
一昨年、ポルシェ911は生誕50周年を迎え、世界的に様々な行事が行われましたが、それから少し遅れて本年、ポルシェ912も生誕50周年を迎えました。
912の記念イベントはというと・・・何もありません(笑)
ポルシェ912は1965年4月、901の廉価版としてドイツのソリチュードサーキッドでプレス発表。
名称は902。911ボディに356のプッシュロッド4気筒エンジンを搭載。
発表と同時に生産開始、翌5月から一般へ販売開始。(ポルシェ356の生産は9月まで)
912は最初から計画はされたものではなく、急遽決められた車種ですが、902という名称が付けられていることからその決定は901が911に変更される前に行われたようです。
356に比べ901が高価格だったことで営業政策的に投入されたといわれていますが、別の見方として、新型6気筒エンジンの生産が計画通りいかなかったことが原因とも言われています。
68年までは911に比べ912の台数の方が9,000台ほど多く生産されています。
1番の特徴は3連メーター、真ん中がタコメーターで目盛は7,000rpmまでしかなく6,000rpmからレッドゾーン。メーター廻りは911の木目張りではなく、ボディ同色ペイント仕上げ(のちに黒色)でした。
67年以降は911/911Tと同じ5連メーターが標準仕様となりました。
■PORSCHE912諸元表
生産・販売期間 1965年から1969年
エンジン内部呼称 616/36 616/39
形式名 912
形式 空冷水平対向4気筒 SOHC縦置き後輪駆動
総排気量 1,582cc
圧縮比 9.3 : 1
燃料供給装置 SOLEX40PⅡ-4
最高出力 90HP/5,800rpm
最大トルク 12.4mkp/3,500rpm
駆動系統 902/1(65年用)901/01,02(68年用)
変速機 4段手動、5段手動(オプション)
最終減速比 4.429
ボディ構造 モノコック 2ドア
フロントサスペンション 独立マクファーソン・ストラット/トーションバー、スタビライザー
フロントトーションバー直径 13mm
フロントダンパーメーカー ボーゲ
リアサスペンション 独立セミトレーリングアーム/トーションバー ダンパー スタビライザー
リアトーションバー直径 23mm
リアダンパーメーカー ボーゲ
ステアリング形式 ラック・ピニオン
ステアリングギア比 1 : 16.5
ステアリングロックtoロック 2.8回転
最小回転半径 5,150mm
フロントブレーキ ディスク
リアブレーキ ディスク
ホイールサイズ 4.5J×15
タイヤサイズ 165HR15
ホイールベース 2,211mm(65~68年) 2,268mm(69年)
全長×全幅×全高 4,163×1,610×1,320
最低地上高 150mm
車両重量 1,020kg
乗車定員 2+2名
燃料タンク容量 62リットル
■生産台数
30,896台 (912 Registryより)
68年からはVINに年度が入ったので正確にカウントされるのですが67年までは入っていないた
め正確な台数は?、30,300台説もあり
ボディはポルシェ本社工場(旧ロイター)製とカルマン社製の2種類があります。
65年モデル 1,263台(Porsche coupe 699台、Karmman coupe 564台)
66年モデル 10,430台(P 2,893台、K 7,537台)
67年モデル 7,249台(P 1,601台、K 5,104台、Targa 544台)
68年モデル 7,242台(P 427台、K 5,598台、Targa 1,217台)
69年モデル 4,712台(P 428台、K 3,483台、Targa 801台)
■日本国内での輸入・販売台数
西独ポルシェ自動車㈱の日本総代理店 三和自動車㈱により、65年から69年まで合計91台
が輸入されました。
クーペモデル90台、タルガモデル1台、うち右ハンドル車(英国仕様)は6台輸入
パトカー仕様4台(京都、愛知、静岡、神奈川県警)
65年・・・38台 (うち右ハンドル2台)
66年・・・11台
67年・・・16台 タルガ・・・1台
68年・・・18台 (うち右ハンドル3台)
69年・・・・7台 (うち右ハンドル1台)
■販売価格
65年~68年 クーペ 315万円、タルガ 350万円
69年モデル 305万円
※現在の貨幣価値に直すと315万円は3,300万円くらいです。
日本での912第一号車は最大のマーケットだった米国よりも早く、1965年5月17日(月)午後1時、東京プリンスホテル1階カメリアホールにてお披露目されました。
ミツワOBの松本さんの話によると当時ホテルで行う事は大変珍しく、1,000名を超える大勢のお客様でにぎわったそうです。
招待状
日本のポルシェオーナー及び熱烈な愛好家の皆様すべての方々同様、日本の皆様も、私の名前をつけた自動車で愉しく安全なモータリングをいつまでも御楽しみくださる事を期待して止みません。
フェリー・ポルシェ
此の度、西独ポルシェ社は、ファミリーなツーリングカーとして、ここにTIPE912の出現をみることになりました。つきましては、ポルシェ社の誇るこの新鋭車(912)を中心に展示会を催すことになり、各車種に備わる技術の粋と。特色のある性能をご覧いただきたく、ここにご案内申し上げます。
昭和40年5月17日 三和自動車株式会社 取締役社長 奥村昌美

