
『MANIAC 1』
・・・1979年2月15日発行の日本ポルシェクラブ関東支部の
会報誌
これは以前、912のことが記述されているかもしれないと思い入手したものです。
会報誌の冒頭は和紙につづられた下記の言葉から始まります。
”数ある自動車の中からポルシェを選ばれたあなたは、モータリストの中でも特別な階級に属するモータリストのように思われます・・・・・”
ポルシェのオーナーズ・マニュアルの冒頭に記されているこの言葉は、まさにポルシェオーナーの気質を表していると思う。よほどのバカか気違いでなければ、小さくて、決して見てくれの豪華でない車に、あんな大金をと投じるわけがない。
そのバカと気違いの中でも飛びぬけている人たちがポルシェクラブのメンバーだろう。
ポルシェのことを話せば、一晩でも二晩でもしゃべり続けるタフさと気違いをあわせ持っている。
まさにマニアックだ。
ポルシェの楽しみ方は色々ある。
ギンギンに走らせて楽しむ人もいれば、磨いて楽しむ人もいる。
あらゆる資料を集めてファイルする人もいれば、メカをいじって楽しむ人もいる。
自分の用途にピッタリだと、毎日の足に使う人もいれば休日だけ引張り出して走らせる人もいる。
なけなしの金をはたいてポルシェを買う人もいれば、数ある車の一台としてポルシェを加える人もいる。
いずれもにしても皆ポルシェが好きなのだ。
------------------------------------------------------------------------------
今の世の中、ホームページやブログなどで同じ趣味や思考の方々に対して思いや考えなど発信し、かつリアルにコメントでやり取りすることなんて簡単なことですが、30年前であればこうはいかないですよね。各地に点在している同じ趣味嗜好の仲間同志で、例えば思っていることを表現する手段としては年に何回か発行される会報誌に投稿し、お互いにそれを読むことでつながりを保っていたのではと思います。
このMANIACには何名かのクラブの会員さんがポルシェそのものや356やナローについての思いを綴られていています。当時の文章を読んでいるととても新鮮で興味深く、このブログを見ていただいている方にも紹介したいと思い、無許可ながら2名の方の原稿をここに転載させていただきました。
(読みやすいように改行を入れていますが句読点などほぼ原文のままです)
『ポルシェに乗って14年14万キロ』 浅井忠雄氏
912を所有されていたクラブ会員の方の原稿ですがエンジン廻し過ぎてピストンリングを2回も折ったそうで、356SCと比較すると912はイマイチのようです。
現在7台目のポルシェに乗っておりますがそれぞれに思い出があり、最初の'64 356SC赤を40年1月に購入し名神高速で走らせたエンジン音、ボディーの作りの良さ、高速におけるハンドルさばき等と356はすばらしく、約2万km走り、2台目はボディーもスリムになった911シリーズの912青、5万キロ走りましたが356程の走り味はなく、パワー不足とオーバーステアの癖だけが残り、2回もピストンリングを折り、それも911と同じように走らんが為でしたが、いささか無茶でした。
3台目'70 2.2Tスタンダード白にしてからは4と6気筒エンジンの違いは衝撃的でした。
そして165HRのタイヤでは心細く約1万km走ってすぐにDX2.2Tブルーメタリックに14インチ185HRをはかせたポルシェで、まだ空いていた東名の快適なドライブを約3万km満喫させてくれました。
特に4200PRMで発するエンジン音は音楽です。
5台目'74 2.7L911を購入し、2.2L迄のポルシェミッションパターンから国際パターンに変ってからは、5~4速チェンジに戸惑い、又、Kジェトロニクス付のエンジン音はあのゼニスキャブ付の3段階の変化に比べ終始同音ですし、オイルの消費は多少多くなりましたがスピードは増し、ガソリンの消費は前と同じでした。
この2.7L911は約2万kmを走り今でもスピード、経済性、整備性で日本ではベストだと思っていますが、'74カレラに乗り変えたのはもう日本では公害対策のため7300レッド210Hエンジンがなくなるため変えましたが、このカレラはエンジンだけ良くボディーや足回りがかなり痛んでおりましたので約3千kmで'75カレラ茶にチェンジしましたが、さすがにカレラは2、3速の加速はファンタジックです。
もちろんターボも同じでしょうが、高速ドライブでも2.7 911では味わえない高度なスポーツ心が加わり、メカニカルインジェクション5000PRMよりカムに乗るエンジン音はまさに「カミング」です。たださしものカレラエンジンも74、75とカムハウジングからのオイル漏れを経験し、やはり排気対策等における熱のためかと思いますが、それ以外は快調なカレラを堪能しております。
来年は15年15万km、その後も20年20万kmと挑戦していきたいと思います。
