ニュルブルクリンクの走り方を教えていただいたのは成瀬さんだった。
2003年に、ニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場させてもらったときのことだ。
おかげで、ニュルのオールドコースは今でも全部のコーナーを覚えている。
ニュルブルクリンクにプライベートで遊びに行ったとき、ピクセンハウゼンという、ニュルでテストを行っているメーカーの人たちが呉越同舟のごとく集まるレストランに顔を出すと成瀬さん率いるトヨタテストドライバーチームが食事をされていた。挨拶をすると、「明日ニュルのパドックに来る?」と望外の声をかけていただいた事もあった。
成瀬さんは、ボクが知る限り、常にトヨタのクルマに不満を持っていた。
クローズドコースで行われた、ある試乗会でも、浮かない顔をしていた。
「どう?」成瀬さんにクルマの感想を聞かれ、
「すごく面白クルマだと思うんですけど・・・」
「けど?」
そんなやり取りあの後、気になる部分を正直にいった。
すると成瀬さんは、ニヤッと口の端に笑いを浮かべて、試乗会の最後に別のクルマに乗せてくれた。
そのクルマはボクが不満に思ったところがすべて直っていた。いや、それ以上のクルマに仕上がっていた。
燃費や騒音、さまざまなレギュレーションや社内的なシバリのために出来なかったことを、成瀬さん自らがチューニングしたスペシャルなクルマだったのだ。
ここ10数年、もしかしたら20年くらい、タイヤの試乗会で旭川にほぼ毎年行っている。
成瀬さんと帰りの旭川空港でお会いする事が何度もあった。
成瀬さんはいつも気さくに声をかけてくれた。
そして、いつも口にされていたのが、「トヨタのクルマには、味がない(薄い)」という事だった。
トヨタのクルマに味を作り込むこと。それが成瀬さんの夢だったのではないかと思う。
果たして、トヨタの技術の粋を集めて開発されたLFAが登場した。
袋井のテストコースで行われた試乗会でのったLFAは、感動するくらい味わい深かった。
操作に対するクルマの動きの精度を高めながら、不思議なくらい機械的な硬質さのないクルマに仕上がっていた。
操作に対するクルマの応答が人間の反射速度にシンクロすると味になる、・・・のではないか?
そんなふうに感じさせるクルマだ。
成瀬さんが求めていた「味」は、LFAでそんなふうに定着されているのだと、ボクは解釈した。
本当にいろいろな事を教えていただいた。
それらはボクの宝物です。
ありがとうございました。
心からご冥福をお祈りいたします。
※
ネットで訃報の記事をいくつか目にしたが、「御冥福をお祈りする」という上目線で記事を締めてあるものがあった。「いたします」じゃないの?
Posted at 2010/06/24 23:09:24 | |
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