
HONDAがGP500でマシンデビューさせ、レースでは結果を出せなかったものの市販化にまで漕ぎ着けた楕円(レーサーでは長円)ピストンエンジン、開発者の談話の中に「2ストロークでも検討しました」という発言があって「バルブが無いのに楕円って意味あるの?」と思っていましたが、面白い記事がありました。
こちらの雑誌ではGP500でフレディ・スペンサー選手とケニー・ロバーツ選手が史上稀に見る大接戦を繰り広げた1983年のシーズンを特集しており、ホンダのNS500開発プロジェクトリーダー宮腰信一さんはインタビューの中で翌シーズンの1984年型NS500に対して「ロングストローク化(ボア小径化)による高回転化限界の追求を考えた」という発言をなさっているのですね。
普通だと「えっ、ロングストローク化したらエンジンは回らないからパワーアップ出来ないのでは?」と考えてしまいますが、そうとも言い切れないみたいです。
2ストロークエンジンでは4ストロークエンジンと違って吸排気はシリンダーヘッドではなくシリンダー壁の掃気ポートからされます。2ストロークエンジンでは燃焼ガス交換スピードが重要になるので、4ストロークエンジンのバルブ拡大、高回転化と同様の効果がボア小径化によってシリンダー円周に対する掃気孔全幅の比を上げる事でパワーアップにつながるようです。
したがって2サイクルエンジンで楕円ピストン(長円ピストン)を使うと、4サイクルエンジンとは逆に縦長方向の楕円になって、ピストン幅が狭いままで掃気効率が高くなってパワーアップにつながるという発想です。
4ストロークだと楕円(長円)ピストンは同じボア面積でもバルブ面積が稼げるのに対して、2ストロークでは同じボア面積に対してシリンダー壁の掃気ポート面積が稼げるという理屈のようです。これはなかなか盲点ですね。
実際にはV3エンジンのNS500は1983年で開発を終了して翌年V4エンジンのNSR500へバトンタッチされるのですが(数戦優勝しましたが)トラブル続きでチャンピオンは獲得出来なかったNSR500よりも、楕円ピストンで更にパワーアップしたNS500が実現していたらもっと強力でフレディ・スペンサーも連覇出来ていたかもしれませんね。
でも、横長ピストンだったらコンロッドは2本で安定しますが縦長の長円ピストンだと大丈夫なの?などと疑問は噴出してくるので(爆)、実戦に投入されてもやはりトラブル続きで結果は残せなかったかもしれませんね。でも、4ストロークエンジンとは異なって長円にこだわる必要はなさそうなので、楕円ピストンにすれば部品の加工性やピストンリングの精度も上がって意外といけたのかも。
それにしても、常識だと考えられない長円ピストンを4ストロークエンジンだけでなく2ストロークエンジンにも採用しようとしていたとはちょっと驚きですね。今やほとんど絶滅してしまった2ストロークエンジンですが、もしこの技術が実用化されていたらどんな事になったのかちょっと興味がありますね。
Posted at 2024/01/23 00:01:36 | |
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