長く乗る程にドライバーに馴染み話しかけてくれるポルシェ911は勝れた車です。小生も早くポルシェを着るまでになりたいものです。
-----------------------------------------------------------------------------
もう一名ご紹介するのは、二玄社『クラシック・ポルシェ全図鑑』でも監修をされていた特に356に造詣の深い遠藤浩一氏の投稿です。氏の車歴をみると結構リアルタイムで356から911まで乗られていて、その走行距離も半端じゃないです。
当時といえば1ドル360円時代、外貨規制があり、輸入車の購入も入札制でそれも一戸建ての家が十分買える値段(自動車ローンの仕組みもなく現金払い)、高速道路も部分開通で途切れ途切れ、ぜいたく品には物品税が課税されるなど現在ではとても想像できない時代の話。
『無言の友』 遠藤浩一氏
私がポルシェと初め出合ったのは、1964年の春でした。
箱根の緑に染った山道を赤と白の356とすれ違った時のことです。
後を追いかけたが風の如く消えた丸っこいあのお尻姿。すばらしいポルシェサウンドに私はすっかりトリコになってしまいました。
ポルシェの良さは前から知り、憧れていましたが、実物と出会いすっかり参っててしまいました。
その日から私はぜひ自分の手にしたい、そんな毎日が続き、仕事の合間を見ては三和自動車のショールームに通ったものです。女に惚れたって心まで奪う事はなかなか出来ないが、ポルシェならと寝てもさめてもポルシェのことばかり、すっかりポルシェ病にかかってしまいました。
翌年の春待望のの61年型356クーペAを買った時、初めてハンドルを握ったあの時の感激は一生忘れないでしょう。あれから14年間。現在は75年2.7カレラに乗って楽しんでおります。
ちなみに今迄のポルシェの記録を書いて見ます。
(1台目)61年型356Aクーペ白色 1965年春~67年秋迄 約4万8千キロ
(2台目)63年型356Cクーペ赤色 1967年秋~68年春迄 約6千キロ
(3台目)64年型356SCスライディング付グリーン色 1968年春~70年夏迄 約4万キロ
(4台目)68年式911Tデラ白色 1970年夏~72年秋迄 約3万7千キロ
(5台目)70年型2.2 911S色ムラサキ 1972年秋~73年春迄 約1万7千キロ
(6台目)74年型911Sタルガ2.4茶色 1973年春~77年春迄 約4万8千キロ
(7台目)75年型2.7 911カレラ 色オレンジ 1977年春~78年秋現在迄 約2万キロ
近々、(8台目)77年型930ターボ 色黒が入ります。
振りかえってみるとポルシェを売る時はちょっと淋しくなりますが、買った2,3年前の値で売れるから又うれしくもなる。
私は一点の妥協も許さないドイツ人が生んだポルシェのメカが、私の心を奪い、乗れば乗るほど良さが出る。まさに魂と血の通った技術と信頼の車と惚れこんでおります。
ポルシェだけは手離したくない、そんな気持ちが現在の私の仕事への情熱に拍車をかけ人生をより楽しくさせてくれています。
今は仕事には使わず楽しみだけに乗り廻しておりますが、カレラの独特なキーンとしたサウンドにラジオも付けず、仕事は今日明日のことも全部忘れ、東名を楽しんで来ます。
ポルシェは自分だけの部屋でもあります。又ポルシェクラブの数々の楽しいイベントに山道も高速道路も思い通りに走る快適さ、私はこの気の合う相棒を一生乗るぞ、といつも決めております。
※『クラシック・ポルシェ全図鑑』には遠藤氏所有の356が4台出ていますが、よく見ると当時所有されて いた356よりもさらに古い年式のものばかりです。
54年型356PreA マジョルカブルー色
55年型356PreA テラコッタ・オレンジ色
58年型356A1600S 赤色(三和ディーラー車)
59年型356A1600 マイセンブルー色
この2名の方の356~930あたりまでの所有車歴とインプレッションを読む限り、よく語られるSWBだとかLWBだとか67年911Sが最高だとかよく語られる話は当時リアルタイムで新しいポルシェに乗り換えられていた方は何も語っていないようです。それはそうかもしれません。毎年継続的に改良型のモデルが投入され、その都度オーナーは乗り継いでいっている訳でこれまで乗っていたものよりさらに良くなっているという印象なのかもしれません。この年式のこれが最高だというのは後年のそれぞれのクルマの評価がはっきりしてからのことにすぎないのではと思いました。
それにしても皆さん356でポルシェに感動したものの912にはがっかり(笑)、でも911はモデルチェンジをするたびに乗り換えても毎回感動があったようですね。
会報誌からの無断掲載ですので、このブログは早々に消去しようと思いますが、本日もブログを見ていただいてありがとうございました。