
西国へ転勤されたtaboomさんに海べりサイクリングを散々に見せ付けられ、海~海~といつからか毎晩のようにうなされるようになってしまった。
このもやもやを解消するには自らも海へ赴く以外ないのだが、ここいら辺りで海と言えば三浦か伊豆か房総の三択。
三浦半島は道が狭い上に車が多く、平日ならいざ知らず休日にわざわざ向かう気はしない。
伊豆は春先に子供にぶっち切られたばかりだし・・・。
房総も帰りの宮野木渋滞を考えるとちょっとなぁ・・・などと思いを巡らすうち、ふと閃いた!
そうかそうか、その手があったっぺかと、ここでもtaboomさんに対抗すべく東京湾をわざわざ反対へグルリ。フェリーで海を渡り、そこからスタートするサイクリングをプランニングした。
旅の序章は、やっぱり船なのである。
まごまごしているうちに西から梅雨入りの声が聞こえ始めてもきた。
関東が前線に覆われる前にと、H君と休みを合わせ、久里浜港から一番フェリーに飛び乗った。
おみやげは房総名物のパチパチマットにビッグシート、それに特紡ロープとテープにカッター。忘れられない思い出の品だ。
6時20分の始発フェリーに乗り込むため、H君とは6時に久里浜港で待ち合わせたのだが、張り切りすぎて5時過ぎに到着してしまった。
本日乗船する住友重工製「しらはま丸」。
久里浜から金谷へ渡ってのサイクリングは学生時代以来だ。
一番フェリーは乗船客も少なめ。自転車は自分達を含め三台だけだった。
昔はロープでぐいぐい括り付けられたものだったが、今はハンドルを手すりに引っ掛け車止めをかませるだけ。
遠ざかる岸を見ていると気分が一層盛り上がる。船旅の醍醐味だ。
海上へ出ると霧でかなり視界が悪くなってきた。朝のうちだけのことと思っていたのだが・・・。
接岸。金谷港周辺も少々ガスり気味だ。
まだ車は少ないが狭い国道は足を停めづらい。脇へ逸れて海岸へ寄り道。
金谷港から8kmほど南下して海べりは一旦終了、勝山から東へ折れ嶺岡中央林道へ進入する。
関東のサイクリストなら一度は赴くこの林道を、恥ずかしながら自分はこれまで未体験。
今回は初・嶺岡で房総を横断しあの方のお店を目指す計画だ。
景色は里山風景に一変。
いきなりなかなかの激坂だ。
同行のH君。この辺りはお互いまだまだ余裕の表情。
大分山中に分け入り高度も稼いできた。
始めのうちは地図で位置を確認しながら進んでいたが、だんだん面倒になってくる。
気温がぐんぐん上昇し、ヘルメットの中に籠る熱で拭っても拭ってもすぐに汗みずくになってしまう。
中に冷却シートでも貼り付けたら少しは違うのだろうか。
下っては登っての行程が続き、何度もここがピークか? と騙される。
上総の「そこ一里」ならぬ「それピーク?」
ここはきっとピークに違いないと記念撮影。しかし先ですぐにまた登り返し・・・。
あぢいよ~。
左手に視界が開けてきた。
本日一番のビュースポットで休憩。この辺りで標高350mほどだが、なかなかの眺望だ。
標高差170m程を一気に駆け降りるダウンヒル。この後もう一つのピークを越えれば鴨川の海はあと少し。
11時過ぎには鴨川の街で昼食をと甘く考えていたが、小刻みなアップダウンと暑さに難儀し、12時を過ぎてようやく海が見えてきた。
鴨川港で潮風に当たりながら大休止。
懐っこいアカ君。
こちらは用心深いキジ兄弟。
そして鴨川と言えば我が心の聖地。元NC誌すたっふべろのS氏が運営するアウトドアショップZENを訪れない訳にはいかない。
しかし残念ながらこの日は夕方までご不在との貼り紙。
中を覗くと、おぉっ、NC-CATが!
