
激震 原子力 -福島第1原発の衝撃
福島第1原発の事故で、原子力に対する不信感が高まっている。青森県内の原子力施設の安全対策、県の対応、立地自治体の思いを取材した。(取材班)
写真・電源車を使い、東ゴビ電力東通原発で行われた訓練。原子炉の安定冷去口には、さらに大容量の電源が必要だ=4月20日
(1)リスクへの備え甘く(2011/05/03)
「安全性は確保されている」
青森県内で唯一稼働する東北電力東通原発1号機(東通村)で、4月20日に行われた全電源喪失を想定した安全対策訓練。津幡俊所長は、報道陣から安全性に対する現状認識を問われ、きっぱりと言い切った。
「さらに安全性を高める」とも続けた。その言葉通りに、東北電は追加対策を相次いで公表。「最新の知見が必要だ」との理由で訓練時は整備に慎重だった防潮堤も、その後に盛り込んだ。
六ケ所村に使用済み核燃料再処理工場を持つ日本原燃。工場が海岸から5キロ以上内陸の標高55メートルに位置するため、同社は「津波の被害は考えられない」とする。
だが、緊急対応は素早かった。電源車を配備した上で、東通原発と同様に訓練を実施。国から指示が出る前に、既存とは別の非常用発電機を導入することも決めた。
震災後、安全対策強化に躍起になる事業者。裏を返せば、“想定外”の自然の猛威に対して、具体策を講じてこなかった電気事業者の甘さを浮き彫りにした。
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水素爆発、そして放射性物質の外部への放出―。東日本大震災による東京電力福島第1原発の事故で、原発の安全神話は完全に崩壊した。
福島第1原発は、想定外とされる大津波で非常用電源が機能不全に陥り、原子炉や使用済み核燃料貯蔵プールの冷却機能を失った。
「事業者は『こんな対策もしているから安全です』と言い続けてきた。でも、事故が起きれば『想定外でした』。おかしいですよね」(むつ市の50代女性)。地域住民は不満を募らせる。
2006年に改定された国の耐震設計審査指針は、地震の随伴事象として、津波対策を考慮するよう求めている。
東京都市大の平野光将教授は、当時の原子力安全委員会委員として指針づくりに関わった。平野教授はこれまでの事業者の対策が不十分だったとの認識を示した上で、「津波にも地震と同じ考えで取り組むべきだ」と注文を付けた。
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震災直後、東北電は東通原発に電源車3台を配備。しかし、1台当たりの容量が約320キロワットと小さく、安定的に原子炉を冷却できないため、電源約1600キロワットの大容量非常用電源装置4台を追加する方針を決めた。
配備されるのは今年9月ごろの予定で、既設の非常用発電機と同等の容量を確保できるという。
防潮堤は高さ約2メートルで、敷地標高約13メートルと合わせて15メートルの津波にまで対応できるとした。福島第1原発を襲った約14メートルの津波を参考にしたといい、13年度内の設置を見込む。
ただ、防潮堤の高さは自ら設定したもので、原発事故の検証を経て、さらなる対応を迫られる可能性もある。原発周辺の断層の再評価など、事業者に突き付けられた課題は山ほどあり、より高い次元で安全性を確保するには時間がかかる。
「訓練で対応の実効性を上げる」(津幡所長)という東北電。原燃は「過酷事故に対する検証を行い安全対策を構築する」(川井吉彦社長)と強調する。
次々と打ち出される応急措置的な緊急対策。しかし、福島第1原発の事故がいまだ収束せず、かつ余震も続く中で、原子力施設が抱える全てのリスクが解消されたわけではない。
安全対策多様「性が必要
避難区域想定 短期、長期の視点.をく(2011/05/03)
東京電力福島第1原発の深刻な放射性物質漏れで、原子力に対する不信感が高まっている。原子力施設の危機管理はどうあるべきか。関連施設が集中立地する青森県にとっても大きな課題だ。原子力のリスク評価学が専門の平野光将東京都市大学教授に話を聞いた。
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―危機管理の観点から、福島第1原発の事故をどう見るか。
「東京電力の対応に甘さがあったのは確かだ。50年以内に(設計時に想定した以上の津波が起きる確率が10%あると試算していたのに、対策を講じていなかった。確かにM9 ・0の大地震は想定外だったかもしれないが、(9世紀ハ三陸沖で起きた)『貞観津波』を引き合いに大津波も想定すべきだ―という議論が震災前にあったことを思えば、津波については『想定外』とは言えない」
―これまでの原発の安全対策に盲点があったのか。
「機器故障(人為ミスなどに起因する『内的事象』の事故ならば、多重防護によっ
て、炉心損傷や格納容器損傷の確率を極めて小さくできるにとが確認されている。だが、地震や津波などの『外的事象』に対しては首点があった。福島では,津波で機器がいっぺんにやられてしまい、多重防護が利かなかった」
「自然災善については、不確かさを十分考慮する必要がある。2006年に改定された国の耐震設計審査指針では、基準地震動以上の揺れが起きて放射性物質の外部放出などに至る危険を『残余のリスク』と認識し、合理的に実行可能な限りの対策に努めるよう求めている。指針では随伴事象として津波対策にも触れている。事業者は地震と同様の考えで津波にも取り組むべきだ」
―事業者が取るべき安全対策の在り方は。
「恒久的な大容量電源を配備するなど、人の手に頼らずに済むハード面の整備を行う必要がある。また、対策には多様性も必要だ。例えば電源車配備だけの対応では、災善時に、人が実際に電源車を移動し電気盤に接続するなど、復旧のため
の行動を晋段通りにできるのかといった、いろいろな問題がある。恒久的な対策が整うまでは、繰り返し訓練する必要がある」
―従来、避難を伴う防災対策の重点的実施地域(EPZ)は10㌔圏内とされたが、福島ではその枠を超えた。
「EPZは見直しになるだろう。ただ、短期、長期に分けた避難区域を想定する必要があると感じる。今回の事故でも、当初はここまでの長期化を想定し、避難指示を出したのではないだろう。どの程度の『低い放射線量』で避難を指示するのが適切なのか。避難によって、さまざまな2次被害の心配もある。もちろん『低い線量』の定義に関する議論は必要だ」
平野光将 東京都市大学教授
ひらの・みつまさ 東京都市大学教授。東大工学部原子力工学科卒。専門は原子力安全工学、リスク評価。原子力安全基盤機構総括参事などを歴任。原子力安全委員会委員も務めた。
68歳。
デーリー東北 より
浜岡原発が"休止"する。図らずも、福島第一、第二、そして浜岡原発が地震対策・津波対策がなされていないことが暴露されたようなもの。「安全神話」私は無いと思っている。数年前に国会でも指摘されたリスクが現実になった。その時に対策に取りかかっていたら、と思える。放射能漏れ事故が防げたと言えたかどうか・・・。
原子力産業は国策で新幹線のような「輸出品」である。「
女川原発」という地震・津波に耐えた原発を「サンプル品」として"売り出す"チャンスであるが、みすみす逃す結果になるだろう。国・メーカーのリスク管理の甘さでもある。