抽選番号とドイツ風カクテルパーティーの案内
1位はカーテレビ、2位は真珠のネックレス、来場者はポルシェマーク入りタイピン
その時の自動車雑誌新車紹介記事です。
・『モーターファン』1965年7月号
NEW MODEL欄にポルシェ912が7ページにわたって紹介。
表紙は日本に輸入された第一号
・『月刊自家用車』1967年9月号
外国車紹介欄にポルシェ912が掲載
912は911の廉価普及版

流れるようなボディ・ライン

高速での操縦性と安全性は抜群

低速でもネバリのあるエンジン

風を巻き込まないサンルーフ
・『モーターマガジン』1967年10月号
ニューモデル車の紹介と解説に日本に1台だけ輸入されたポルシェ912Targaが掲載。
ポルシェ タルガ 912(西ドイツ)

・・・・いまポルシェは356シリーズを主体としたセカンド・ジェネレーションから 912と911の時代 つまりサードジェネレーションに入り バリエーションとしてタルガ・ボディを発表した・・・(提供 三和自動車㈱ 価格 350万円)

メッシュのエアクリーナー(Knecht wire mesh air filters)は後で交換したと思っていたのですが新車輸入時からついていたんですね。
この写真は73年ポルシェカレンダーに採用された912

72年6月、カレンダー用にとポルシェ本社から三和自動車にフジヤマ、ゲイシャガールを背景にポルシェ車を入れた写真を送ってほしいとの依頼が舞い込んだそうです。プロカメラマン、芸者さんを手配し、富士山バックに撮影を試みたものの、あいにく梅雨で撮影は断念、結局、65年に鶴岡八幡宮で撮ったこの写真を送付したところ採用となったそうです。
当時のカレンダーはポルシェファンにとって、大変貴重で、入手するには、クリストフォーラス(機関誌)の申込用紙に記載しポルシェ社に送り、ドイツマルクで送金して入手しなければならなかったそうです。
■PORSCHE912 セールスカタログ
ドイツ本国では912だけの専用カタログが下記の2種類発行されました。
・1965年4月発行(Printed in Germany)
・1965年11月発行(Printed in Germany)
一方、国内では当時の輸入ディーラーだった三和自動車㈱が911、912兼用のカタログを発行。
912単独モデルでのカタログはありません。
・66年式モデル
表紙
PORSCHE 912
911の新しいボディと356の信頼高いエンジンをあわせもった912
PORSCHE 911
うつくしく かつ空気力学にあくまで忠実なスタイリングからたくましく しかも時計のように精巧なエンジンまですべてあたらしく それでいてすべてのポルシェそのものの個性あふれるスポーツカー
Dr.フェルジナント・ポルシェ年譜(1875年-1951年)
カタログの裏面はスペック数値
・68年式モデル
表紙と裏面※このカタログの表紙はもちろん912です。(フロントガラスの右上に車体番号が貼ってありますがちょっと判読難しいです)

中を開くと

各モデルの諸元表
カタログの中にはこんな解説が・・・・
5=912のエンジン。
356時代から信頼性を誇る傑作。そのタフネスとフレキシビリティはあいかわらず抜群。
7=912のインストルメント。
全てのメーター・スイッチ・レバーは確認・動作の容易さを考えた理想的な配置。
・プライスリスト
68年式912の価格は315万円
《価格表》
912 COUPE¥ 3,150,000(東京、大阪渡価格、関税物品税含む)
TARGA ¥3,500,000( 〃 )
空冷・水平対向4気筒OHV 1,582cc
102HP(SAE) ソレックス2個
4速(5速装備可能¥100,000高)
標準カラー9色:オプショナルカラー22色
(各¥7万円高シルバーメタリックのみ¥13万円高)
TARGA ¥350,000高
タイヤ及びリム・タイヤ サイズ 6.9H15または165HR15
・69年式モデル
・プライスリスト
69年モデルから価格が305万円とプライスダウン
《価格表》
912 ¥ 3,050,000(東京、大阪渡価格)
空冷・水平対向4気筒OHV 1,582cc
102HP(SAE) ソレックス2個
4速(5速装備可能¥100,000高)
スペシャルペイント各70,000高(シルバーメタリックのみ¥130,000)
TARGA ¥350,000高
タイヤ及びリム・タイヤ サイズ 165HR15 5 1/2J×15
■ドライバーズマニュアル(912 DRIVER'S MANUAL)
左上から65-66年式、左中67年式、左下同年日本語版、右上68年式、右下のオレンジ色が69年式です。912の文字のデザインがちょっとづつ違います。
・66年式912 (1965年3月版)
・67年式912 (1966年11月版)
・68年式912 (1967年7月版)
・69年式912 (1968年9月版)
( )は各年式のマニュアル製作年月

