見厳つく見えて、話しづらい雰囲気を感じるかもしれない。でも、話をしてみると、とても自然体だし、たまに見せる笑顔が優しい。
「何かあったら、いつでもおいで!」
そう、僕が言って欲しい言葉は、そういう言葉。難しい車を持つオーナーの不安を和らげてくれる言葉。ここに来れば、何とかなる。そう思える言葉。
窓を開け、道路まで出てきて誘導してくれる社長さんにあいさつをして、テストとばかり思い切り回転を上げ、朝故障した同じ峠道を通って、昼休みの時間が終わりそうな仕事場へ急いで帰っていった。
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2024/05/17 12:55:40