神金とタイアップして製作したこのモデル、当時ちょうど充実し始めた700CWOタイヤとチューブラーを使い分け、ハンドルもドロップとオールラウンダーの付け替えで、一台でオンロードの快走、一部オフを含んだ舗装路ツーリング、完全オフロードと、全てに対応させようとした欲張り仕様の自転車だ。
当時はまだツーリング用と言えば650系ホイールが主流の頃、今に続く700Cランドナーの走りと言えるだろう。
店舗内には自分に多大なインパクトを与えた白い旅行車や、元祖TAプロフェッショナルツーリスト装備の黒スポルティーフやらもあるのだろうか。
でもさすがに5時までは待てないし。仕方ないまた来ようと、後ろ髪を引かれつつ店を後にしたのだった。
駅前の観光案内所で教えてもらったお店へ昼食に入る。もう午後1時を回っていたこともあり、店内には他のお客さんが一組だけ。ご夫婦でこじんまりとやっているお店だ。
一見無口そうなご主人は口を開くと実はかなり話好きのようで、注文した定食のお刺身について一つひとつ丁寧に解説を付けてくれた。
その上途中で齧れと、店を出る際レモンのスライスまで持たせてくれた。
ますます鴨川にはまた来なければならなくなってしまった。
帰路は長狭街道を快走。交通量はそこそこあるが、スピードが乗って走りやすい。
午後4時過ぎに金谷港に到着するも、異様に車、人、バイクでごった返している。
これは何事かと思っていると程なく放送が入り、久里浜港付近が濃霧のためフェリーの運航を見合わせており、再開の目途が立っていないとのこと。
どうやら気温が上がったため、海水との温度差により霧が発生しているらしい。
フェリーがいごかなければ帰れまへんがな!
じたばたしても仕方ないので待つことにするが、じりじりと一時間以上が経過。
場内放送曰く、
霧が晴れずに19:30の最終便の時間になった場合、本日は欠航となります。
欠航って・・・
まさかこのような事態に陥るとは思いもせず、二人とも輪行袋など持ってこようとも考えていなかった。
どうしよう。思いつくのはまず、
自転車をここに預け取りあえず電車で帰る。
しかしその場合、ここ金谷と久里浜へ、それぞれ自転車とクルマを取りに行かねばならない。
クルマは今日このまま久里浜まで取りに行ったとしても、自転車を引き取りに来れるのは早くて来週末。
それまできちんと室内に保管し置いてもらうなど無理だろうな。
結論、こんな海っぺりに置いて帰れるかい!
そうすると、何としてでも持って帰るしかなく、その為には何か輪行袋の代替を・・・。
そう思い至る前から、いや最初からそうするしかないと思っていたのかもしれない。
行きに見掛けたホームセンターのことが頭にずっとチラ付いていた。
お天気サイトで予報を確認すると、横須賀地域は今夜から朝まで海上霧。
もう迷っている場合ではない。
H君にこれこれこうするしかないだろうと説明し、来た道を勝山のホームセンターまで駆け戻る。
輪行袋・フレームカバー・固定バンドの代替に、と購入したのが冒頭の“おみやげ品”。
これで包んで安房勝山駅から内房線に乗り込む以外、もう道はないのだ。なかったのだ。
さぁ、これから駅に向かって一仕事。とその前に念のためにと「東京湾フェリー」のサイトを確認すると、何と
「運航再開」
の文字が。
ええぇ~! とは思いつつも正直ほっとした。
時計を見ると針は18時25分をわずかに回り、今まさに25分発が出てしまったばかりだ。
それでも19時30分の最終便には余裕で間に合う。おみやげをぶら下げ、来た道を再び金谷港へ。
それにしても全くこの青い自転車は、波乱の星の元に生まれてきているようだ。
さぞ混雑しているだろうと覚悟して戻ったものの、どうやら先ほどのごった返しは、前の便が全部連れて行ってくれたようだ。
夕やみ迫る東京湾に向かう最終便は、始発便よりもさらに乗客が少なく助かった。
やっと帰ってきた~。
海上も霧のため、速度を落としての運航で大分時間がかかってしまった。
霧にかすむ久里浜港。
お疲れ、自分。只今~。
教訓:カーサイクリング以外は輪行袋必携のこと。
〈本日のコース〉