日本語版の改定はなく1種類のみ、日本語マニュアルは74年から
(P)TYPE 912日本語ドライバーズマニュアル (2012年1月21日)
■広告について
ポルシェの広告といえば雑誌カーグラフィックです。
終ページにディーラーの三和自動車が毎月広告を掲載していました。
・1965年6月号『極秘 -- ポルシェが新型を出します!』

4月号、5月号で356の後継車911の広告を出していましたがいよいよ、新しいポルシェ(ナローポルシェ)の日本第一号がデビュー それはポルシェ912です!とアナウンスされました。
・1965年7月号『15年ぶり -- 初めてモデルチェンジしました!』

ポルシェの最新型”912”の第一号車が日本に到着
世界にさきがけて5月18日、東京プリンスホテルではなやかに発表会が開催
実際は5月17日に発表会は開催されたのですが広告ではどういうわけか1日ずらしてありました。なんででしょう?
・1965年8月号『恐れを知らず -- 飛ばせます!』

トラックでもなければ敬遠したいラフ・ロード。~我々のポルシェ912は遠慮えしゃくなく突破しました。
・1965年9月号『スリル充分 -- ただし安全!』

912に欠点があるとすれば---それは”速すぎる”ことだからです。
・1965年11月号『カム・レイン! -- カム・シャイン!』

けっきょく912でドライブするかぎり いつも上天気ということです!
・1965年12月号『4イン1 -- ポルシェ”タルガ”!』

来年になりますが、例によって輸出第一号車を日本へお届けする予定です。
とアナウンスしたものの発売は67年5月なので2年遅れとなりました。
・1966年1月号『短時間では -- わかりません!』

新しい912は もちろん より進歩しています!
67年式にモデルイヤーが切り替わったタイミング
・1966年5月号『もう一台 -- 並びます!』

麻布仲ノ町に麻布ショールーム開設
912と911さらにカレラ6も展示
・1967年8月号『ポルシェは ぜいたくなのか?』
912では唯一輸入されたソフトウィンドウのタルガです。
この67年式912タルガは2010年9月号のカーグラフィックに43年ぶりに再登場しました。
○新幹線を912が追い越した広告
・1972年9月号『 「これがポルシェなんですね」
訪問客は尊厳の眼ざしで言った。
「私たちを追い越した車だ」 』
(P)新幹線を抜いたのは912!? (2010年10月4日)
○912パトカーについての広告は4回出稿
・1968年8月号『ポルシェはなぜ選ばれるか?』
・1972年2月号『 「ポルシェの性能は極めて優秀」だが、パト・カー採用は見送られた。
「価格においてのみ難点がある」 』
・1973年4月号『 「規定があるから勇退したまでさ」
ポルシェ912は6年間の勤務を終えた。
「走れなくなったのとはちと違うぜ!」 』
・1973年5月号『 「ポルシェに乗りたくて志望した・・・」
パトカー隊で聞いたうれしい話である。
「そんな隊員がいるって、伝説があるよ」 』
2010年にアップした912パトカーブログ(結構追加で記事書いています)
(P)912パトカーについて (Porsche912 Japanese Police Car's Story)(2010年10月2日)
■Porsche912生産風景
912は西ドイツ シュトゥッツガルトにある洒落たレンガ造りの建物で組立生産されていました。
この当時、ベルトコンベアはなく一台づつ台車で移動しながらそれぞれの部品を専任の職人の手によって組み付けられていました。(とても愛情こもってますよね)
下記の写真は67年ごろのツッフェンハウゼン工場内の912組み立てライン
よく見ると、工場の右上、レールにつるされてFLAT4エンジンが下まで運ばれてきて車体に組み付けられているようです。
左側ラインにはタイヤが積んであり、ちょうど真ん中あたりで組み込んでいるようです。

シュトゥッツガルトのツッフェンハウゼン工場 912組み立てライン